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2016年4月23日

ケロズ

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チャスキーが通った道がスキ/南米旅行記インカ編 Tip of the iceberg News Paper #12

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相変わらずご無沙汰しております、カナダからケロズです。1月の後半から6週間の南米旅行に行ってきました。今回はマチュピチュまで続く45kmの”インカトレイル”を歩いた(走った)お話です。
ずっとずっとずーっと行きたかった南米のうち、ペルー、ボリビア、チリ、アルゼンチン、ブラジルの5カ国を山ヤギルイスと2人で巡ってきました。

皆さんご存知マチュピチュ。世界遺産にも登録されているインカ時代の古代遺跡です。行く前は正直興味がなく、多くの観光客とぎゅうぎゅうのバスでぴょっと行ってセルフィー!して帰って来る旅だけはごめんだ……と思っていたら、「マチュピチュまで歩いていけるインカトレイル」を発見!はいはい行きましょう!

さらによく調べると世界遺産なもんで、個人で勝手に山に入ることはできず、現地のガイドと共に道中にある通過点を通ることがルール。このトレイル上に1日に入れる人数は100人前後という制限もあって、ツアーを申し込むしかないのですが、事前にネットで調べたら6~7万円とたっ高い‥‥。それなら「現地行ってから交渉しよう!」と不安はありながらも予約せずに行くことに決定。

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まずはペルーの首都リマから世界遺産の古代都市「クスコ」にバスで13時間かけて移動。クスコは標高3400mの山合いにある都市で坂道を歩いただけで息が切れます。しかしここからが地獄の始まり…。私もルイちゃんも水にあたって、暴力的な嘔吐と下痢が止まらず悲しいダイエット大成功。あまりにひどくて病院にも行き、ついには相棒ルイちゃん「俺はニンニクサンドイッチを食べて治す!」と言い出し、どんなすごいもん作るんやと思ったら3欠けのにんにくをパンに挟んだだけかい……。

DSCF6986(しかしこの後、実際元気になった。笑)

痩せこけながらもなんとか元気を取り戻し、現地のツアー会社へ交渉タイム。私は数ヶ月かけて作ったスペイン語ノートをバンクーバーに忘れる失態を犯してあたふたしたものの、粘って探して食事やテント、寝袋、最寄り駅までの電車とバスのチケット全部含めて3万5000円のツアーに決定!よっしゃ。出発当日の早朝、クスコ市内から車で約3時間かけて登山口へ向かいます。ここで4日間を共にする仲間とご対面。ペルーの現地ガイド2人のほか、フランス、スペイン、アルゼンチン、ブラジル、オーストラリア、エストニア、日本人ケロズという多国籍グループ。みんな元気もりっもり。

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インカ文明は今から約600年前に栄えた文明ですが、その頃に作られたトレイルが一部修復を加えながらも未だ残っており、そこを歩くことができる歴史街道がこの「Camino Inka」。基本は3000m級の山々の間を歩き、最高地点は標高4200m。高山病のリスクが非常に高いため、現地ガイドさんに事前に持ってくるように言われたのが「コカの葉」。どこでも買うことができ1パック30円ほど。安。インカ時代から高山病や空腹感の抑制に効くとされ、山間に住む人たちにとってはなくてはならない存在です。頭痛やめまいを感じたらこのコカの葉を口に入れてよく噛んで、飲まずにほっぺたに溜めて成分がゆっくり吸収していくのを待ちます。そしてこれが本当に効く。何度か頭痛と胃痛があった私ですが、これを取ると見事に消えて、頭もすっきり。

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いくつかの通過地点を通る際、昔からの風習に習ってコカの葉を3枚重ねて山にお供えします。山の神様にこの先通ります〜という許可をもらうためだそうです。

またこのコカの葉カフェインが含まれているため、目も覚めます。コカ?コカってもしかしてあのドラッグの「コカイン」?と思ったあなた。その通りです。と言ってもドラッグのコカインを作るにはもう何十キロ何百キロ単位のコカの葉が必要らしく、私たちが山で取った量や使用法は全く別です。といっても日本では違法なのでお土産に持っては帰れませんが‥‥。それと一緒で「ムニャ」というこの地方特有の草も同じ役割を果たし、手ですりつぶして匂いを嗅ぐと高山病が治ります。実際高山病がひどく、嘔吐を繰り返していた仲間にガイドさんが「これが一番効く」といってやっていたのがこのムニャとアルコールを混ぜたものを手にとって思いっきり匂いを嗅ぐ、という方法でした。自然の力すごい。

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(これがムニャ。コカの葉よりもフルーティな香り。お茶にして飲むと美味しいらしい。)

標高3000mにもかかわらず、サボテン。日本やカナダで見た山の景色とはだいぶ違うなぁ。そしてこのサボテンにたくさん白い虫がくっついているんだけれど、ガイドさんがおもむろに手にとってすりつぶした!らなんと綺麗な赤色。

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インカ時代から染料として使われていて、日本ではニコチールと呼ばれる染料です。存在を知ってはいたものの本物を見たことがなかったもんで不思議発見!

さてここから少し歴史のお話。このインカトレイルを語るときに忘れてはならないのが「チャスキー」の存在です。言語が存在しなかったこの時代、この4000mを超える山々でどうやって他の集落や村に情報を伝達していたのか。そこで登場するのが走って情報を伝える役目を果たしていたトレイルランナー”チャスキー”です。

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(写真に描かれているのがチャスキー。)

文字がないため、紐に結び目を作って、その位置関係や距離、ひもの色で情報を伝えていたそうな。

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チャスキーはこのひもの束を持って山々を延々と走る。トレイル上には食事をとったり休憩したりするためお寺がいくつも設けられ、今でもその遺跡が残っていてチャスキーを形どった壁画もありました。

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そしてこのインカ時代にも速さを競うレースがあったらしく、私が歩いたトレイルとほぼ同じ標高4000mを超える約45kmのベスト記録がなんと3時間45分!!速すぎる。私が息切らしながら4日かけて歩いた45kmは一体何だったんじゃ……もちろん高地で生活しているため、普段から心臓が鍛えられているとはいえ、チャスキーたちは強かったんだなぁ。そしてこの旅をこの人の存在なしでは語れないというのが「ポーター」さんたちです。

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ポーターとはこのトレイルを歩くサポートをしてくれる人たちのこと。4日分の食料、テントや椅子、テーブル、ガスボンベなどの物資はこのポーターさんたちが運んでくれます。

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私たちのグループには12人のポーターさんがサポートしてくれ、1人なんと25kgずつ物資を分けて運んでくれます。私たちがヒーヒー言っている間にポーターさんたちはガンガン進む。それもあんなに大きな物資を背負って。食事も作るため、いつも必ず私たちより先にキャンプサイトに到着し、テント設営などを全てやってくれています。しかも彼らは冗談言いながらおしり蹴りあったり、笑いながらスタスタ登っていく。シューズもビーチサンダルみたいなんで登っている人も。良いギアなんて何にも身につけていないのにポーターさんたちまじ最強。

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(ビニールシートで手作りしたリュック。私これで25kgは絶対無理だ。)

ポーターさんたちはマチュピチュ周辺の山岳地帯に住んでいて、ケシュア語を話します。「アリアンチュ ワイキ!」(How are you?)とケシュア語で話しかけるとみんな笑って嬉しそうに声をかけてくれます。そんなポーターさんにチャスキーを重ね、さらにトレイルランナーの自分を重ねて思った!私もっと強くなりたい!そんでもって「チャスキーになりてぇ!
ということでポーターさんを真似してちょっとトレランしてみるとこれが究極に走りやすい!なんじゃこの絶妙な石の加減。向き。石がごつごつしているように見えたけど走ってみると滑らない、つまづかない。マジでスムーズに走れるのです。600年以上も前に作られたとは思えない強度と精密さ。

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これはマチュピチュの写真ですが、風、ナイフ一本も通さないと言われているこの建築。技術が発達していなかった時代にこれどうやって作ったんじゃ……。このトレイルも同じでインカ文明の神秘に驚きの連続でした。ガイドさんに「今の時代はスマホだの機械だのいろんなものが発達してるっていうけれど、いまだにこの構造を超えるものを作れていないし、解明すらできていない。時代は本当に進んでいると思うか?」というようなことを問いかけられ、どきっ。わからぬ。いや、本当にその通りかもしれない。というか、その通りだ。テクノロジーという名の下に、人間の考える力みたいなものの価値がすれ違って行っているような、なんかそんな気がした瞬間でした。インカ文明ありがとう!

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2日目の夜、キャンプサイトに着いてから少し周辺を散策していた時のこと。妙に心がざわざわする。後ろの山の方からなにか大きな圧力というか、パワーを感じてそれがあまりに強くて怖くなってキャンプサイトへ。そしたら夜ご飯の時にガイドさんが「このキャンプサイト周辺には言い伝えがあってインカ文明の霊が出ると言われています。誰か見たり、体感した人いるかな?」

がーーーーん

や…やべ……見てないけど、がっつりなんか感じた人ここにいるんですけど……他にもルイスが岩の上で瞑想してて目を開けたら数匹のコウモリがルイスの周りを旋回していたんだとか。山には不思議な力があるんだなぁ。あんまり幽霊とかオカルト的なことを信じない私ですが、この山に入っている時はそれが信じられ、普段の生活の中では感じることができない、想像にも及ばないことが起きているんだろうなと思う瞬間が何度もありました。

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そうこうしているうちに旅も終盤。スタートしたてはサボテンがあったりと乾燥地帯。その後は竹が生い茂るセクションや、熱帯雨林、湿地地帯など標高によって景色が移り変わって面白い。

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今回4日かけてゆっくり歩いて気づいたことは鳥も私を見ているということ。
走っていると鳥の声は聞こえる。歩くと鳥が木に止まっているのが見える。
ゆっくり止まって見つめると鳥も私をじっと見ていることが分かる。

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そんな単純なことに今まで気づかなかったな28年間。私は鳥をしょっちゅう見ているけども、鳥や動物も私を見ていたのか。変な人間来たで~ってチェックされてたんか。そうなのか。なるほど。それに気づいた瞬間の驚きは今でも鮮明に脳みそに刻まれております。あぁ自分は自然の一部なのかな、そうだといいな。

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そこからはマチュピチュの真後ろを通り抜けて、正面へ向かう最後のパート。マチュピチュに近づくにつれ、この4日間で見なかった綺麗に着飾って自撮り棒持った観光客集団とすれ違う度に、束の間の夢が覚めてしまったような悲しい気持ちになりました。山にこもっていたかった。

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それでもやっぱり自分で歩いて見つけて感じた喜びはお金や時間には変えがたく、感動の4日間となりました。マチュピチュはとんでもなく大きくて精密で確かにすごいんだけれども、私はそれよりもインカトレイル道中や、ポーターさんの姿にマチュピチュ以上のものを見たように思います。自然と対峙して生きることはこの先進国で生まれた私は難しいかもしれないけれど、将来は山の中に住みたいという野望が生まれました。毎朝3時起きと早いのですがポーターさんが入れてくれるコカの茶にお砂糖をいっぱい入れてがっつり目を覚ます一連の朝の儀式が懐かしく、恋しい。あぁ非常に恋しい。

その後は熱帯雨林のアマゾン、ボリビア、アルゼンチン北部へ。世界不思議発見で見たことある昆虫を見たり、山を見つける度に走ったり、アルゼンチン国境を3回のヒッチハイクで横断など猿岩石的なめまぐるしい体験をしましたのでまた今度お話しします。

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というわけで南米旅行を終え、2年のカナディアンライフが終わり、4月12日に日本に帰国しました。カナダに来る前は何か自分が変わるだろうかという期待があったものの意外とそんな実感はなく自分が変わるってのはそんな簡単なことではないんだなと。でも数日経って自然や街の見え方、見ている部分が少し変わったかもという気もしています。ただあまりにカナダに恋しており、未だ朝起きるたびに心が粉々にちぎれ、それを1日かけてつなぎ合わせるので精一杯。何も手につかないというのはこのことか……と痛感しております。

しみじみしている私ですが実はこのインカトレイルで芽生えた「森の中で生きたい」という野望を今年の秋からニュージーランドで実現すべく、帰国はその準備期間でもあります。そしてまた少しの間、ランボーで働くことになりました。5月の中旬までほぼ毎日お店におります!昨日からもう働いています!山、そしてランニングを喜びとする人たちに囲まれてまた働けると思うと嬉しいです。多くのランナーの皆様にお会いできることを楽しみにしております!
それではSee you soon!

keroz(ケロズ)

ランナー、1987年、新潟県生まれ。

本名吉村静。
京都造形芸術大学卒業後、
2010年、(株)アールビーズ入社。
マラソン大会の運営に携わり、
ランニング専門誌「ランナーズ」元編集者。
幼少期からとにかく走ることが好きで
国内外多くのレースに参加している。
フルマラソンの自己ベストは3時間39分56秒(2014年名古屋ウィメンズ)。

2014年からカナダへ渡航し、トレイルランニング、ハイキング、陶芸に没頭中。
足が速いだけでは勝てないマラソンなど、
今のオリンピック種目にはない新しいスポーツを作り、
その競技だけで行う「ケロリンピック」開催に向けて日々活動中。
さらに自分の生活に密着したスポーツマガジン”My Sports Magazine”制作にも力を注ぐ。

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PROFILE

ケロズ | Shizuka Yoshimura

ランボー地球支部として世界を探索、いろんな人の心に窓を作ることをテーマに記事を書いています。過去4年間はカナダ2年、ニュージーランド1年、インド・ネパール半年、その後少し日本を経由して、現在はカナダの永住権を取得、バンクーバーで生活しています。今後さらに北上、極寒の地でアートとアウトドアの境目をユニークに生き抜くために少しずつ準備中。走ることが好きで、ロード、トレイル、夢の中、どこでも走ります。昼寝と動物が好きです。2014年裸で走るレース「Bare Buns Run」バンクーバー大会女子優勝。また現在幻冬舎が運営するウェブサイト、幻冬舎+(プラス)にて、「北極かえるのコモンロー日誌」も連載中。

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