朽見太郎は限界を超えて。南アルプス冬季縦走レポートです。


Run boys! Run girls!サポートアスリートの朽見太郎さんが12月昨年末に厳冬期の南アルプスを縦走。冬季の雪に閉ざされたマイナス温度の過酷な行程をどう乗り越えたのか。本人のレポートをご覧ください。
朽見太郎さんは2年に1度開催されるTrans Alps Japan Race(TJAR)の2014年度の完走選手。TJARは日本海からスタートし、北中南のアルプス群を経て太平洋に至る過酷なレース。制限時間は8日間で総走行距離は415kmに及び、累積標高も約27,000mと通常のレースは遥かに超越した世界で行われます。

TJARに出場し、完走をする事ですら超人的なチャレンジなわけですが、今回のレポートは、そのTJARの南アルプス区間のコースを「厳冬期」に縦走するという過酷な条件が上乗せされたものです。

単純に想像しただけで、いくらでも困難やハードルが見えてきます。
まず寒い。すれ違う人もいない。積雪によりトレイルも見えない。零下を下回る気温での宿泊。ルートを誤れば滑落の危険。そして、とことん寒い(強調)。

まずこのようなチャレンジを思い描くことすら難しいでしょうし、そして完遂する困難さは想像の遥か先でしょう。夏場のコースを熟知していても、冬のトレイルは違う顔を見せてくるでしょう。何をどれだけ準備しなければならない?どんなリスクが発生する?時間と見込み、天候はどうなのか?

積み重なる疑問に予測して回り込み準備した回答を携えて、無事に下山までに至るレポートを以下よりお読みください。コース設定、ギア選択に至るまで細やかな推察と検討が行われています。2000m峰での縦走は実現できなくとも、それを実現するプロセスの中に気づきや発見が見つかることでしょう。

 

 

—「朽見太郎 厳冬期南アルプス縦走レポート」—

2016年12月29日から2017年1月2日まで、Trans Alps Japan Race(TJAR)の南アルプスコースを縦走してきました。
雪山を始めて3年目、「冬季ファストパッキング」の可能性を探りつつ、山岳ガイドさんの雪山講習会からスタートして、
冬の日本アルプスを少しずつ登り、今シーズンようやく実行に移すことができました。
この記事では、今回の縦走の概要とウェア・ギアの紹介、冬季ファストパッキングの可能性について紹介します。
今回のチャレンジには、Run boys! Run girls!さんからいくつかのギアの提供をいただきました。
これが無ければ今回のチャレンジは無かったと思っています。この場を借りて、あらためて感謝申し上げます。

【縦走の概要】
■コース(実際にかかった時間/山と高原地図コースタイム、天気、行動中の気温)
12月29日:柏木登山口→仙丈ヶ岳→野呂川越→両俣小屋泊(17時間/14時間20分)、曇り時々晴れのち雪、マイナス2度~マイナス12度
12月30日:両俣小屋→野呂川越→三峰岳→熊ノ平小屋泊(7時間/5時間30分)、晴れ、マイナス8度~マイナス16度
12月31日:熊ノ平小屋→塩見岳→三伏峠(12時間/10時間)、晴れ、0度~マイナス11度
1月1日:三伏峠→高山裏避難小屋→荒川中岳避難小屋(12時間/8時間55分)、晴れ、マイナス2度~マイナス9度
1月2日:荒川中岳避難小屋→椹島→畑薙ダム(13時間/12時間30分)、晴れ、2度~マイナス12度

荒川前岳から赤石岳・聖岳に行くのがTJARのコースですが、今回は日程の都合で荒川中岳から椹島へエスケープしました。
夏にこのルートを一般の方が小屋泊で歩こうとすると、仙丈・両俣・熊ノ平・塩見or三伏・高山裏or荒川・千枚or椹島、と順調にいって6泊7日でしょうか。
このコースを選んだのには理由があります。

・年末年始に長期縦走できる日本アルプスの中で、比較的天候が安定しており雪の量も少ない。
(北アルプスは天候が厳しく停滞の可能性が大きい、中央アルプスは縦走するには短い。)
・無雪期に何度も縦走していて、コースの特長やエスケープルート、方角、小屋の位置、コースタイムなどが頭に入っている。
・一昨年、去年と部分的に冬季も縦走していて、冬季の未踏区間が少ない。
・全ての小屋が冬季も開放されていてスケジュールの変更など臨機応変に対応しやすい。

■主な装備
・ギア、ウェアについては以下を参照。
・寝具 シェルター(ヘリテイジ クロスオーバードーム)、寝袋(Highland Designs Winter Down Bag UDD)、テントブーツ(Highland Designs Down Socks UDD)、フード(Highland Designs Down Hood UDD)、マットは以下を参照。
・食料 アルファ米10袋、ミックスナッツ1.5kg、チータラ750g、エネルギーバー(meridian)24本、電解質タブレット(nuun)6錠
・火器 460gガス缶(PRIMUS IP-500T)、ガスストーブ(PRIMUS P-115)、ポット(TOAKS Titanium 750ml Pot)、100円ライター、防水マッチ
・水を保管するもの 900ml保温ボトル(THERMOS FFX-900)、500ml保温ボトル(TIGER MMZ-A050)
・その他 GPS(Garmin GPSMAP 64SJ)、ザック(Osprey MUTANT 38)、サングラス(Julbo Cameleon)

今回スコップとスノーバーは持っていきませんでした。
これ以上削ろうとすると、寝袋をスリーシーズン用にしたり、食料やガスの量を減らしたり、ボトルをプラティパスに変えたりといったところでしょうか。
ただ、夏と違って、寒くて眠れない、停滞で食料が足りなくなる、水が凍るなど、削った分だけもろに影響がでるので、
余裕を見ておく意味でもこれ以上の軽量化は今後もしないと思います。

■1日の行動(例)
4:00 起床、朝食
5:00 朝食で使った分の水を雪を融かしてつくる
6:00 着替え、テント撤収、出発
(この間休憩を1時間半に1回、5~7分程度)
18:00 到着、テント設営、着替え、水をつくりながら夕食
20:00 就寝

日の出前後から行動し始め、12時間程度行動するのを基本にしました。
冬季はルートファインディングが難しいのと、寒さでヘッドライトのバッテリーの消耗が激しいため、明るい時間帯の行動にしました。
8時間以上は寝ていたのと、汗をかかないように+5~6日間動き続けられるようにペースを抑えたので、筋肉痛にはなりませんでした。
雪山はどうしても出発準備に時間がかかります。
シューズやゲイターを履く(冬季はテントの中で履くのが基本)、寝袋・マット・テント等の撤収とパッキング、スノーシューやアイゼンの装着、グローブやサングラスなどをつけたり。
これだけで20分、30分かかることもざらです。
朝の出発真際は冷え込みが一番厳しく手先もかなり冷えるのですが、寒さもあり日中はあまりまとまった休憩がとれないので、
素早く、でも雑にならず丁寧に朝準備をして出発することが、快適な長時間行動につながります。

【ウェア・ギアの紹介】
雪山と言えばアイゼン、ピッケル、スノーシューなど、雪山ならではのものを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
ただ、ウェアについて言えば、無雪期・トレランと兼用できるものもたくさんあります。
今回使用したものでお店で購入できるものと、今回のために提供いただいたものを紹介します。

■今回使用したものでお店で購入できるもの
・手袋 OUTDOOR RESEARCH/BIOSENSOR LINERS(→詳細は下の「今回提供いただいたもの」へ)
メリノウール95%のインナー手袋。
メリノウールの手袋は各社から発売されていますが、このモデルは本当に「シンプル」です。
程よい厚さと十分な保温性、伸びるので指を動かしやすいのも◎です。
お求めやすい価格設定とスマホ対応なのもオススメなポイントです。
今回は行動時・就寝時とも24時間つけ続けていました。もちろん春・秋のファストパッキングにも大活躍間違いなしです。

・手袋 AXESQUIN ライトシェルサーマルグローブ(→詳細は下の「今回提供いただいたもの」へ)
5本指で防水用の目止めがされた薄手の防水グローブ。手の甲側に薄手の保温材が封入されています。
風のない樹林帯であれば、このグローブとインナーグローブを組み合わせることである程度の標高まで対応可能です。
長時間の雨ではさすがに保温材が湿ってきますが、薄手のウールグローブと組み合わせれば無雪期でもかなり厳しいコンディションまで対応できます。
今回は初日のハイクアップや最終日の標高が下がってから、昼間の暖かい時間帯に使用しました。

・手袋、ベースレイヤ finetrack スキンメッシュグローブ
ロングスリーブ、ロングタイツご存じfinetrackの網のグローブです。
定番ですが、4シーズン使用可能で、冷えを感じにくく水分も吸収しにくいため夏でも冬でも安心して使用できます。雪山では凍傷に特に気をつける必要がありますが、これをつけていることがある意味「保険」になると思います。今回はグローブ、長袖上下とも、行動時・就寝時とも24時間つけ続けていました。

・インサレーション finetrack ポリゴン2ULジャケット
2016年のTJARでも使用しました。もちろん4シーズン使用可能で、無雪期のファストパッキングでも大活躍です。
無雪期にこれを選ぶのは、暖かさと軽さのバランスがすばらしいからなのですが、冬にこれを選ぶのは「ムレの無さ」です。
濡れても保温力が落ちにくい、軽いのはみなさんが勧める理由でまさにそのとおりです。
ただ、プラスして、これを行動着として着ると、ムレの無さと適度な保温力に驚きます。
今回は朝の行動開始時からカラダが暖まるまでと、稜線での行動時、就寝時に使用しましたが、この万能さにはあらためて驚きでした。

・ミドルレイヤー Patagonia キャプリーン・サーマルウェイト・ジップネック・フーディ
これも定番ですね。トレランやファストパッキングをされる方なら1着は持ってる方も多いのではないでしょうか。
保温着としてのイメージが強いと思いますが、これを雪山の行動着として使うと、「汗処理」能力の高さに驚きます。
特に風がほどよくあるコンディションでは、保温性と通気性がうまく両立して最高に着心地のいいウェアです。
トレランでも、春や秋、標高の高いコースや夜間では、防寒着としてだけでなく「行動着」として積極的に使えると思います。
今回は行動時・就寝時とも24時間着ていました。

■今回提供いただいたもの
【DSC_687.JPG】
・スノーシュー
メーカー:NORTHERN LITES SNOWSHOES
モデル:Race
重量:917g(去年までの使用ギア1,810gからマイナス900g)
トレイルランナーにとって、いきなりアイゼンやピッケルは敷居が高いのではないでしょうか。
冬はそんなに高い山には行かない、だけど冬も山のアクティビティを楽しんで、ちょっとしたトレーニングにもならないか。
そんな方には、スノーシューでの雪山ハイク、スノーランをオススメします。
スノーシューが使えるフィールドで一番身近なのはスキー場です。
スキー場やその近くにはスノーシューを借りられる場所が多くあり、スキー場周辺にスノーシュー用のコースが設けられているところもあります。
また、スノーシューを履いた雪上ランニングレースも開催されています。
通常の登山用のスノーシューは片足800g、900gと重いのですが、レース用ではこのモデルのように片足500gを切るものもあります。
その中でもこのモデルは、ゴムバンド2か所で靴の上を止め、さらにかかとを締め上げられるのでしっかりと固定することができます。
また、このモデルは耐荷重(浮力)は75kg程度までとなっていますが、今回私の体重(63kg)+荷物17kgの計80kgでも、
日本アルプスの縦走をなんなくこなしてくれました。浮力も耐久性もすばらしいです。
ワカンより片足約100g重いだけで浮力は十分、登山ではアイゼンとワカンを組み合わせる人もいますが、
トータルでの行動スピードを考えたときに、私なりのたどり着いたのはやはりスノーシューとアイゼンを持つことでした。
スノーアクティビティにも雪山縦走にも使える、素晴らしいモデルだと思います。

・バラクラバビーニー
メーカー:finetrack
モデル:バラクラバビーニー
重量:54g
冬は、山だけでなく、ロードを歩いたり走ったりしていても、頭・鼻・口・首が寒いと思う方は多いのではないでしょうか。
もちろん、ビーニー、BUFF、耳当て、ネックウォーマーなどを組み合わせれば暖かく過ごすことはできますが、
意外と、かさばります。特に低山トレランで、これらの小物をバックパックに詰めると、「思ったよりスペースとるなー」と思う方も多いのではないでしょうか。
これ、いわゆる目出し帽(バラクラバ)とビーニーが1つにつながっているモデルです。
とても軽くて、想像以上に暖かく、しかもよく考えられた配置となっています。そしてかさばらない!
そしてこのモデルの特徴が、口のところに息をする用の換気口があるところです。
冬の山は日射しが強く、雪があれば反射して雪盲になる可能性もあるので、夏以上にサングラスをするのが大切です。
この時に、普通のバラクラバだと息が当たってサングラスが曇る。このモデルはそれを抑えてくれます。
実際アルプスでは、マイナス10℃以下でも鼻・口は快適で首は暖かい、ビーニーとセットなのでズレも気にならずフィットします。
低山から高山まで対応するモデルでもあるし、ロードのランでも真冬に使えばものすごく便利で、外に出るのもおっくうになりませ
ん。

・保温グローブ(薄手)
メーカー:OUTDOOR RESEARCH
モデル:BIOSENSOR LINERS
重量:47g
親指と人差し指の指先がスマホ対応となっていて、それ以外はほぼメリノウール100%の薄手の保温グローブ。
これ、ものすごく「ベーシック」です。実はベーシックなウールの薄手グローブって、けっこう少ないんです。
他社のモデルも工夫が凝らされていて、化学繊維が混紡されていたり、より手にフィットするようにデザインされていたりとモデルは豊富です。
このモデルを選んだのは、メリノウールほぼ100%で薄手で、手を過度に圧迫せずほどよく伸びること。
特に冬は指先の血行を維持するのが大切なのに加えて、条件によってグローブを二重三重にするので、
とにかく「ベーシック」なのが一番、厚すぎず・薄すぎず・どんな他のグローブにも合わせられる暖かいもの、それがこれです。
真冬のこの時期は、グローブ1枚では低山やロードも寒いという方は多いのではないでしょうか。
そんな時にこれを持っておけば、単体でも組み合わせでも使えて心強いと思います。

・防水グローブ(薄手)
メーカー:AXESQUIN
モデル:ライトシェルサーマルグローブ
重量:51g
5本指のグローブで、シームシーリングがされた防水モデルというのは本当にめずらしいです。
しかもこのモデルには、薄手の保温素材が入っているので、単体使用でも暖かく、他のグローブの外側につければある程度の雪山の環境まで対応することができます。
私はこのモデルを雪山を始める前から夏でもずっと使っていて、風の強い稜線に出るまではこのグローブの内側にウールの手袋をつけて使用しています。
ロードでの使用でも快適なのですが、このグローブは他のグローブと組み合わせてこそ効果を発揮すると思っていて、
特に100マイルレースなどで夜間や防寒用にグローブを2枚持つ時の外側にとてもオススメです。
今回のアルプス縦走でも、樹林帯ではほぼこれでした。薄手なのでストックも持ちやすくストラップの長さ調整などをしなくていいのも良かったです。

・マット
メーカー:NEMO
モデル:TENSOR INSULATED 20S
重量:265g
このマット、ファストパッキングへ超オススメです!
このモデルは保温材が入っていて最低使用可能温度域はマイナス9℃となっていますが、
今回のアルプス縦走でマイナス10℃以下になる環境でも、下からの冷気を感じることは全くありませんでした。
マットを軽量にしようとすれば、どうしてもクローズドセル(硬い発泡スチロールのようなもの)になるのですが、
雪山でクローズドセルはとてもかさばって、ザックに外付けしたりすると夏でも冬でも枝に当たって傷ついたりします。
これは空気を自分で吹き込むタイプなので、小さくたたむことができ、いわゆるジップロックの中間サイズにまで入ります。
このスペックでこの重量、マットとしてはかなり反則な軽さです。そして寝心地かなり良く、ずれにくいです。
保温材の入っていないモデルは20g軽くなります。とにかくコンパクトに、軽量にパッキングしたいけど、マットの寝心地は欲しいという方にマストなアイテムです。

・ゲイター(スパッツ)
メーカー:OUTDOOR RESEARCH
モデル:バーグラスゲイター
重量:片足208g(去年までの使用ギア227gからマイナス20g)
トレイルランナーの方はゲイター(スパッツ)を持っていない方も多いのではないでしょうか。
ゲイター、スノーシューやスノーハイクではマストなアイテムです。
いわゆる登山靴だけでなく、トレランシューズにも簡単につけることができ、雪の進入を防いだり、くるぶし周りを濡れから守ってくれます。
ただ、雪山対応となると、意外と重い! 片足150g、200gといったモデルもあり、軽量トレランシューズ1足分にもなります。
このモデルは軽量にもかかわらず、アイゼンガード(アイゼンでひっかかった時にやぶれないよう補強材が内側に使われている)があります。
また、モデルによってはジッパーで締めるものもありますが、これはマジックテープで締めるので、寒い環境下でも簡単に着脱ができます。
このモデルは膝下までありますが、他に脛あたりまでのハーフスパッツもあります。
ライトなスノーアクティビティや、水の多いコースコンディションの時にオススメです。

・登山靴
メーカー:LA SPORTIVA
モデル:TRANGO ICE CUBE GORE-TEX
重量:片足690g(去年までの使用ギア1,000gからマイナス310g)
今回のアルプス縦走で、効果絶大だったのがこれです。
最初、シューズ選びでは、今シーズン各社から出ているスノートレイル用の、トレランシューズと登山靴の中間モデル(400g~500g)のものを検討しました。
中間モデルのものでも、12本爪のフルアイゼンがつけられたりと、最近のシューズの進化はすごいです。
ただ、今回は3,000mオーバーの高所雪山縦走。当然マイナス10℃以下になります。
その時に、もう少し保温性はあるけど軽い登山靴は無いか、探してたどりついたのが、この超軽量のアイスクライミング用モデルです。
このモデル、普通の登山靴よりも足首が動かしやすいので、ストレスなく動き続けることができます。
動き続けるからこそ、最低限の保温力でも足を暖かいままにしておくことができました。
トレランシューズのように「走る」ことはできませんが、雪山を「早歩き」するには十二分なモデルでした。
中間モデルと通常の登山靴の、それこそ「中間」ではないかと思っています。
雪山入門用ではありませんが、ファストパッカーの2足目、3足目の選択肢としてはありだと思っています。

・アイゼン
メーカー:CAMP
モデル:XLC nano tech step in
重量:片足239g(去年までの使用ギア片足460gからマイナス220g)
12本爪のアルミ製のアイゼンです。前の2本は合金が使われていて、かなり氷化した場所でもささりました。
本来的にはバックカントリースキーであったり補助目的で使うものなのですが、
今回縦走した南アルプスはそれほどシビアなコンディションではないこともあり、十分使用に耐えうるものでした。
5日間フルに使いましたが、思ったほどアイゼンへのダメージも少なく、まだまだ十分使えそうです。
しっかりしたチェーンスパイクとほぼ同じ重さなので、登山靴のところで書いた最近発売されている「中間モデル」に合わせるのに最適なモデルだと思います。
雪山入門用ではありませんが、使うコンディションや使用者の経験次第で色々な場面で使えるモデルです。

・ピッケル
メーカー:CAMP
モデル:CORSA NANOTECH
重量:250g(去年までの使用ギア430gからマイナス180g)
同じくアルミ製のピッケルです。ピックと石突きに合金が使われていて、こちらもかなり氷化した場所でもささりました。
アイゼンよりもこちらのピッケルの方が、より耐久性が高くシビアなコンディションでも使えるものだと感じました。
とても軽くてかさばらないので、これを1本お守り代わりに持ってスノートレランするのも十分ありだと思います。
アイゼン、ピッケルとも、シューズの「中間モデル」と同様の位置づけで、コンディションや使用者の経験次第で、面白い使い方ができるものだと思います。
三浦雄一郎さんのエベレスト登頂でも使われていたことに最近映像を見ていて気がつきました。

【冬季ファストパッキングの可能性】
ファストパッキングと言うと、軽量な装備を最低限だけ持つイメージがあると思います。
ただ、雪山を縦走する以上、悪天候で停滞する可能性などもあり、食料やウェアなど、夏以上に「余裕」を見ておく必要があると思います。
実際、今回、食料は1kg、500gのガス缶は半分以上残り、ウェアも予備のベースレイヤーやグローブなどは使用しませんでした。
夏であれば、この記録を基に次回はもっと削っていくと思うのですが、冬でこれ以上削ることはできないと思っています。
それが、夏と冬のファストパッキングの違いだと思います。

だけど冬季であっても、25kg、30kg背負う縦走登山より「速く」動けるから「ファスト」パッキングなのであって、
「余裕」は見ても、「余計」なものは持っていかない、ということなんだとも思います。
今回、カトラリー類は750ccのチタンポット1つだけでした。雪から水をつくるのもこれで済ませました。
食料はミックスナッツ、アルファ米、チータラのみで、お湯を沸かす以外調理の必要のないものに絞りました。
もちろん冬山で作って食べるキムチ鍋は絶品なのですが、その分大きな鍋や具材、燃料が必要になります。
行動終了後の山の生活を楽しむも良し、今回のように「より遠く、より速く」を目指して軽量化を優先するのもありなのかなと思っています。

荷物の軽い方が登山道でよろけたりせず安定して歩け、体にも負荷が少なく安全、これは冬でも同じだと思います。
必要なものは持ちつつ、冬季に必要な+αを見越し(これだけで1~2kgぐらい増)、だけど余計なものは持たない。
突き詰めていくと、2泊3日以上+標高2,500m以上の冬季ファストパッキングはおそらく、ザック重量14~15kg程度に落ち着くと思います。
あとは登る山の標高など条件に応じて、例えば標高の低い山ならテントや寝袋を軽量化するなど、調整していくことになるのかなと考えています。

目指すところは200マイルレース・TJARなのになぜ雪山をやるのか、よく聞かれます。
標高2,000、2,500mで寝泊りすることで、年間を通して高所にカラダを馴らし続けるというのが第一にありますが、
やはり夏山とは比べものにならないほど景色が素晴らしいというのが大きいです。
特に日本アルプスの冬は本当に絶景、厳しいコンディションのなか次の山次の山へと進んでいくことで、
一般の登山者のスピードでは見られない絶景を、1日でいくつも楽しむことができます。


【1日目、地蔵尾根から南アルプスの女王・仙丈ケ岳。】


【2日目の三国平の道中は雪に埋まりかけ、奥は農鳥岳。】


【3日目の塩見岳から仙塩尾根を振り返る。左奥が1日目登った仙丈ケ岳、右中央が北岳をはじめとする白峰三山。】


【4日目、小河内岳から富士山と元旦の日の出、下に見えるのは小河内岳避難小屋。】


【最終日、下山途中の丸山から悪沢岳】

雪山未経験の方がいきなり日本アルプスに登ることはできませんが、
今は山岳ガイドの方やメーカーが開催する雪山入門講習会がたくさんあります。
私も、山岳ガイドの方の雪山講習会に計4回参加し、1年目は日帰りのみ、2年目はようやく1泊2日(2泊3日は1回)、3年目の今シーズンようやく長期縦走と少しずつステップアップしてきました。
トレランやランニングをされている方なら体力は十分だと思いますので、
ぜひ雪山の基礎を身につけて、冬の山も楽しんでもらえれば嬉しいです。

—(了)—

いかがでしたでしょうか。最後まで読んでいただければこのチャレンジもひとつひとつ経験値を積み重ねて(必要な体力と合わせて)実現した行程であることがわかります。また、とてつもなくハードルの高いチャレンジであることは間違い無いのですが、本人のレポートにもあるように、南アルプスの天候、既に把握しているルートであることや、冬季の縦走経験もあるエリアであること、小屋の状況など、リスクに関してしっかり考えた上でのチャレンジであること。また、最終的にエスケープをして無事に下山をしていることを改めて伝えておきたいです。登山において一番重要なのはその工程のチャレンジの度合いではなく、無事に下山すること。朽見さんはそのことを常に慎重に考えています。

そういったことも含め、彼のレポートからは、チャレンジの精神、雪山の魅力など、様々なものを感じることができます。今回の山行は誰にでもできることでは無いし、経験の乏しい人やリスクの見積もりをしっかりできない人には決して真似しないで欲しいですが、このレポートが、読んだ人に「冬の山にもチャレンジしてみよう」ってモチベーションを与えたり、「準備やじっくりとステップアップすることって大切なんだな」という認識を深めたり、そういうきっかけを与えられればいいなと思っています。これを読んでハードルの高いことをして欲しいわけではありません。 ハードルの高いことをしなくても、基礎を身につけて雪山を楽しめるようになれば、1年を通して山を楽しむことができます。雪山の経験を通じて、ひとつ世界の広がりを感じてもらえたら嬉しいです。(鷹巣)