夢の谷間のパンケーキ #Tip of the iceberg Newspaper 17


さてさて今回は私の胃袋のお話。2ヶ月半の旅の中で味わった空腹感と食べ物に対する心の変化についてお話ししていきます。イラスト/Goo

好き嫌いなく何でも食べ、お料理することも好きな私がこの2ヶ月半の旅で体験したこと。それは紛れもなく純粋で強烈な「空腹感」でした。

今回は最長で7日間分ほどの食料を持って山の中に入らねばならないことがあったので、とにかく軽く、長持ちして、美味しくて元気の出る食事ということでど定番の「オートミール」中心の食料を持って行きました。スーパーでドライフルーツやナッツ、スパイスをなどを買ってきて混ぜるだけ。甘いものだけだと飽きそうだからということでナッツとキノアがメインのカレー風味ごはんもせっせせっせと作り、出発しました。

「お~アウトドアって感じ!」と思ってエンジョイできたのは最初の数日間で、トンガリロ火山4日間を歩き終えた時にはもうオートミールにまじで飽き飽き。たった4日間だけれどされど4日間。その後ワンガヌイ川を5日間かけてカヌーで下っている時に事件は起きました。

ちなみにこのワンガヌイ川は先住民マオリにとって大切な川。そんな川に向けて政府が今年3月、「このワンガヌイ川に人間と同じ地位を与える」という条約を締結。傷つけたり、汚したりしてはいけない。でもそもそも自然ってみんなそういうものじゃないの?と思ってしまった私はあまりこの条例の意味が理解できていない‥‥。う~ん?しかしマオリの言葉で””I am the river and the river is me”.というのがあり、マオリにとってこの考えは珍しいことでもないそうな。同僚のマオリの子に聞いたら、これはすんごく大きなニュースで喜ばしいとのこと。ふむふむ。なかなか興味深いトピックでした。


(ワンガヌイ川は流れがゆっくり。私はカヌー初心者ですが、5日間問題なしでした。)

さてさて進んでいくに連れ、鬱蒼と生い茂る緑の景色とは裏腹にだんだん強烈な空腹感が襲いかかってきたのです。「にんにくのたっぷり入ったラーメンが食べたい。いやかつ丼と‥いや、カツカレーがいいな‥‥。とろろそばもついでに‥‥。」そして後ろで私の分までがんばってパドルを漕いでいるルイスを見ると「ケロちゃん、自分でも信じられないし、普段なら絶対こんなこと考えないんだけど、今無性にチーズがいっぱいのったピザが食べたいよ。」と言うのです。

ルイスは野菜が大好きで、油っぽいものもあんまり好んで食べたりしないのに、そのルイスから出た驚愕の一言「ピザ」。そして私まで無性にピザが食べたくなるという始末。別の日にも豪快にアボカドをスプーンであーんと食べている人を見て、涙がほろり、胃袋きゅーん。「とろっとした、油っぽくて、クリーミーなものが食べたい、、、」。苦しい。

やっとの思いで到着したキャンプサイト。いつもの通りまったく食欲をそそらないオートミールを作っていると、この川で出会ったフランス人カップルが「おつかれさん~」とお出迎え。一緒に夕食を食べていると突然衝撃的な言葉が飛んできたのです。「シズカ、チーズとサラミいる?」


(途中カヌーを下りてショートハイキングも楽しめる。この橋はBridge to Nowhereといってどこへも続かない橋。本当にこの先何もない。)

「え、、」私は初めそのあまりに奇跡のような言葉を理解することができませんでした。「そんな夢みたいな一言あるはずがない」と思いつつ、声を発する前におなかが「ぐー(つまりYES。)」ということでひょいっとチーズを手のひらにのせてくれました。私はそのまばゆいクリーム色と、熟成された匂い、塩味に食べる前から涙が出そうでした。

そして口に入れた瞬間思った「ううんますぎるうう。」その後サラミもお言葉に甘えていただきました。こちらも私が長い間求めていたもの、ABURA。昔オーストラリアの友人がアラスカを旅していて、おなかがまじでぺっこぺこ、寒すぎて全然元気が出なくて疲れ果てていたところに、地元民が鯨を分けてくれて、それを一口食べたらめっちゃくちゃ元気になって体がほっかほかになったという話をふと思い出しました。もりもり元気が湧いてきて、この夜ぐっすり眠れたことを覚えています。

(くるみを見つけて拾って食べた。栗も拾って炒って食べた。食べれる実、草は何でも試す。)

その後数々のアップデートを重ねました。まずはこのフランス人カップルがくれた最強の王道、チーズとサラミ。これだけはこのあと最後まで切らさずに持ち歩いていました。トレイルで出会った人、ホステルのオーナー、地元民、いろんな人に「ザックの中見せてください」と言っていろいろ試しました。


(別の旅人が分けてくれたお手製のサラミ。ありがたすぎた。美味しかった。)

ニュージーランドのロングトレイル「TE ARAROA」を横断中のAdamという友人は「空腹にはだんだん慣れてきたけど、コーヒーだけはいいものが飲みたい」といってインスタントではなく、炒ったコーヒー豆(結構でっかい袋)を持ち歩き、いつもフィルターでコーヒーを淹れて楽しんでいるとのこと。「美味しいコーヒー恋しいやろ?」ということでヒーコーを作ってくれました。みんな優しい。涙

これまた別のトレイル上で出会ったスウェーデン人アクセル。初めて彼を見た時から何か人と違うオーラ、いや、違う、あきらかに一人だけショートパンツの丈が短い!笑

(昔アメリカを旅行してた時に見ず知らずのおっちゃんがこのショーツくれて、足の動きに抵抗するもののないスタイルがロングハイクには最高。とのことです。)

そんなアクセルもザックを軽量化するためにいろいろ試行錯誤しているらしいのですが、絶対に外せないのが、スウェーデン式ストーブ。何度も何度も軽量の小さなストーブを買うことを考えたそうなのですが、小さい頃からこればっか使ってるから結局他のに手が出ないそうな。持ってみたけど重かった!笑 でも自分の「これよ!」というお気に入りがあるのはいいなぁ。

またここで紹介したいのがオランダ人のバイクパッカーカップル。2人はオランダにあった仕事も家もぜーんぶ売り払って旅をすることに決めたのだそう。今は無期限で自転車に荷物、愛、笑い、全部詰め込んでニュージー全土を横断中。


(なにかすごいことをやってのけてるんだろうというパワーを常に発しているヨギとヨシ。)

「俺たちがアフリカを8ヶ月間自転車で旅してた時、何にもないところを何日間も進まなきゃいけなくて、俺毎日トマト食べてた。店なんてないからね。朝ごはんにトマト、昼ごはんにトマト、おやつにもひとつトマトかじって、夕食にまたトマトって感じだな。」

すごいわこの人たち。私なんて1週間でおなかの虫が暴れたのに、、、。オートミールよりトマトの方がエナジーなさそうなのに。しかも水も確保するのが難しいからいつも37リットルの水タンクを自転車に取り付けてこいでたらしい、、、。強い。

その2人が12日間のロングトレイル用の食料ということで見せてくれた中に、「ココアパウダー」と「アーモンドミルクパウダー」ってのがあって、これがその後私たちが実践した中でかなりヒット商品となりました。これがホットチョコレートになったり、オートミールに入れたり、クッキーを焼く時に使えたりと大活躍。油分もあるのでおなかもいっぱいになる。途中から調子に乗ってでっかいチョコレートも持参。ザックが全然軽くならない!笑

そのほか重いけれどいつも1kgのピーナッツバターに500gのはちみつも。あとはやっぱり日本の心、味噌。スーパーで見つけて慌てて買いました。これをルイスと2人で分けて背負う。そういう点では2人っちゅーのは荷物が分けあえるのでいいですな。もうこれで絶対大丈夫や!と思っていたものの、人間の欲望というものは尽きないのですね。まだ何か足りない。

結局2ヶ月間歩きに歩いて最終的に私たちが食べたくなったもの、それはめぐりめぐって新鮮な果物と野菜でした。きゅうりをみそにつけてかじりたい、ジューシーなりんごが普通に食べたい。野菜の入ったスープが飲みたい。ていうか日本食が食べたい、、、。

いろんなトレイルを歩いて足腰が強くなり、だんだんザックの重みが気にならなくなったこともあるのですが、もう頑張って重いの我慢するから、野菜持って行こう!そう思って2人で野菜を買い占め、かさばる重いザックを担いで歩き始めました。おかげで私たちの心は、「美味しい夕飯が待っている!」という前向きなものになりました。

(2人分の夕食のお野菜。今考えると普段の食事食べ過ぎてるな確実に。)

あとはりんごはさすがに重いので、自分たちでドライアップルを製作。フルーティーなのにお腹いっぱいになる。りんごを切ってオーブンに入れるだけとめちゃ簡単。ついでに軽い。街に降りたらホステルに滞在していたので、泊まる度に何かおやつを自作する。これが安上がり&元気モリモリで途中から旅の楽しみの一つになりました。

しかし人生とは本当にうまくいかないのですね。Routeburn Trackという32kmのトレイルを歩いたあと、ルイスと疲れ切っていて「ホットケーキ食べよう」という話になり、街に降りて小麦粉やら卵やら全ての材料を購入しました。胸踊るホステルまでの帰り道。あのふっくらとしたフォルムが私たちの想像力をかきたてます。そしてキッチンについて早々事件は起きました。普段何があっても動揺しないルイスの顔が真っ青。体調が悪いのかと尋ねると、思いもよらぬ一言が返ってきました。

「キッチンなのに、フライパンがないんだよ。」


イラスト/Goo

私は愕然としたのを覚えています。なぜそんなことが起こりえるのか。一体キッチンというのはなんなのか。どうしてこうも人生には困難が伴うのか。ふっくらとしたホットケーキの幻想ががたがたと崩れ落ち、体の力がするすると抜けていきました。底の深い鍋ではダメなのです。私たちが求めているのはたったひとつの、なんの変哲もないフライパンなのです。私たちは「今食べれないんだったら死んでもいい。」そういう覚悟をしていました。

まぁしょうもない話といったらそれまでなんですが、これはその時の心境、お腹の減り具合によってとんでもなくおおきな問題になるのです。でもせっかく買った材料を無駄にしないために、オーブンでありものクッキーを作りました。辛い決断でしたが、あとになってみると日持ちするので実際助かったという終わりよければすべてよし的な感じで締めくくりました。


(小麦粉全部使ったらクッキー100個くらいできた。)

あと最後にひとつ言いたいこと、ニュージーランドにはあまりレストランみたいなところがない!カフェやサンドイッチなどのベーカリーはたくさんある。そしてもう勘弁、というほどにフィッシュアンドチップスのお店もある。しかし言わせてもらうとフィッシュアンドチップスは個人的にはメインのご飯というよりはスナック、軽食的な分類に入るから全然満足できない!しかしこっちの人は夕ご飯とかに食べるらしい。ふーむふむ。

またニュージーランドの隠れた家庭料理?というかみんなが好んで食べているものに「トースティ」というものが存在し、これが個人的にはかなり衝撃的だった一品。トーストの上に、缶に入ったスパゲッティをのせて食べる、もしくはパンに挟んでトースターで焼いて食べる。炭水化物プラス炭水化物のコンビネーション。お好み焼きとご飯一緒に食べる感じなのか?

(個人的には興味をそそられないビジュアル。)

クライストチャーチ出身の友人に聞いたら、「え、トースティってみんな食べないの?」とあまりに生活に馴染んだ一品の様子。ファームステイしていた友人も、夜ごはんにトースティが出てきて最初何が入っているかわからなくて驚いたとかなんとか。でも場所によって全然違うんだろうなぁ。南島の北側エリアのGolden Bayというエリアでは新鮮な野菜やフルーツが無人販売で売られていて、これを巡るのが楽しかった。


(野菜、フルーツ、どんぐり、種などいろんなものが売っている。安い。)

Takakaという町では秋の収穫祭みたいなのやってて、そこでも美味しいものがわんさか。


(収穫祭はかなりほのぼのムード。ハーブガーデンがあって、お気持ちをドネーションするとハーブを好きに取っておっけー。)

あとホステルやキャンプ場内のガーデンにあるフルーツは「自分で好きに取って食べていいよ」というところが多くてこれはかなり嬉しかったことの一つ。基本的には何も手入れしてないので無農薬だし新鮮だし。味も絶品。ありがたかったです。


(無農薬のフルーツはなんか中身がぎゅっと詰まっている気がする。)

あと海沿いにはニュージー特有の植物「KAWAKAWA」という葉っぱがもりもり生えていて、これを食べるとめちゃ元気が出る!味は苦いけれどミントみたいな味がして、お腹が弱っている時やムカムカしている時に食べるとスーッと気持ち悪いのを鎮めてくれます。これもマオリの神聖な植物だそうで、葉っぱをもぎる前に葉っぱに「いただいてもいいでしょうか?」と尋ねて、「いいですよ」と聞こえたら、とっていいのだそう。また虫が食べて穴がいっぱい空いている葉っぱの方がさらに栄養があるという話も聞き、私は穴の空きまくった葉ばかり食べていました。いま私が住むウェリントンでもどこでも生えていて、走っている途中にもよく食べています。筋肉の痛みなどを和らげる効果もあるらしく、このカワカワが配合された筋肉クリームみたいなのも売られています。

(トレイル上に落ちてたカワカワ。無駄にしないためにもちろん食べました。)

まぁ今まで書いてきたことはきっとサバイバル本とか、キャンプ、バックパッカーの心得みたいな本を読めば書いてあるかもしれないし、想像できたことでもあるんですが、先に本を読んでそれを避ける方法を知っておかなくて良かったなぁと今となっては思います。というのは自分を実験台にしていろんな食事や食べ物を冒険するのが面白かったからです。

あとあんなにいろいろ油っぽいもの、甘いもの、クリーミーなものが食べたいと思っていたのに、都市に帰ってきて一口食べるとなぜだか一瞬で飽きてしまう。莫大に膨れ上がった幻想の一皿とは裏腹に、私の本能的な部分が違うものを呼んでいるように感じるのです。

それはおそらくこの2ヶ月間自然の中で最低限の食事をとりながら歩き続けた結果、舌が繊細というか、敏感になってるのかしらと。街に戻ってきて食べたかったものがすぐに手に入る幸せ、手軽さに感謝はするものの、それは私が一番に求めていたものではなかった、ということにも気づいたのです。



(海の洞窟探検にて)

甘いものは美味しい。でも思った。世の中のスイーツ甘すぎる。極端に甘い。スーパーで売られているお菓子たち美味しいけれども甘すぎる。私たち人間ちゅうのは欲望のままにもっと甘く、もっとかわいく、もっと大きいものが作れてしまうんですな。それが過剰だってことを忘れてしまう。なんかその虚しさというか、忙しい都会の中で生活すると、そういうことすら考えないどころかそれを欲しがる自分がいるんですよね。でも自然の中にいると、もちろんお腹がすくと欲しくはなるけれど、それを超えると自分の本能が本当に欲しがっているものを発見できるように思うのです。

そして食事ってのはやはり大事だなぁと改めて思いました。なにせ自分の細胞を作るんですもんね。今世の中には添加物や化学調味料、プラスチックまでもが入っているものがわんさかあるので、私たち消費者がスマートにならないといけない。そして食べるもので集中力や思考、ストレス具合も劇的に変わってくる。これはもうランナーのみなさんは体感しているとは思いますが、私は今回さらにそれを強く感じたのであります。まだまだ世界を歩きたい。そう思うとまだまだ食に改善点があるなと。ということで現在はまた野菜中心の生活に帰還。試行錯誤の日々です。そうそうウェリントンに帰ってきてからはアウトドアショップではなく、タイ料理屋さんとお寿司屋さんかけもちで働いており、おいしいアジアのご飯が食べられて天国、、、。。ふふふ。食について学んでおります。

ということで第2話、夢の谷間のパンケーキでした。次回は最終回となるヒッチハイク&人物編「快適を離れると自由になる」。そこで出会った人たちをメインにこの旅のまとめになります!ヒッチハイクはお金がないからするものではない!自分をぶん投げるためにある!(自分語録)

ではではまた次回~!ちゃお~!

keroz(ケロズ)

ランナー、1987年、新潟県長岡市生まれ。

本名吉村静。
京都造形芸術大学卒業後、
ランニング専門誌「ランナーズ」編集者として日本中を駆け巡る。
その後はカナダのバンクーバーに2年滞在し、
現在はニュージーランドの首都ウェリントンにてワーキングホリデー中。
幼少期からとにかく走ること、自然の中での遊びが好き。
フルマラソンの自己ベストは3時間39分56秒(2014年名古屋ウィメンズ)。

Run boys! Run girls!オフィシャルウェブサイトにて自身のスポーツライフを語る
Tip of the iceberg Newspaperを定期的に発行中。
Instagram: https://www.instagram.com/tip_of_the_iceberg_newspaper/

足が速いだけでは勝てないマラソンなど、
今のオリンピック種目にはない新しいスポーツを作り、
その競技だけで行う「ケロリンピック」開催に向けて日々活動中。
また自身のスポーツマガジン「My Sports Magazine」発刊に向け
世界のスポーツのかけら(iceburg)を探索している。