Backyard Ultra Last Samurai Standing 2020 #3 現場からの感想
さて、 Backyard Ultra を終えての感想。
これはあくまでも私個人が感じた感想の為、本人に確認したら
「え、ちがいますよ」と言われるかもしれない。
なので、当日会場にいた私が感じた事として受け止めてほしい。
優勝者は42時間 281.6㎞を走った舘野さん
舘野さんは多くの選手がサポートを付けている中、サポーター無し。全て1人で準備していたことになる。これは本当に信じられない。いや、実際事実なのだが、この寒さの中、補給等はいったいどうしていたんだろうと思う。
そしてもっと信じられないのが、42時間走った直後に仕事に向かったらしい。
鉄人すぎる。次元が違う。
今回の勝者が館野さんであることを、大会がSNSで発表した後
「舘野さんのすごいところはパイオニアであるということ」
というコメントを見る。どういう意味だろう?と調べてみると、確かにすごい。
舘野さんが、バークレーマラソンズに出場していることは知っていたが、バークレーマラソンズだけでなく、これまで挑戦しているレースはどれもハードで濃密なものばかり。しかも、日本から単身海外へ渡り、走ることも多いようだ。
舘野さんの走り続けられる体力や肉体は勿論すごいのだが、特に精神力がすごいと感じた。それもやはりこれまでの経験が裏付けしているということだろうか。
舘野さんに限らず、31周目以降も走り続けた4名は、今思い出せば最初から別格だった。
彼らはスタートから30時間ほぼ変わらないペースで走り続けていた。その後夜間になる為、少し遅れたが、それでもあまり変化なく到着していた。
何度周回を重ねても必ず同じ時間に現れる。到着時間が急に早くなる方が心配になるぐらい、一定の時間だった。
本人も大変だろうけど、サポートもかなり大変。ほぼ45分に1度戻ってくる中、おにぎりを作ったり、スープを温めたりと、簡単に準備できるご飯を色々と用意していた。
出場した多くの選手が、第1回開催の未知のレース故、スタート後に走りながら1周のペースを掴んでいこうと思っている中、最初からペースを変えず、淡々と走り、遅延なく走る姿に「準備の差」や「気持ちの強さ」を感じた。
24時間まではウォーミングアップ
24周目が終わったとき、舘野さんが「ここからですよ」と言ったことが印象的だった。
つまり、24時間走り続ける事はもうすでにこれまでの経験や試走で経験しているから出来て当たり前。その先どれぐらいいけるか?が勝負だと最初から分かっていた、決めていたという言葉だと思った。
それに比べて、最初から距離や時間で自分の目標を決めていた選手の多くが30周までにリタイアした。「なんとか100mileまでは走りたい」と思っていた選手の多くが、100mileにたどり着かずこぼれ落ちていき、「100mile以上行けるところまで」と思っていた選手が100mileを越えたのをきっかけに、次々に脱落した。 小山田さんもその一人。
最初から「最後の1人に何としてもなろう!」「絶対勝ちたい!」と思っていた選手達は「誰よりも長く走る」ことだけを目標としており、その為のライバルは距離でも時間でもなく、まさに自分自身だったのだろう。
速い人が必ずしも勝てるわけではない
Backyard Ultraのデータにも40分未満で戻ってくる選手は100mileをほぼ達成できないという結果が出ているらしい。
季節にもよるとは思うが、あまり早く帰ってきても、汗冷えで体温を奪ってしまう。ちなみに今回、深夜から朝方までマイナス1〜4度であった。それに、速いペースはやはり筋肉疲労も高まる為、早すぎない方がいいというのは確か。皆「走り」と「歩き」をうまく組み合わせて、ゆっくりとしたペースで戻ってきた。
しかし、55分ぐらいのスローペースで戻ってくるのもリスクが高い。休憩時間がほぼ取れないし、今回の小山田さんのようにお腹の不調などのイレギュラーが起きた際、スタートできなくなってしまう。
普段自分が走る6kmのペースよりかなりゆっくり走る為、周回を重ねるごとにストレスがたまり、途中の周回を「自分の気持ちいいペース」で帰ってくる選手もいたが、ペースの上げ下げは後々に影響する。
45~53分の間で、調子が良くても悪くても決まった時間で帰ってくることが求められるが、周回を重ねていけば限界がある。
ブリーフィングでトモさんが言っていた言葉を思い出す。
「ライバルは自分自身」
走り続ける事。
痛みと戦う事。
睡魔と戦う事。
確実にエネルギーを補給し続ける事。
相手と比べず平常心で走り続ける事。
決まったペースを何があっても守る事。
自分自身に勝つ為の項目は予想以上に多い。
特にサポートが受けられ、周回スタートを行うベースエリアでは、他の選手がやたらと元気に見える。「辛いのは自分だけなんじゃないか?」と思うほど元気に見えるのだ。
しかし、サポーターに話を聞くと、割と序盤に弱音を吐いていた事を知る。
みんな、意地を張って、虚勢を張って、他の選手に負けないよう頑張っているだけで、周回を重ねるごとに調子は悪くなり、痛い箇所が増える。その痛みや調子の悪さにどこまで付き合えるかが重要になってくると感じた。
サポーターを付けた方がいいのか?
今回優勝した舘野さんはノンサポート。
選手16人中3人がノンサポートだった。
普段のレースでも「サポーターを付けている方が有利なのか?」という会話になるが、実際はどうなのだろうか?
どちらが有利とは言えないが、Backyard Ultraについては、サポート付きの方が楽だろうなという印象はあった。
大会側が用意してくれるのは、お湯とお水。
エイドは無いので食べ物は全て自分で用意する。
今回のベース施設に限っては、キッチン(電子レンジや湯沸かし器)があったが、建物2階にあり、選手が靴を脱いで上がるのは正直面倒でノンサポートだった3名は利用していない。
どんなものを食べ、飲むのかにもよるが、到着する時刻に合わせ準備をしてくれるサポーター付きの方がずっと楽なのではないか?と思う。
ただし、今回のBackyard Ultra Last Samurai Standingでは、サポーターは1人しか認められない。
常に1人がサポートしていればいいのではなく、サポーターの交代は認めれていないのだ。
選手を待っている間にランニングに出かけていたサポーターもいたが、基本は「準備」「サポート」「片付け」「待機」を繰り返しているのみ。
その場所から離れられない。
また、今回のベースエリアは、携帯電話の電波が届かない場所であった。
一応建物にWi-Fiが付いていたが、速度はとても遅い。よって、電話もネットもできない。
1人になりたいときは、トイレか、車で来ている人は車にいるが、車もサポートカーになっていて、休める状況ではないという人が多かった。
サポーターも生きているので食事が必要だが、買い出しに行けないので、レース前に買ってきたレトルトが多くなる。
むしろ、選手の為に用意した物の食べ残しや飲み残しを「もったいない」と言って食べてしまうので、なんだかずっと食べている雰囲気(笑)
しかも起きている時間が長いから無性にお腹が空く。
通常のレースなら、エイド間の移動が含まれる為、いつもよりサポートが楽なんじゃないか?と言われたが、そんなことはない。
通常のレースの方が、サポートを受ける間隔が長い為、寝る時間が生まれる。
今回は必ず1時間に1度戻ってくるので気が休まらない。
もちろん、サポートは2~3時間に1度だけ頼み、後はセルフで行う選手もいたが、基本的にこういった状況でもストレスがたまらない人をサポーターに見つけなければならない。
そう考えると、大変だけど1人でやった方が気楽という人もいるかもしれない。
また、海外のこういった類のレースはサポート禁止の物も多い。
実際、海外までサポーターを連れていくのは、時間も金銭面も負担が大きい為、1人で全部出来るようにしておくというのも必要かもしれない。
どんな人が出ているのか
Backyard Ultra Last Samurai Standingにはどんな人が出ているのか?
全員にインタビューで来たわけではないが、マツイ調べによるとこんな感じ。
「あなたの主戦場はどこですか?」
・ロードレース 100㎞以上のウルトラのカテゴリー
・登山や山登り(山岳縦走)
・トレイルランニング 10㎞前後のショート
・トレイルランニング 100mile以上のロング
・アドベンチャーレース
・ナビゲーションレース
舘野さんのように「ジャンルは何?」という人も何人かいた。
6,706mを1時間以内で走ればいいというルール、しかも1周の獲得標高は157mしかない。
そういったコースと時間で様々なジャンルの様々な走力の人が集まってきたと思うが、偶然にも「沖縄本島1周サバイバルラン」の完走者が3名もいたというのだから、 普段から200㎞以上走るのは当たり前で、人に惑わされることなく、淡々と進める人が向いているという事だと思う。
リタイアした人の理由は?
16人出走して、最後の1人になるまでのレースなので、15人のリタイア者が出たわけだが、どんな理由が多かったのか?
前半で辞めた選手は
<精神的なもの>
・楽しみが見いだせない、楽しくない
<肉体的なもの>
・補給ができない
・寒くて動けない
中盤以降は
<肉体的なもの>
・体力の限界
・足の故障
が理由に当たると思う。
関門に間に合わずDNFになった選手も多かったが、それも足の故障が原因で走れなかったから。関門には間に合ったけど体力の限界でスタートできない選手もいた。
同じコースを繰り返し走る為、負担が同じ個所にかかり続ける。
歩くのも困難な状態になる選手もいた。
「食べられない」「眠い」「寒い」その苦痛が訪れるのはわかっているが、出来るだけ引き延ばしたい。
果たして、それを克服するトレーニングは存在するのだろうか?
舘野さんは特異体質というわけではないはずだ。
さて、話は変わり、全然関係ないが、サポーターの私も大変なばかりではない。
長い待ち時間、ビールやワインでしっかり楽しませていただいた(笑)。
料理を作りながらビールやワインを飲むという、キッチンドランカーのような状況だったが(笑)サポーター同士、またバックヤードのスタッフの皆さんと色んな話をし、知ることが出来た。
こういった優しい時間がとても幸せだった。