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2015年10月8日

ケロズ

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山やぎはゆで卵を走って温める Tip of the iceberg News Paper #10

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この夏多くの山を駆け巡った中で感じたこと、考えたこと。日本にいるときには気づかなかったこと。今時代は、「軽い」「速い」という方向へ向かっている中で今回はその真逆を行く、ある山ヤギを紹介します。(イラスト/ケロズ)

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名前はルイス。私の彼です。アメリカ出身で現在一緒にバンクーバーで生活しています。英語の教師として働いていて、25歳の若者時代真っ盛りだというのにスマホの1つも持っておらず、もちろんSNSのアカウントもなし、暇さえあれば読書。週末はハイキング、ランニング、Yoga、Taichi、合気道などを楽しむアクティブガイでもあります。私はある時から彼をMountain Goat、”山ヤギ”だと思うようになりました(たまに海ヤギ、川ヤギにもなる)。山ヤギとは説明するまでもありませんが、断崖絶壁をひょいひょい歩く、山に住むやぎさんたちです。ルイスと一緒にハイキングに行くと、少し目を離した瞬間にすでに違う山を駆け上っていたり、大きな岩の上にいたりするのです。

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山ヤギスイッチが入ったらもう私も追いつけない。目がキラッキラに輝いて、上のほう上のほ〜うへと上っていきます。ただただ自然の中で目一杯楽しむ。適当な綿100%Tシャツに短パン、道端のフリーボックスで拾ったsalomonのシューズとハチマキをきゅっと結んでどこまでも走る、飛ぶ、見つける。格好は適当だけど、ルイちゃんとっても、強い。そんなのびのびルイスを見ていて、私も心がぐーっと背伸びできて、ハイキングやランがさらに楽しくなってきたのです。

ルイちゃんの食生活もかなり健康的というかルイス流。いつもオーガニックの野菜やフルーツを中心とした食事で、毎日自分でごはんを作っています(まぁ私はその横で辛ラーメンとか食べてますけど‥‥)。我々が住むエリアはドラッグ中毒の人々が蔓延しているエリアなので、安い八百屋さんがいくつもあって破格の値段でオーガニック食品が手に入ります。そんな山ヤギさんと今年の夏はたくさんの探検に行きました。山ヤギさんの基本装備はこちら。じゃじゃん!

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かなりラフ&ランダム!テントが入らないときは、赤ん坊だっこスタイルで。そしてルイちゃんといえばこの帽子でしょう!この1年で唯一買ったトレランギアがお米ハット。渋い。渋すぎる(涙)。チャイナタウンで500円で購入。軽くて、フィット感も良く、前後左右から暑い日差しをシャットアウトしてくれ、「こんなに良い帽子はない」と絶賛。

バックパックはフリーボックス(※バンクーバーは家の前などにいらなくなった服や本などがしょっちゅう置いてある。私たちが住んでいるシェアハウスも同じフリーボックスが設置されていて、家を出て行く仲間がいろんなものを置いていってくれる)から拝借したもの。容量は見た感じ26L位のやつでトレラン用とかではないのでフィット感はそこそこですが、なんせタダ。わがままは言いません。

そしてそのザックの中身がすごい。ルイちゃんは基本的に化学調味料の入ったものやお菓子などは食べないので、行動食はたくさんのフルーツを持って出掛けます。りんご1個とかではなく、いちご丸々1パック、マンゴー、りんご、桃、プラムなど本当にごっそり。これだけでか〜なり重いです。

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(山でマンゴーまいう〜)

そして忘れてはならないのがドリンク。ルイちゃんお気に入りは500ml1本分の抹茶。

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抹茶500mlって私は飲めないなぁ。でもルイちゃんいわく「甘くないし、身体がシャキッとする」とのこと。一理あり。抹茶は普段家の近くの日本食スーパーで購入しており、自分で作って飲んでます。しかもそれをペットボトルではなく、ガラス瓶に入れる。このガラス瓶も買ったものではなく前に買ったジュースの瓶をリサイクル。しかし重い……重すぎる。相当重いぞルイちゃん。さらにプーアル茶(もちろんガラス瓶)、ココナッツウォーター粒入り大きい缶などもバックに詰めます。プラスティック製品をそもそもあまり好まないルイちゃんいわく、「なんで自分が死んでも自然に消えていかないプラスティックボトルを買わなきゃいけないの?」というご意見。耳が痛い…。

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さらに昼食用にお手製野菜もりもりカレー、ライ麦パンなども。普段から食べ物以外全く買い物をしないルイスは自分の身の回りにあるものでなんでもやってのけます。だからトレランするって言っても、新しいものは買わない。まずは自分が持っているもので十分だと。でもたしかにそうだ。私たちはオリンピックの選手で1秒2秒を争っているんではなくて、自分が自然の中で楽しさや喜びを見つけるために自然の中に入っていくわけだ。その時点で全ての責任は自分にあって、リスクも全部自分にある。でもだからこそ自分の好きなように、山へ行くべきだと思うのです。誰も「それではダメだよ」とか「もっと速乾性のものを買わないと」とか「ダメ」ということは言えないんじゃないかなぁと。

ルイスの言葉を借りると、仮に熊に襲われたとしてもそれがThe North Faceのジャケットを着ていなかったから、襲われるわけではない。いくら防水でグリップが効いたシューズでも思いっきり転ぶときだってある。自然は何十年も何百年も前からそこにあって、何もルールを人間に押し付けることなく、ただそこに佇んでいて、山へいくウエアやギア、それらの文化は人間が作りだしたものなんですよね。それはきっと冒険をしていく中で何度も進化を遂げて速乾性の素材が生まれたり、より快適に探検するためのものだけれど、木や山や海がそうしろって言ったわけではない。私たちがその方が良いだろうと思ってそうしているのです。

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でも自然からしたらそもそもたくさんの製品を作って、そのためにたくさんの石油を使って、そのために大きな工場が作られて煙突から黒い煙がもくもく出て、二酸化炭素を排出して、誰かが低賃金で働いて、そしていらなくなったら捨てる、それが山へ来る準備なのでしょうか。購買を抑えて、自分の身体をギアにすることはできないのでしょうか?

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山へ行くときに、ちゃんとした装備がないと不安だと。その気持ちはわかる。だからみんなショップへ行って買い物をする。先に装備を全部揃えてしまう。何か自分を間違うことなく正しい方向へ導いてくれるものが欲しい。お金を払って、セミナーや練習会に参加する。でも後で気づくと実は全然使わないでタンスの奥に眠ってしまったり、自分がよく行く山は低山で、こんな装備は必要なかったなぁとかよくあるのではないでしょうか。

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私も1年間バンクーバーのThe North Faceストアで働いていましたが、ノルマもあるので初めの頃は「売る」ことに意識がいってしまって、そのギアがその人とどんなコンビになっていくのかを全く考えていませんでした。しかしある日突然気がついたのです。なんで売ることに精を出しているんだろう、「私の使命は逆だ」と。みんなに山へ行くことの楽しさや、今持っているギアで対応できないのか、お客さんの本当の意味でのニーズに応えるためにはもっと一人一人に興味を持って接客することが大事なんだ。そこからすぱっと接客方法を変え、すぐにレインウエアなどを買おうとするお客さんに「同じようなジャケット持っていないか?」「なんで今それが必要なのか、新しいものを買う必要があるのか?」「もし買ったとしても、長くこのジャケットを着て欲しい」ということを訴えかけるようにしてからはさらにお客さんとのコミュニケーションもとれて、売り上げもキープ、自分が「ものを売る」という現実に押しつぶされることもなくなりました。また来てください~!とも思わなくなった代わりに、もうそのジャケットでどこまでも冒険してほしい、と思ってお客さんを見送るようになりました。

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つまり逆だと思うのです。今ランニングブームが、ウエアを新調することだったり、レースの結果をSNSにあげることだったり、表面的なことへの執着に、本来ランニングのシンプルな喜びが薄れているのではないかと感じるのです。そしてみんな新しいものをどんどん買うランニング界にも非常に違和感があります。トレイルを守りたい、地球に優しくしたい。私もそう思う。でもそれを実現するにはみんなでルールを決める前に、まず自分でできる小さなことを始めるしかないと思っています。

また体力に不安があれば、まずは家の近くの公園を散歩してみる。身体が行けそうだと感じたら次は走ってみる。物足りなかったらもっと大きな公園に行ってみたりして、よっしゃ次は低山の短いハイキングに行ってみようと。その中で、自分は人より喉が乾きやすいのか、どんな食べ物が自分に合っているのか、短パンが良いのかズボンが良いのか、それともスカート、ドレスが良いのか、裸がいいのか自分と対話して、「あぁ、次はこういうものが必要だな」って”自分”で気づくことが必要だし、それが新たな自分や自然への探究心へと繋がって行くのだと思います。欲しかったら買うこともできるけど、周りにそれを持っている友人がいたら1日借りて試してみることだってできる。

何も知らないまま山へ行けと言っているんではなくて、もちろん熊や防寒対策の知識はそれこそ今の時代本やインターネット、人から聞くなどして情報収集すべきと思いますが、それでも知識や装備でガチガチに自分を固めないほうが、自然とうまく調和できるんではないかなぁと。

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”だから”、私は自然の中に身を置くことが好きです。私がどんな人間であろうとどんな服を着てどんなシューズを履いて、どんな大学を出て、どんな仕事をして、どんだけお金持ってるかなんて全く関係なくなるからです。

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(森で出会った狼とトナカイ。)

自然は自然のままです。ときに人の命も奪います。でも私たち人間も多くの動物たちの命を奪っている。人間は知能が発達しているとよく言われるけれど、山に入って木や葉っぱをまじまじ観察したり、いろんな動物に出会うと人間も他の動物もなにも変わらないと思う。人間は確かに知能が高いかもしれない、でもその分兵器や原子力なども生み出してしまっている。でも不思議なのはコンピュータもスマホも原子力も速乾素材もプラスティックも時代が発展していく中で誰かが「その方が良い」と思って作られたのに、たまにその全てをぶん投げて裸になって海へダイブしたくなるのは私だけでしょうか?

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私が小さいころお父さんに連れられて何度も山に行ったけど、うさぎの足跡を雪の上で見つけて大喜びしたり、2000m級の山にスイカ丸々1個持って登ったり、雨が降ってきて水が大量に流れていく登山道を必死で駆け下りたり、でもそれが本当に楽しかった。自由に飛び回って、でも自然の怖さも同時に味わって。その記憶をルイスがいつも思い越してくれるのです。

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走りたくなった時に走る。目的地があってもその道中の方が楽しかったらそこでゆっくり立ち止まる。くもの巣がある!キツツキ!変な形の木がある!あの石飛んでみよう!小さな花が咲いてる!樹液の良い匂いがする!雨の日の方が気持ち良いね。など小さな発見をいつも共有してくれます。
人のことは気にしない。誰に何て言われたって構わない。それが自分が一番素直で、気持ち良く存在していられる方法だと思います。ザックが重くたって関係ない。ザックが揺れたって走れるんだ。ザックが揺れる方向に自分の身体を合わせて走るとか。そりゃ難しいか。

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ピカソの名言に「If I don’t have blue, I use red.」というのがあって、私はいつもこれを頭に置いています。なきゃないで周りを見渡して、自分の持っているもので戦う。それがたとえ全く別の色や性質のものでも。ってこれは私なりの解釈ですが、その通りだなぁと。ルイちゃんは最近私に「静~、トレランしているときにたまに肘を木にぶつけるときがあるから、肘をサポートできるもの何か作れないかなぁ?できれば軽くて通気性の良い素材が良いから竹細工的にサポーターを竹で編むことできる?」。あぁこれが私のしたかったスポーツだ。ありがとう山ヤギさん!竹でひじサポーター作るわ!笑

と長くなりましたが、若干ネガティブな文章になってしまい、これでRun! Boys! Run! Girls!の売り上げ落ちたらどうすんねん!と店長に怒られそうですが、買い物をするなと言っているわけではなくて、買い物をする前に1つ小さな呼吸をして、少しの間考えて欲しいと思うのです。何もないから買うのではなく、まずは自分の周りを見渡してみる。自分で一度考えてみたほうが、より楽しいし、理解も深まる。自然のことを考えるのであれば、ものをむやみに買わずに、リサイクルストアや友人と交換、フリマなどをうまく活用してみんなで回して使うようなサイクルになれば良いなぁと思うのです。
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昔ポケモンカードが流行りましたが、今のランニング界はこのポケモンカード衰退現象に近いように感じます。みんな好きなキャラが出るまで買ったり、レアカード欲しさに買い漁ったり、いつか値打ちが出るだろうと思って何年も溜めておいたものの、そんな将来は来ず、みんなすぐに飽きて次のトレンドに向かっていく。ブランドや名前にどんな価値があるかよく考えてみてください。自分が自然と繋がりたいのか、お店やブランド、ショップと繋がりたいのか。自分が一体どこを向いてスポーツを楽しんでいるのか。私自身東京で暮らしていたときはこの辺の感覚が崩壊していました。でも日本を離れて、多くのランナーやハイカーと出会い、自分で体験していく中で考え方が変わりました。

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(アメリカはポートランド、Forest Parkにて昼寝中)

ランニングは自分の好きな時に、好きなタイミングで、いつでもどこでも始められるたった一人の贅沢なスポーツなのです。なんにもいらない。
みんな「私何も持ってない」とよく言います。でも私はすでに持っていると思う。まず走れる足があるし、その人の強さや持ち味が必ずある。でもそれは装備を揃えるだけではわからない。むしろギアがそれを埋もれさせてしまう可能性だってある。

バンクーバーでハイキングしていると、みんなとってもラフ。よれよれのTシャツを着たおじいさんがスタスタ激坂をかけ上げっていく。水もほんの少し。でもきっとその人は自分でわかっているんだ。自分の体力、スピード、持ち味にはどんなものが必要でどんなものが必要ではないか。情報や人のアドバイス、時代の流行りじゃなくて、自分が一番心地よい方法を探しだせたらもっともっと気が楽で、トレランやハイキングを楽しめるんじゃないでしょうか。

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という私も新しいテントと寝袋を買ったりしてめっちゃ浮かれているわけで、ものを買うことで冒険の幅を広げたり、自分の弱さをサポートして新たなモチベーションが生まれるのも事実。とくに今は新しい軽量のザックやテントなど世界中の山好き森好き川好きの人たちが考えて考え抜いた傑作を見ることができて面白いのも事実。でもやっぱりお金で幸せは買えないと思うので、「欲しい」ではなく、「必要」になったら買うようにマウンテンギアに関しては自分はしています!もしくは自分で作るという方法もあります!ルイスは発酵食品が大好きで、自分でジンジャービール、キムチ、サワークラウトなども作っています。なんでも自分でやってみる!私も例にならって新しいランニングウエアを新聞紙で作りました!走れますよ新聞紙で!あったかいし!

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そのコスチュームでWhistlerで開催されたCheese Rolling Festivalという激坂を転げ落ちていくチーズを追いかけて走るランニングレース(参加費無料!)に参加し、ランでは負けましたが、コスチューム部門で3位入賞、1万円分の商品券をいただきました。やっほ~い!

ランニングをどう楽しむかはやっぱり自分次第だ!そしてみなさんのランニングの楽しみ方や発見をRun! Boys! Run! Girls!経由で教えて下さい!(?)。お店がそういう場になってくれたら良いなぁとカナダから願っています。これはあくまでも私一個人の小さな小さな意見でして、みなさん1人1人に自分流のランニングがあると思うのでこの秋は栗拾いラン、さんまラン、読書ラン、など楽しんで欲しいです。

この夏たっくさんトレラン、ハイキングにいったのでそのレポはまた次回~!アディオス!

keroz(ケロズ)

ランナー、1987年、新潟県生まれ。

本名吉村静。
京都造形芸術大学卒業後、
2010年、(株)アールビーズ入社。
マラソン大会の運営に携わり、
ランニング専門誌「ランナーズ」元編集者。
幼少期からとにかく走ることが好きで
国内外多くのレースに参加している。
フルマラソンの自己ベストは3時間39分56秒(2014年名古屋ウィメンズ)。

2014年4月からカナダはバンクーバーへ1年ワーキングホリデー、
その後もトレラン、ハイキング、英語、陶芸、コスチューム制作をしながら暮らしている。

足が速いだけでは勝てないマラソンなど、
今のオリンピック種目にはない新しいスポーツを作り、
その競技だけで行う「ケロリンピック」開催に向けて日々活動中。
さらに自分の生活に密着したスポーツマガジン”My Sports Magazine”制作にも力を注ぐ。

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PROFILE

ケロズ | Shizuka Yoshimura

ランボー地球支部として世界を探索、いろんな人の心に窓を作ることをテーマに記事を書いています。過去4年間はカナダ2年、ニュージーランド1年、インド・ネパール半年、その後少し日本を経由して、現在はカナダの永住権を取得、バンクーバーで生活しています。今後さらに北上、極寒の地でアートとアウトドアの境目をユニークに生き抜くために少しずつ準備中。走ることが好きで、ロード、トレイル、夢の中、どこでも走ります。昼寝と動物が好きです。2014年裸で走るレース「Bare Buns Run」バンクーバー大会女子優勝。また現在幻冬舎が運営するウェブサイト、幻冬舎+(プラス)にて、「北極かえるのコモンロー日誌」も連載中。

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