世界の過酷なトレイルレース
8月末より2つの海外レースに参戦のため欧州に滞在しています。
8月末〜9月上旬までは1つ目のスイスのレースに出るために、スイスのジナルという街に滞在していました。
現在は、2つ目の100マイルレースに出るためフランスのリヨン(パリ、マルセイユに次いで大きい都市)に滞在しています。
今回は、その9月上旬に参加したスイスのTrails du Besso(56km/5,400mD+/制限18時間)についての報告をしたいと思います。
今回のレース結果を先に述べると、DNFとなり完走には至りませんでした(スタートから29km/3,200mD+の地点で関門時間に10分足りませんでした)。
DNFとなった理由として、テクニカルな箇所が多く想定以上にハードなコースで時間が掛かってしまったためです。
完走することはできませんでしたが、このレースで新たな発見を得ることができました。
これまで欧州レースの中でハードとされる、UTMR(Ultra Tour Monte Rosa)やレシャップベルなどに完走を果たしてきましたが、今回はこれらと比べてもかなり難しいと感じるレースでした。
UTMBを筆頭に、世界的に有名なレースに挑戦することも選択肢の一つです。
しかしながら、有名ではなく個性あるレースに出ることも選択肢の一つだと思います。私の場合は、個性に加えてレースの難しさでレース選びをしています。
この視点で世界全体のトレイルレースを俯瞰してみると、まだまだ世界にはハードなレースがあるとなと再認識すると同時に、このようなレースに引き続き挑戦していきたいと強く感じました。
ではTrails du Bessoについて、どのくらいハードであったか詳しくお話したいと思います。
Trails du Bessoのレース概要について
まずはレース開催場所についてお話したいと思います。以下はスイス全土を示した地図となります。
イタリアとの国境沿いの場所になり、ヨーロッパアルプスの核心部での開催となります。
地図を拡大してみてみると、標高4,000m以上の山脈に囲まれており、近くにはマッターホルンやツェルマットがあります。
距離54kmは、累積標高5600m、制限18時間となります。50kmレースにも関わらず、制限時間が18時間と一見緩く感じられると思われます。
しかし、制限が18時間であっても関門時間が厳しい設定であることに、実際に走ってみて気づきました。
上記プロフィールを見ての通り、標高3000m以上の山頂と峠を3箇所(緑色枠)越えなけれなければなりません。
また、2箇所(黄色線)の氷河を通過しなければならず、アイゼンが必須となります。
レース前の受付において、アイゼンや防寒具等の装備品をチェックを細かくチェックされます。
受付終了後、ビブと景品であるフラスクが渡されました。100マイルレースでは、参加賞としてTシャツやジェル、スポンサーグッツなど様々な参加賞を貰うことが多いのですが、今回はフラスクだけであったのでとても残念でした。
スタートはウェーブスタートとなっており、ITRAポイントが600ポイント未満のランナーは朝3時、600ポイント以上のランナーは朝5時スタートでした。
私は前者に該当するため朝3時スタートとなり、全参加者約150人のうち半数が朝3時にスタートとなりました(別の視点でみてみると、600ポイント以上のランナーが半数であることから、レベルの高さが伺えます)。
Trails du Bessoレース特徴について
ここからがレーススタート後のお話となります。このレースの特徴としては大きく2つあります。
1.稜線区間がテクニカルであること
スタートから10キロ過ぎたあたりから、標高3,000m前後の稜線を4キロほど進まなければなりません。
レース前の想定では、1時間ほどでこの区間を通過できると考えていましたが、実際は2時間弱も掛かってしまい、ここから関門時間との戦いとなってしまいました。
稜線の区間は山頂3,300mまで続いていましたが、特に標高3,000m越えてからストックが不要で、岩場を手を使って登る箇所がとても多かったです。
加えて、この区間がスイスの山地図に載っていないトレイル未整備区間であり、足場もかなり悪い状態であったこともあり、進むのに時間が掛かってしまいました。
2.走れる区間が少ないこと
UTMBなどのレースでは、登り下りにおいて急登(斜面に対して直線的に登る)というのはほとんどなくトレイルを蛇行しながら登ることが多いです。
しかし、このレースではこの蛇行する区間が少なく、以下の写真の通り下りでも手を使う必要があり、登りに加えて下りでも想定以上に時間が掛かってしまいました。
また、冒頭に述べた氷河についてお話すると、クレバスへの落下も避けるためゆっくりと進まざる負えなかったのも、DNFの要因です。
このレースに出るにあたっての注意点
今後、日本人の誰かがこのレースに挑まれるかと思いますので、最後に注意事項だけお話しておきたいと思います。
このレースに出るにあたり、50kmレースだという感覚で臨むと、痛い目にあう可能性が非常に高いです。なぜなら、実際と公式の距離と累積標高にかなりの乖離があるためです。
私がDNFとなった関門は、公式では24km/2,900mD+でしたが実際は29km/3,200mD+と、かなりの乖離がありました。
恐らくゴールまでは、70km/6,000mD+(公式では56km/5,400mD+)ほどになるのではと感じています。ある意味でロングレースに近い感覚で挑む必要があると感じます。
加えて、このレースに出るにあたって私の経験から言える必須条件として、山のスキル、走力の面からそれぞれで挙げておきます。
山のスキルに関しては、日本アルプスのどの区間においても遜色なく山行できるスキルを持っておくこと。
このレースでは、もし山中で事故があった場合、大会側でヘリを手配しますが、ヘリの救助費用は自己負担となります(つまり各自でスイスの山岳保険に加入しておかなければなりません)。
従って、このレースでは事故や怪我となるリスクが高く、標高が高い場所でも柔軟に対応できるスキルを身に付けておくことが必須となります。
また、走力に関しては、ITRAポイントが最低でも550ポイントは求められます。
600ポイント前後の屈強な地元のランナーにおいても、完走タイムが14〜17時間がほとんどであり、同ポイントが500前後だとほぼ完走できない可能性が高いと思われます(ちなみに優勝者でも10時間は掛かっている)。
つまり、このレースに出るためには、山のスキルと走力の両方を兼ね備えておく必要があるということです。
走力だけがあっても、山のスキルが全くない場合、本当に事故や怪我につながってしまうリスクが高いため、お薦めはいたしません。
Zinal(ジナル)という街について
ジナルという街はとても小さい街ですが、トレイルランニングでは有名なレースが8月に開催されます。
そのレースとは、Sierre-Zinal(シエル−ジナル)であり、このレースは1974年から続く伝統的なレースとして地元の中では有名なレースとなります。ゴールデントレイル・ワールドシリーズレースの一つでもあります。
街中には、コースレコードであるキリアンとマシスの写真が飾られています。
この街の周辺は標高3,000〜4,000mの山々に囲まれており、本格的な登山を楽しみたいと思っている人にとってはお薦めの場所です。
ジュネーブからシエルまで電車で約2時間、シエルからジナルまでバスで1時間、トータルで3時間でジナルに来ることができます。
アイガーのあるインターラーケンや、マッターホルンのあるツェルマットは観光客が多いですが、ジナルは観光客は少なく(地元のハイカーがほとんど)、ゆっくりと登山の楽しめる環境かと思います。
最後に
次回のレースは、9月16日に開催されるLe Grand Trail de Serre-Ponçonという100マイルレース(164km/10500m+/制限50時間)となります。
このブログが投稿されるタイミングは、この100マイルレースを終えている状況かと思います(この原稿を書いたのが100マイルレースの前であるため)。
Trails du Bessoでは、ほとんど体力を使わずにレースを終えたため、100マイルレースには万全な状態で臨めそうです。
100マイルレースは今回のレースと比べて、難易度は下がるものの、UTMBと比べてみると難易度は高いので、決して無理せず安全な山行を心がけて臨みたいと思います。
来月10月のブログでは、この100マイルレースについての報告をしたいと思います。