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2023年4月19日

ゆっきー

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山でのモノの価値

私は山小屋でモノを買う際に、値段が高いと感じたことが一度もありません。例えば山小屋で500mlの水が300円で売られていても妥当な金額だといつも感じます。

その一方で、日常生活で売られているモノが定価以上で売られていると、値段が高いと感じることが多いです。

でもこの差って何なんだろうか?と山登りを始めた頃は思っていました。

しかし海外レースで海外の山も登るようになってから、日本と海外の登山に対する考え方や文化などの違いを経験したことで、山小屋の値段がなぜ高くないと感じるのか腹落ちすることができました。

今回は山でのモノの価値について、私なりの考えをお話したいと思います。

そもそも価値とは何か?私なりに解釈すると、価値とは相手が決めるものだというのが私の考えです。

私は、仕事においても顧客に提供する価値とは何かをかなり意識しています。

具体的には、顧客が困っていることを自社が提供している製品・サービスを通じて解決する(=これが顧客にとっての価値)。つまり、その対価として顧客からフィーをいただくことを意識しています。

自社が提供しているサービスは、売り切り型ではなくサブスクリプション型(月額制)のサービスであり、長年顧客に使っていただくには、継続的に顧客に価値を届ける必要があります。

山の話に戻ると、山でも同じようにハイカーが困っているから定価以上の高い金額で水を買う。しかし、なぜ高いと感じずに購入するのか、その理由について考えてみたいと思います。

まずは富士山を例に、山での水の値段の違いについて話をしたいと思います。

吉田口ルートでお話をすると、麓の浅間神社では水の値段が150円で売られています。しかし、五合目になると300円、7合目〜8合目では山小屋では400円、山頂においては500円と標高が高くなるにつれて金額は高くなります。

しかしこれが山ではなく、スポーツや音楽イベントだとどうでしょうか?仮に水が500円で売られていると、皆さんも高いと感じると思います。

この時、私がいつも感じることはイベント会場に入る前にコンビニに立ち寄って水を買うべきだったと後悔することです。

なぜこのような心理になるのか、価値視点で考えてみると、売り手が買い手である消費者に対して金額に見合った価値を提供できていないからだと思います。

しかしながら、山ではハイカーに対して価値が提供できているため500円でも値段が高いと感じずに購入する。山において、どのような価値が提供できているのか具体的にお話ししたいと思います。
 

■山で水の価値を提供する仕組みとは?


そもそも売り手である山小屋が水を定価の150円で販売するとどうなるのか?

一つは利益が出ないことです。山小屋へ水を輸送(ヘリなど)するコストが原価として上乗せされるため、150円で売ると場合によっては利益がマイナスになる山小屋もあるかと思います。

もう一つは在庫の問題です。山小屋の水の在庫が限られているため、150円で販売するとすぐに売り切れとなってしまいます。

つまり、売り手は高い金額を払ってでも水を必要としている人だけに販売する。一方で、買い手は、絶対に水を必要としている人だけが購入する。という仕組みが作られていること。

高い金額を払ってでも水を必要としている人とは具体的にどんな人なのか?典型例をあげると、麓まで下山するにあたって水が枯渇すると困ると感じている人たちです。

十分な水をザックに背負ってない状況で、山行をするのはとてもリスクが高いことです。万一、水が枯渇した状態で下山するまでに10キロ以上も歩くとなったら皆さんもどう感じるでしょうか?

これらから、ハイカーは必要十分な水をザックに背負っていることで山でのリスクを軽減したいと思っている。だから、500円でも水を買うというのが私の考えです。

つまり、500円−150円=350円がリスクを軽減するための価値であるということです。

山において水は命綱になります。十分な水を持っているかどうかで心のゆとりも異なります。

十分な水を持っていないと、心にゆとりがない状態となり山で正しい判断をすることができず、結果として山で事故に遭遇するリスクが高まります。

私自身、山を登る際は必ず食料や水は多めに持って入山するようにしています。特にロングトレイルの場合、山行中に食料や水が尽きる前に必ず山小屋で購入するようにしています。

要するに、上記の350円というのは山岳保険と一緒であると私は感じています。

山小屋で食料や水を買うことを怠り、結果として脱水症状となって山中で身動きが取れなくなり、救助隊を呼んでしまうことは避けたいものです。

私自身そのリスクを軽減すべく、水の値段が500円でも購入する理由です。

ちなみに、私はモンベルの山岳保険を年間契約してますが、この保険料も高いとは一切感じたことがありません。
 

■海外の山においても水は命綱


最後に海外での水の値段について話したいと思います。

私がUTMRのレースに出るためにスイスのツェルマットを訪れた際、マッターホルンの麓の山小屋(標高3,000m)では水の値段は1Lで10スイスフラン(約1,500円)でした。

また、フランスのBelvédère des Écrins(標高3,400m)という山に登った時でも、水1Lで8ユーロ(約1,200円)で売られていました。

上記と比べても富士山山頂の500mlの500円より金額が高めに設定されています。

海外の方が物価が高いので、必然的に山の水の金額が高いと思われます。しかし、欧州のスーパーでは水が1.5Lで1ユーロ前後で販売されており、日本で売られている金額と変わりはありません。

では、海外の方が山小屋の水の金額がなぜ高いのか?その理由として日本以上に登山において自己責任の文化が強く、自分の命は自分で守るという意識がとても高いことが挙げられます。

例えばスイスで山岳保険に未加入の場合、救助要請をすると最高で1,000万円もの費用がかかります。

山岳保険に加入しても、万一救助要請をしても状況によっては全額保険でカバーされることもないようです。

レースにおいても、海外のトレイルランナーは安全に対する意識が高いと感じます。ちょっとこの先を進むのが難しいと感じたら無理をすることなく、あっさりと途中でDNFするランナーが多い印象です。

これらを背景に海外での山登りをするハイカーは、水は高額だがとても価値あるものだという意識が強いです。

これは私の仮説ですが、日本でもより一層登山に対する安全の意識が高まると、山小屋のモノの価値というのが必然的に高まるのではと感じています。

価値=値段が高まった結果、ハイカーによって山小屋に支払われる金額が多くなり、そのお金を有効活用して山の環境保全に活かされるようになる(あくまでも私の意見です)。

そうすることで登山が行われる中でも、山の生態系が保護、維持される状態が作れることが、より良い姿の一つかと私は思っています。

Yukihisa Nakamura

PROFILE

ゆっきー | Yukihisa Nakamura

海外のトレイルレース延べ2000km
本格的に海外を走り始めて4年、年500kmのペースで世界の魅力的なトレイルを駆け巡っています。
山本来の魅力を肌で感じることが好きで、有名な大会よりかはニッチでテクニカルなコースを選びがちです。
Swisspeaks 360km(Walker's Haute route)、UTMR 170km(Tour Monte Rosa)など完走。
2020年も日本で知られていない世界各国の魅力的な山・トレイルに出逢うこと。

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