宇宙論尺度で110キロを走る Part 1


9月中旬、新潟・長野県境の五つの山々をステージとした信越五岳トレイルランニングレース110KM Shinetsu Five Mountains Trail 110km (以下、SFMT) に参加してきました。2回に分けてレースの内容などをブログでお伝えできればいいなと思います。

まず最初に、ここまでのコンディションを振り返ると夏場体調を崩してコンディションは低下。SFMTレース前の夏場にロード/トレイル含め長い距離を走ることができずにいたのが気がかりです。110キロを力強く走りきる、ということを前提に考えれば自分の中では最低トレイルを40キロ〜50キロぐらいを2回ぐらいはやりたかったなと振り返ります。

平日では2日に1日ぐらいのペースで通勤ランで自宅のある鎌倉から横浜のパタゴニアのお店まで往復35キロを朝夜で走りました。お昼休みの時間も利用して、8キロ〜10キロ走ったりも。長い距離を一気に踏めない分、こまめこまめに走るよう意識してトータルで考えると長い距離を走った感は多少あります。

Run Boys! Run Girls! への出勤時でも朝ランしてから出勤したり、お店閉店後の夜9時から終電前までの時間を使って皇居を10キロ~15キロくらいをランしてから帰るようにしてました。帰宅して家のソファに座った瞬間、その日はランができなくなるのを知っている自分にはこのスタイルがあっています。

とにかく長い時間ランに割く余裕はなかったので、ちょっとした数時間を見つけて走ったり Work to Home もしくは Home to Work で公共機関を使わずにランをするというのを意識した感はあります。

パタゴニア・ベイサイドストア近辺での昼休みラン。海が近くとても開放的にランができる。

パタゴニア・ベイサイドストア近辺での昼休みラン。海が近くとても開放的にランができる。

 

コンディションはあまり良くないものの、SFMTに向けて走らなきゃ!準備しなきゃ!という思いでランをするのはなるべく避けようと心がけました。「しなければいけない」といった感情で走るよりも、好きなことを好きな時間(空き時間)にやってみる。その意識の方向を変えずにベクトルの強度だけ上げてランに取り組んでみようという心構えです。そこの部分はいつも大切にしてた感があります。

レース前に、今回のSFMTのレースでは以下の2つの目標を設定しました。

・20時間以内で完走

当初体調を崩す前は目標はTOP50(タイムにして15時間前後?)入りということにしてたんですが、その目標を再調整して20時間以内で完走ということにしました。とにかく長い距離が踏めてない中最初からスピードをだして走るのは体も慣れてないし、なによりも楽しめない。ですが走ってて、「これなら行けるかもー」っていうタイミングが生まれたり、コンディションが安定してくれば目標時間を再調整して、早いタイムでアジャストしていこう的なスタンスです。何時間以内でゴールっていうタイム基準や数値を目標にするのも大事ですが、走った後なにが自分に残るか、生まれるかっていうのも大事にしながら走っていきたいです。

・苦しい時に苦しまない姿勢

110キロを走ることは体力的にも精神的にもタフなことです。「自分の体調はスタート時からゴールするまで変化し続ける」というのを前提に考え、当日の走るプランをたてます。中盤から後半、疲労の蓄積から体が思うように動かなくなる、というのを頭に入れて。では、どうやったらそれを最小限に抑えれるか。身体的側面、そして精神的側面から防ぐ方法を考えるようにしました。キーワードは「宇宙論尺度」。このワードを意識してくるのはレース後半あたりから。PART2 でお話しします。

信越五岳にはペーサー制度があります。ペーサー制度とは、直接的な補助行為(手を引く、体を押す、牽引など)以外はサポートしてくれる伴走者のことをいいます。自分の荷物の一部を持ってくれたり、時にはモチベートしたり、後半から思考回路がどうしても鈍くなるときにランナーの支えになってくれる貴重な存在です。

今回、そのペーサーには僕の友人の小倉史嵩さんにお願いをしてみました。CEPのアンバサダーであり、サブスリー達成者(2013つくば2時間56分)。2014年のOSJ奄美ジャングルトレイル50キロでも総合6位になった脚力をもつ若手ランナーです。二つ返事で快くペーサーを引き受けてくれました。

スタートから1A (スタート〜18.5キロ地点)

9月13日、空も明るくなってきた05:30にレーススタート。スタート時の自分の位置は700人前後参加するランナーの最後尾ちょっと手前くらいから。この時点では、あせらず、ゆっくりペースを掴んでいくことに集中します。いくら準備をしてもこの時点で「走れる!」と確信を持ちたくないというか持たない方がいいと思います。走れないとも思わないし、走れるとも思わない。走っている中で、色んなことがある。それに一つ一つアジャストして初めて完走できる。そういった思考のバランス感覚をもって、考えながら走るように意識します。スタートからすぐに斑尾高原スキー場のゲレンデ内を登ります。

少し登ったところで応援スポットの場所へ。ランナー達が駆け抜けるトレイルを大勢の人が左右に分かれ声援を送っている場所です。そこを通りながら声援をうけ、皆さんとついついハイタッチ。ここではペースが上がりがちになりますが、自分の一歩一歩に集中します(ハイタッチありがとうございました)。

一歩足を前に出すごとに、朝日もすこしずつ上へ。

一歩足を前に出すごとに、朝日もすこしずつ上へ。

 

斑尾山の周囲をアラウンドして、西側に出ると野尻湖が見えます。その奥には黒姫山(2053m)が見えますが、そこに到達してもまだ全体の半分程度の距離です。それからさらに50キロ走ってゴール地点の110キロになります。数字では理解できるんですが、目にすると気が遠くなるような距離です。だけど、すでに心の中ではワクワク感。自分にとって長距離を走る事は自分と向き合うことでもあるし、強いて言えば自分との対峙でもあります。静かなトレイルの中で自分と向き合う、自分に勝てるか負けるかっていう尺度ではなく、あらゆる場面で自分がどう反応してどう決断していくのかが今から楽しみです。

晴天で空気もきれい。1A手前の野尻湖の眺め。

晴天で空気もきれい。1A手前の野尻湖の眺め。

 

1A-2A(18.5キロ地点〜23.9キロ地点)

斑尾山の山頂への上りの前に最初のエイドステーション。フルーツを食べるだけにとどめ、出発。山頂までの上りの途中ポケットに入れてた iPhone が誤作動で急に音楽がなりました。曲を見たら You’re ready now。周りにランナーがいたのですぐ止めました。だけど曲名をこれから完走にフォーカスしている自分に照らし合わせて、「あ、自分も準備できてるかな?この曲流れたって事はもしかしたら完走できるかな」とちょっと期待感がふくらみテンション上がります。山頂に到着し、これから気持ちいいダウンヒル。広いスキーゲレンデ内を下り、開放的で気持ちいいですが、ある程度抑えて走ります。

斑尾山頂からの下り。

斑尾山頂からの下り。

 

2A-3A(23.9キロ地点〜38.5キロ地点)

2Aに到着。距離にして25キロ前後走ってきました。25キロのトレイルを走るのは結構久しぶり。その分、体がちょっと重く感じました。とりあえず上りは斜度がある場合は早歩き、可能であればジョグ。下りは気持ち抑えめで走ります。上りでは何人か追い越し、下りでは何人かのランナーに追い越されますが、追い越す追い越されるは意識せず上り下りは自分のイーブンペースで一歩一歩に集中します。

ここからちょっと音楽もかけ、手作りの雑穀米のおにぎりとトルティーヤ(オーガニックオートミールと全粒粉で作ったもの)をそれぞれ一個食べながらリラックスして走りました。普段から自分自身で補給食を作り、それを携帯しながら走るようにしてたりしていたので、レースもその延長であらかじめ準備をして作ってきました。朝から天気がよく木と木の間から光が射し込む中でのランは本当に気持ちいい。そんなトレイルシーンとマッチするナイスな曲をチョイスして走ります。

3A-4A(38.5キロ地点〜51.5キロ地点)

走ってて気持ちがいいトレイルを駆け抜けたあとは、下りの林道。そこを走り終わると3Aに到着です。ここのエイドには冷やしトマトがありました。丸ごとかぶつきます。冷たい水も足にかけてオーバーヒートを防ぎます。ここのエイドでは比較的長めの休憩をいれながら周りのランナーと話したり応援に来てた人と会話を楽しみました。リフレッシュしたら、これから関川沿いのゆるやかな上りを7キロ走ります。

一定のリズムで足を前に出し関川の区間を走り終わり、これからトレイルにはいります。そのトレイル手前で背が高く細身の人間が道路の中央に立ち、ランナーをモチベートしてました。誰かと思ったらスコット・ジュレクさん。Brooks のプロモーションで来日していたのでしょうか、まさかここで会えるとは。僕から「あなたの本に感銘をうけました」とか、「日本にはどれくらいいるの?」という会話を始め、「元気そうだね。日本には1週間前後いる予定だよ。また次のエイドあたりで会おうね。」という言葉を交わしました。

地面に転がっているのは手作りの雑穀米おにぎり。これはほんの一部。ザックの中にはもう3個ぐらい入っていた。

地面に転がっているのは手作りの雑穀おにぎり。ほんの一部。ザックの中にはもう3個ぐらい入っていた。

 

4A-5A(51.5キロ地点〜66.6地点)

スコットに鼓舞され、精神面でのコンディションはキープしたまま黒姫高原に到着しました。しかし51.5キロを走ってきて、身体的にここが一番体が重たく感じた区間でした。レーススタート時から比べると体が徐々に固くなってきているのがわかります。腰回り、ふとももあたりがすでに重くなっている。ですが、この重たくちょっと痛みがくる体に順応するのにあまり距離はかかりませんでした。 数分予定よりも多めにエイドにいて、足に冷えた水などをかけて、ここでもオーバーヒートを防ぎました。エイドをでた後の足取りは歩幅もぎこちなかったですが次第に滑らかに走れるようになってきました。直近3ヶ月を振り返ってもロングランはしておらず。「まあ予想通りかな」ということでとくに驚きはなし。それを前提にして走っていこう。

50キロを走ってきたとしても、この大会ではまだ半分以下です。足はなるべくセーブしていきたいですが、ここから長い上りの林道があります。序盤の大事な場面として、ここでリズムを作っていけるかが後半への走りに繋げるキーととらえました。

上りのリズムはなにも足のストライドを狭くして走り続けるだけではなく、ここから走ろう、あそこまで走ったらちょっと歩きに変えようという、どちらかといったら頭で考えて体を動かすリズムを作っていくのが大事です。そういったなかで自分が実践しているのは「60ステップ・10ステップ」60歩走ったら10歩あるく。体の様子を見てきついようであれば60ステップ・20ステップで10歩多めに歩いたり。

5A手前の柔らかくふかふかのトレイルを走る。静かで居心地も格別。

5A手前のトレイル。静かで居心地も最高。フカフカの極上なトレイルを走る。

 

大事なのは考え続ける事だと思います。無心で没頭して走るのはどういったランニングのシーンでも僕が追求していきたい事ですが、マネージメントの部分では考え続けなければ遠い場所にもいけないし完走もできない。無心で何も考えずに走るのは大事だし、マネジメントの部分はしっかり着実に考えていく。この一見ギャップがありすぎる側面同士のバランス感覚がランニングをやっていて毎回おもしろいなーと思います。

60キロを走ってきた。目の前には魅惑の2キロコースの看板が。

目の前に魅惑の2キロコースの看板が(大会と無関係)。2キロでゴールできればどんなに..。

長い林道は一定のリズムで走りきりました。5Aの手前、笹ヶ峰牧場があります。牛がのんびり草を食べている風景に和み、もうすぐペーサーの小倉さんが待ってる5Aです。足を前に出し続けます。

(PART2に続く)

10357990_856861560994717_1218613551_n

ノリ

1986年、秋田生まれ。

本名 菅原徳人(スガワラ ノリヒト)

国際教養大学大学院卒業後、2013年4月、パタゴニアに入社。(ベイサイドアウトレットストアスタッフ)掛け持ちしながら Run boys! Run girls! で働いている。高校時代、野球・語学留学をしにアメリカ・テキサス州に単身留学。野球でチームが優勝し、自身も州ベストナインに選ばれる。テキサス州選抜チームのメンバーに選ばれ、他州の代表チームとの試合で全米各地を回る。

大学生時代にパタゴニアの創業者イヴォン・シュイナードの著書「社員をサーフィンに行かせよう」を読み、将来の働き方・生き方について考え始める。大学院時代にランニングにはまり、走り始めて10ヶ月でウルトラマラソンを走りきる。

旅行で来たハワイで山の中を走るトレイルランニングというスポーツを知り、その魅力にはまり、海外で働くつもりでいたが一転、自分の好きなライフスタイルをどっぷりできる環境を探し、鎌倉へ。

日々仕事と遊びの境目が無い生活を追求中。