100マイルレースの醍醐味
9月に開催される海外レースに出るために、8月下旬からスイス・イタリア・フランスに滞在し、無事にレースを終え9月下旬に日本に帰国しました。
海外に1ヶ月ほど滞在していましたが、この期間は仕事が長期休暇であったかというとそうではなく、現地で普通に仕事をしていました。
日本での仕事を現地で行っていたため、日本時間に合わせて仕事をしなければならなく、時差対応にかなり苦労しました。
日本とヨーロッパには7時間の時差があり、平日は朝3〜5時から仕事を開始、夕方からは現在大学院に通っているため論文執筆をするという日々でした。従って、現地ではほとんど観光は行うことなく、レース前日まで仕事と論文執筆をしていました。
先月のブログでは、スイスのTrails du Besso(9月3日開催)について書きました。詳細についてはこちらをご確認いただければと思います。
今回は、フランスのGrand Trail de Serre-Ponçon(9月16〜18日開催)という100マイルレースについて書きたいと思います。
スイスのレースではDNFとなりましたが、今回は無事に完走することができました。これで、100マイルレースの完走は延べ10回目となりました。
これまで多くの100マイルレースを経験してきましたが、今回のレースでも過去に出た100マイルレースとは違った経験をすることができました。
私がトレイルランをする中で決めていることの一つとして、原則として過去完走した大会には再チャレンジはしないということです。
その理由として、何か新しい発見を得るという視点でみた場合、同じレースに出るよりは新たなレースに挑戦した方が、トレイルランにおいて必ず新たな発見ができるからです。
トレイルレースはマラソンなどロードレースと異なり、それぞれ個性のある大会が多いスポーツであると感じています。なぜなら、世界各国、それぞれの地域の山の特徴に沿った形でレースが開催されるからです。
例えば典型的な例が、アメリカのレースと欧州のアルプスレースの違いになるかと思います。アメリカのトレイルレースは先月ご紹介したスイスのレースのような険しい山々というのは少ないため、比較的走れるコースが多いというのが特徴です。
一方の欧州のアルプスレースは、険しい山々であるためテクニカルな箇所が多く、アメリカのレースと比べると走れる箇所は少ないといった特徴があります。
このように、走れるレースと走れないレース、それぞれの大会に出て比べてみることで、結果として自分の強みや弱みを発見することにつながるからです。これが、トレイルレースの醍醐味の一つだと私は感じています。
ちなみに今回のレースで学んだことは、レース最終盤が難しいコース設定において、どうレース戦略を立てるべきかを発見できました。
ではGrand Trail de Serre-Ponçonについて具体的にお話したいと思います。
様々な層のランナーが楽しめる大会
Grand Trail de Serre-Ponçonは大きく5つのカテゴリーに分かれており、計約2,000名のランナーが参加する比較的規模の大きい大会となります。
- Grand Trail de Serre-Ponçon Solo(164km 10,600mD+)
- Grand Trail de Serre-Ponçon Team(164km 10,600mD+)
- Trail de Serre-Ponçon(74km 5200mD+)
- Lac et Montagne(49km 3500mD+)
- Trail des Contreforts du Morgon(18km 510mD+)
1と2は100マイルレースのソロとチームに分かれており、私は1のカテゴリーに参加しました。
3〜5のカテゴリーは、100マイルレースと同じコースでの開催でした。上記5つのカテゴリーが、単純にカテゴリー分けされているように見えますが、実際にはそうではありませんでした。
このレース全体の特徴を一言でいうと、初級者〜上級者まで様々なレベルのランナーが楽しめる大会であるということです。
具体的には1、2のロングレースに関しては中級者向けのレースであり、3、4のミドルレースに関しては上級者向けのレース、そして5のショートレースに関しては初心者向けのレースであることが実際にコースを走って感じたことです。
一般的にトレイルレースは、大会ごとに難易度が決まっていることが多いです。ある大会は初心者向けの大会、また別の大会では上級者向けのレースであるといった感じに。日本のレースも同様だと思います。
しかしこの大会では、あえてカテゴリーごとに難易度を分類しており、その理由を考えてみると大会スポンサーであるサロモンの狙いがあるのではと感じました。
ここからは私の推察となりますが、この大会はサロモンのお膝元の大会であり、トレイルランの市場規模拡大のために、サロモンとして様々なランナー層にブランド認知を図ることが狙いとしてあったのではと感じています。
それを象徴するものとして、イベント会場がサロモンブランドを理解できるような導線、仕掛けになっていたことです。
以下の写真の通り、サロモンの設立から現在までの歴史が知れるブースがあったり、またトレイルランのこれまでのプロダクトが展示されていました。
私自身はサロモンユーザーではありませんが、これらブースをみてサロモンというブランドについて理解を深めることができました。
この100マイルレースは100km過ぎてから本格的なレース
では具体的に100マイルレースについてお話ししたいと思います。私がこれまで数多くの100マイルレースを経験してきた中で、今回のレースの特徴を挙げるとするなら、以下3点となります。
- レース前半は関門時間が厳し目の設定である
- レース後半、特に100キロを越えてからレースの難易度が高まる
- 特に山頂を登る稜線の登りが急登である
上記について、以下プロフィールを使って説明したいと思います。
関門時間が厳しい理由は大会運営を第一優先?
上記に示す通り、私は100マイルを42時間かけてゴールをしましたが、私の関門ごとの通過時間を細かく見てみたいと思います。
スタートから50km(3,300mD+)地点までは約9時間で到着。この50キロの関門はスタートから11時間後となっており、この区間はそれなりに走らなければならないコース設定となっています。
また、90km地点(5,400mD+)では、スタートから約18時間後に到着。90km地点の関門時間はスタートから20.5時間となります。
ちなみにゴール(164km)までの制限時間は50時間となります。ここで、多くの方がふと気づくことがあると思います。
90kmの関門時間は20.5時間であり、ゴールの関門時間は50時間。つまり90km〜164kmの約70キロの区間は50時間−20.5時間=29.5時間と、一転して関門時間が緩くなるのです。
私自身、スタートから90kmまでは過去の100マイルレースと比べても、かなりのハイペースでレースを進めました。しかし、90kmの関門を通過後は、一転してゴールまでほぼ歩きのゆっくりペースでレースを進めました。
なぜこんなにも後半の関門時間が緩い設定となっているのか?その答えは、主催者が大会運営を優先しているからです。これは海外レースの特徴の一つであり、過去のブログにおいてもお話したことがあります。
大会運営の優先について具体的に述べると、前述した74kmカテゴリーのレース運営に支障が出ないようにするためです。
74kmカテゴリーのスタート地点は、100マイルレースの90km地点となり、ゴールまでは100マイルレースと全く同じコースを走ります。
74kmカテゴリーのスタート時刻は朝8時。100マイルレースの90km地点の関門時間が朝7時半。つまり、74kmと100マイルのランナーがスタート直後の山中で混走しないための措置なのです。
例えばUTMBは、各カテゴリーが混走しないように上手くスケジューリングされています。その理由は大会の規模が大きく、大会スタッフやボランティアが多いため、細かな運営ができるからです。
しかし、海外レースにおいてUTMBのような規模の大きな大会は稀です。海外レースのほとんどが小規模でかつ大会スタッフに人数も限られている中での開催が多いです。
私が過去に出た、ある100マイルレースでは、スタート後直後のエイドにいたスタッフが、レース後半のエイドでもスタッフとして活動しているのを見たことがあります。
このように、どうしても運営を優先しなければならなく、必然的にどこかにそのシワ寄せがくる。つまりどこかの区間において必ず関門時間が厳しくなるということです。
日本でも今年ハセツネダブル(24時間以内にハセツネコースを2周する)が開催され、私の後輩がダブルにエントリーしたので応援のために現地に行きました。
これも大会の運営上、24時間と設定せざる負えなかったので、結果として完走者が1桁しかいないハードルの高いレースとなってしまったのではないかと私は推察しています。
海外レースにエントリーをする際は、ゴールまでの制限時間に加えて、途中の関門時間も確認の上で、エントリーすることをお薦めします。私も海外レースに出始めの頃は、この確認を怠り、かなり痛い目にあいました。
レース後半が難しい理由は、他のカテゴリーを優先
100km過ぎから難易度が高まる理由として、上記内容と一部重複しますが、上級者向けの74kmカテゴリーに難易度を合わせている、というのが答えとなります。
前述した90km〜164kmの区間は約30時間も時間をかけて走ることができるので、後半は楽に感じるかと思います。私もスタート前には、レース後半はほぼ流しでいけるなと思ってましたが、全くそうではありませんでした。
実際に走ってみて、恐らくミドルのカテゴリーの中でみると、難しいレースの分類に入るのではないかと感じました。とにかく登りがとてもハードでした。
具体的には、ピークが2,500mでかつ尾根沿いの急登の登りが、最終盤に2箇所も設定されていたからです。
前月のブログでもお話しましたが、峠の登りと山頂の尾根沿いの登りは一見同じ登りのように見えますが、難しさは全く異なります。
なぜかというと、峠の登りはトレイルを蛇行しながら登ることができるので、急斜面であってもそれほど傾斜を感じることなく登ることができます。
しかし、上記写真に示すように稜線沿いの登りとなると、傾斜に沿って直線的に登る必要があり、より一層体力を使う必要があるためです。
この登りに加えて、150キロ地点の2,600mの山頂からゴール(標高700m)まで1,900mのダウンヒルもかなり一苦労でした。足が残っていない状態でこの高低差を下るのは、そう容易なことではありません。
レース後半の高低差を、UTMBと比べてみたいと思います。以下UTMBのプロフィールになりますが、レース中盤が標高が高いエリアを走るコース設定になっていることが分かります。
今回、このようなコースレイアウトの大会に参加したのは人生初の経験であり、後半の苦しい状況下において、どのように身体のマネジメントし、かつペース配分をすべきなのか、とても貴重な経験をすることができました。
100マイルレースの経験を積みたい人にはこのレースはおすすめ
このレースは、100マイル初心者にはちょっとハードルが高いため、あまりおすすめできません。
しかし、過去に100マイルレースの完走経験のある方であれば、100マイルレースの経験を積むという目的であれば、ぜひおすすめしたいレースです。その理由としては以下2点あります。
理由1:コース上にスタッフが常駐している
この大会ではコース上、危険な箇所には必ずスタッフが安全確保のために常駐してくれます。加えて、コースの分岐にはスタッフが必ず正しいルートを案内してくれます。
従って、怪我やコースロストとなるといったリスクが少ない大会です。
日本のレースでは当たり前のことですが、海外レースではとても珍しいことです。なぜなら特に欧州における登山は自己責任の文化が強いため、コース上にスタッフが居ることは大変珍しいことです。
従って、私の場合はレースに出るにあたって山岳保険に加入したり、コースをロストしないためにSUUNTOの時計にコースのGPS情報を登録した上で必ずレースに臨んでいます。
コース上にスタッフが常駐している理由を考えてみると、前述の通りこの大会は初心者向けのレースでもあるので、初心者にも安全にレースを楽しんでほしいという主催者側の思惑があるのではと感じています。
理由2:エイドが充実していること
海外レースでは、レースによってエイドの質にばらつきがあるというのが正直なところです。海外レースでは、温かい料理が提供されることはどちらかというと稀な方です。
しかし、このレースではボロネーゼやラザニアなどしっかりとした食事が提供されるので、万一持参した補給食が切れてしまってもエイドの食事で十分補うことができます。
またドロップバックの指定が一切ありません。国内レースやUTMBなど規模の大きい大会では、指定されたドロップバッグを使うのが一般的です。
しかし、この大会ではドロップバッグを自分で準備する必要があり、自由に荷物を預けることができます。
従って、私は渡航用に持参していた50Lのバッグをドロップバッグとして活用しました。シューズやストックの替えまで含めて預けることができましたので、安心してレースに臨める環境かと思います。
また、この大会ではエイドは屋内に設けられており、夜間帯でも身体が冷えることがないということです。海外レースでは、屋外に仮設テントを設置してというのが一般的ですが、この大会のエイドは多くが屋内であり、低体温症となるリスクが少ないのが特徴です。
最後に
私が日本に帰国したのは9月下旬でしたが、9月中旬に水際対策が緩和されPCRの陰性証明書の提示が撤廃され、ワクチン証明書だけで日本に入国することができました。
また、欧州では陰性証明書やワクチン証明書がなくても入国が可能な国も出てきています。来年には多くの国において、恐らくコロナ前のようにパスポートのみで渡航できる環境になるのではと思っています。
コロナに伴い、3年ほど海外渡航が出来ない状況でしたが、海外ではこの3年間で新たなレースがいくつも立ち上がり開催されています。今回の大会もコロナ禍の期間中に始まった新しい大会であり、今年で2年目となります。
私自身、来年は海外レースに3〜4回は参戦したいと考えています。コロナ期間中に新たに誕生した世界各国のトレイルレースに挑戦したいと思っています。
これら大会から得た100マイルレースの醍醐味を様々な視点でこれからも届けていきたいと思います。