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2020年1月3日

Run boys! Run girls!

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トレイルランニングでの体調管理講座「低体温症のしくみと対応 3/4回 〜低体温症の評価」

 
前回の記事から、低温下でのトレイルランニングでどれだけ放熱が進行しやすいかのイメージができました。第3回「低体温症の評価」では、どのような症状になったら低体温症なのか?また、その重症度はどのように計るのか?をご説明頂いています。ご自身の状態を計るだけでなく、周りの方の状態を判断して素早く対処するためにも非常に重要な情報です。
 

<< 低体温症のしくみと対応 >>

第1回:熱の産生
第2回:放熱
第3回:低体温症の評価(本記事)
第4回:低体温症の対応

 

第3回「低体温症の評価」

ポイント

▽野外で正確な体温を測定するのは難しいため、低体温症は症状で判断する
▽確認する症状は「ふるえ」「意識がおかしいかどうか」
▽自力で回復できるのはⅠ度(軽度)まで
(Ⅰ度(軽度)なら競技に復帰しても絶対大丈夫という意味ではありません)
▽「ふるえがなく意識がおかしい」はⅡ度(中度)以上。これが救助要請の基準。

 

▽低体温症とは

 みなさん、低体温症って何?て聞かれたら答えられますか? 医学的には、深部体温で35℃以下の場合を低体温症と呼びます。体温が平熱よりも6℃以上下がると体温調節中枢(視床下部)の働きがなくなり、自力では回復しなくなります。(*4)

 え。いきなり出てきたけど深部体温って何?って人もいますよね。

 一般に、体温には皮膚温と深部体温があります。普段ぼくらが脇の下などで測るのが皮膚温、口の中やお尻の穴で測るのが深部体温です。

 あ、でもちょっとまってください。低体温症は深部体温で診断するからって、野外でズボン下ろしてお尻に体温計を突っ込むのを想像しないでください。

そ・れ・は・や・り・ま・せ・ん
 

▽Swiss Staging

 野外で運動中や直後では正確な深部体温を測定することは不可能です。そのため、体温以外の方法で低体温症の重症度を推測しなければなりません。

 そこで、Swiss Stagingという方法があります。これは大城和恵先生(三浦雄一郎さんのエベレスト挑戦の際に帯同されていた先生)が推奨していて、体温ではなく症状(ふるえ、意識、呼吸・脈)の有無などによってⅠ度(軽度)、Ⅱ度(中度)、Ⅲ度(高度)、Ⅳ度(重度)、の4段階に分類する方法です。表1 (*5,*6)

この方法はとても使いやすいので、僕はトレイルランニングの救護に使用しています。
※本来はふるえ・意識に加え、脈・呼吸で判断します

表1  低体温症の分類
(大城和恵:山岳遭難救助の実際とファーストエイドの考え方 より改変)

 

▽評価の実際

ポイント

▽「ふるえ」が無く「意識がしっかりしている」ならば【予防】へ
▽「ふるえ」があり「意識がしっかりしている」ならば(軽度ならば)【対応】へ
▽「意識がしっかりしていない」「失調がある」なら(中度以上ならば)【救助要請】へ

 野外で低体温かどうかを評価するのは、医療従事者でもあまり慣れていません。ましてや一般のトレイルランナーが「正確に」評価するのは難しい、というのを前提にしてください。

 なるべく簡略化することで評価を行いやすくしましたが、この前提をもとに「もしかしたらもっと重いかもしれない」という気持ちを常に持ちながら、5~15分おきに評価を何度も繰り返してください。
 

「ふるえ」

見てわかる明らかなふるえがあるかを確認します。レースで疲弊している人は明らかなふるえを起こすだけの体力が残っていない場合があるので注意。
 

「意識がしっかりしているかどうか」

 『以下の質問を行います』4つの質問のどれかに答えられない状態を「意識がしっかりしていない」としてください。

  • お名前は?
  • 今日は何月何日ですか?(時)
  • ここはどこですか?(場所)
  • 私(質問者)は何をしている人だと思いますか?(人)
    (「救護の人です!」とか「もしかして、もりもり?」とか正しい返事ならOK)

※本来、医学的には意識状態の変化は専門の評価尺度(Japan Coma ScaleやGlasgow Coma Scaleなど)を用いますが、覚えにくいので上記「名前と時・場所・人」を確認するようにしましょう。

※医療従事者の方は

  • 気道、呼吸、循環も評価してください。
  • 普段自分が使い慣れている意識評価スケールを使用してください。

 

1)「ふるえ」がなく「意識がしっかりしている」場合

→ 正常

 衣服が濡れている、風が強い、雨(雪)が降っている、など、急激な体温の低下が起こる環境であれば【予防】の中で可能な範囲で低体温症の予防を心がけてください。
 

2)「ふるえ」があり「意識がしっかりしている」場合

→ Ⅰ度(軽度)の低体温症

 適切な対応を行えば自力で回復可能です。【対処】を積極的に行い、中度Ⅱへの進行を予防してください。

 レースへの復帰は基本的に考えないでください。が、元気で疲労度も少なく、偶発的な渋滞などによる一時的な熱の産生低下が原因であれば、十分にカロリー摂取ができ、運動可能な場合には復帰も視野に入れてよいと思います。
 

3)「ふるえ」がない/弱く「意識がおかしい」、「失調がある」

→ Ⅱ度(中度)以上の低体温症の可能性が高い

 重症度・緊急性ともに高いです。ペースが急に落ちる、ふらついて転びやすくなる、うまく会話にならない、などの失調症状も出てきます。この状態は自分で判断することは不可能なので、周囲が判断し、現場で活動することを考えず速やかに【救助要請】を行なってください。

 次回、第4回は最後、「低体温症の予防と対策」として、さきほど出てきた【予防】【対処】【救助要請】とは何をしたらいいのか、具体的に話してゆきます。
 

<< 低体温症のしくみと対応 >>

第1回:熱の産生
第2回:放熱
第3回:低体温症の評価(本記事)
第4回:低体温症の対応

参考・引用文献
(*4) 永島計:高体温症、低体温症の病態生理、小児内科:Vol.46 No3,2014
(*5) 大城和恵:山岳遭難救助の実際とファーストエイドの考え方、臨床スポーツ医学:Vol.34 No3,2017
(*6) Brugger H, et al:Resuscitation of avalanche victims:Evidence-based guidelines of the international commission for mountain emergency medicine(ICAR MEDCOM). Resuscitation 84:539-546,2013 

筆者|もりもり(森田孝次)

小児科医でありランナー。トライアスロン、トレイルランニングのレースで救護医を担当することも多い。

https://twitter.com/moritako1121

PROFILE

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Run boys! Run girls!は、東京都千代田区東神田(馬喰町駅)のトレイルランニング・ランニング専門店です。物販だけでなく、情報発信や、ランニングイベント、交流イベント等を行い、トレイルランニング・ランニングの魅力を多くの人に伝えていくことを目的としています。

WEB: https://rb-rg.jp/

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