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2020年5月6日

内坂庸夫 内坂庸夫

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嵐のなかを行く仲間よ 風に吹き飛ばされ、氷雨に打たれる仲間よ

 できすぎたお兄ちゃんふたりの顔色をうかがっていた末っ子ジョージ・ハリスン、いくつか名曲を作っているけど、ついにやらかした。E・クラプトンにリードギターをまかせちゃうというやんちゃぶり、というか大胆素敵。

 アルバムタイトルは《The Beatles》、真っ白なジャケット2枚組は通称《ホワイトアルバム》の名の方が知られていて、その中の「While My Guitar Gently Weeps」はジョンの「エイヨッ!」ってかけ声から始まる。「さあ、ジョージ、やってくれい!」ってとこか。

 そう思っていた。その後に発売されたシングル盤にはその「エイヨッ!」が入っていない。え? ジョンのかけ声は1曲前の「The Continuing Story Of Bungalow Bill」のエンディングなんだと。嘘だろ。

 アルバムで2曲通しで聴いてみればわかる、絶対に誤解するから。オノヨーコの子供のような声が聞ける「・・Bungalow Bill」が、笛ピーピー、拍手パチパチでフェードアウトして終わる、間違いなくこれで終わる。

 ワンクッションあってジョンの例のかけ声、ソク続いてポールのピアノがタンタ・タンタン・・と始まる。曲と曲との間(ま)というか、ピアノにつながるタイミングというか、何度聴いても「エイヨッ!」は「While・・」のイントロとしか思えない(*1)。

 当時はクラプトンがリードギターを弾いた(もちろんクレジットされていない)ことで大騒ぎになったけど、マニア連中はそんなことより「エイヨッ!」はエンディングなのか、イントロなのか、で大騒ぎ。シングルのカッティングミスじゃないか、とか。

 この騒ぎのおもしろいのは、シングル盤(「オブラディ・オブラダ」のB面)しか聴いていないヤツには、なんのことか、さっぱりわからなかったこと。ハナから「エイヨッ!」の存在を知らないのだから。あー、もったいない。

 彼ら4人は英国リバプールの出身。このイギリス有数の港湾都市には、彼ら以外にも多くのロックグループが生まれ育ち、活躍していた。母国では彼らと彼らの曲をマージービート(リバプールはマージー川の巨大な河口に面している)と呼ばれていた。

 レノン・マッカートニーがいくつか曲を提供していた「ビリー・J・クレイマー&ザ・ダコタス」、そして「ザ・サーチャーズ」、「ジェリー&ザ・ペースメーカーズ」あたりが有名だったけど、時は経ち世代は変わり、もはやビートルズでさえ古典、残りのグループの名前を知る人も少ない。

 ところがいまなお、リバプール市民に強く激しく歌い継がれるマージービートの名曲がある。

 5人目のビートルズと呼ばれ、名曲をさらなる傑作に磨き上げた神とも言われるプロデューサー、G・マーティン。そして、革ジャンとジーンズの薄汚い彼らに、スーツを着せネクタイを結ばせた、辣腕マネージャーのB・エプスタイン。

 このふたりが、再びコンビを組んで売り出したのが「ジェリー&ザ・ペースメーカーズ」だ。多くの楽曲でビートルズとUKチャートを競い合った人気グループだけれど、63年10月に全英シングルチャート4週連続で1位を記録したこの曲は別格中の別格だろう、もちろんプロデューサーはG・マーティン。

 「You’ll Never Walk Alone」(*2)

 ここから先は「YouTube」でこれを聴きながら読み進めていただきたい。

Gerry & The Pacemakers – You’ll Never Walk Alone [Official Video]

 言うまでもない、リバプールといえばこのFC、19年度チャンピオンズリーグの頂点に輝いた名門だ。「You’ll Never・・」を歌うジェリー・マースデンの歌唱力の見事なことはもちろん、その歌詞が素晴らしいゆえに、たちまちリバプールFC公式の応援賛歌となってしまう。ホームのアンフィールドスタジアムのゲートには曲名そのものが掲げてある、どんだけこの歌が市民に愛されていることか。

 困難に立ち向かう仲間を愛し、励まし、力を与え、勇気づけるクラブソング。リバプールが戦うとき、ホームではもちろんのこと、アウェイであってもスタジアムのPAから「ジェリー&ザ・ペースメーカーズ」のそれが流れ出るや、サポーターたちは次々に声をあげ、またたく間に特大のフルボリューム、競技場は愛と勇気であふれかえる。

あなたはひとりじゃない

嵐のなかを行く仲間よ
どんなにつらくても苦しくても
へこたれない、尻込みしない
風に吹き飛ばされ、冷たい雨に打たれる仲間よ
顔をあげて、胸を張って、進もう
この困難は終わる、明るく楽しい日々が待っている
思うようにいかなくても、どんなに大変であっても
くじけない。あきらめない
希望を胸に抱きしめて、進もう
あなたはひとりじゃない、あなたはひとりじゃない

 いま、あなたに、あなたの家族に聞いていただきたい(*3)。

 そしてわれわれの命と安全を守ってくれる日本の、そして世界の医療従事者たちに捧げたい。彼らの働きを思うと涙があふれてくる、深く深く頭が下がる。心の底から感謝したい(*3)。

You’ll Never Walk Alone

When you walk through a storm, 
hold your head up high
And don’t be afraid of the dark
At the end of the storm, there’s a golden sky
And the sweet, silver song of a lark

Walk on through the wind
Walk on through the rain
Though your dreams be tossed and blown

Walk on, walk on
With hope in your hearts
And you’ll never walk alone
You’ll never walk alone

Walk on, walk on
With hope in your hearts
And you’ll never walk alone
You’ll never walk alone
 

*1 だから、Macの傑作アプリ「ガレージバンド」を使って曲の頭をずらし、「エイヨッ!」をイントロにした「While ・・」を《iTunes》に入れている。

*2 大ヒットさせたのは「ジェリー&ザ・ペースメーカーズ」だけど、彼らのオリジナルではない。1909年ハンガリーで生まれたオペラが戦後ブロードウェイに渡り、1945年ミュージカル「Carousel/回転木馬」に生まれ変わった。そのときにR・ロジャース、O・ハーマススタイン2世によって作られた楽曲。F・シナトラも、E・プレスリーも歌っている。

*2 この4月末、全英シングルチャート1位は(63年以来再び?)「You’ll Never Walk Alone」。歩行器を使う99歳退役軍人のTom Mooreは、コロナ禍と闘う医療従事者への募金活動を開始(4月30日の100歳誕生日までに自宅の庭25mを100往復してやるぜ)、なんと27億円(4月17日現在)を集めている。同時にミュージカル歌手Michael Ballとのデュエットを歌うや、8万2000ダウンロードを記録。ムーアじいちゃんのチャート1位はむろん英国音楽界最高齢である。

*3 これは早かった。3月20日(金)午前8時45分。コロナに日常を奪われ、不安におののくすべての人に向けて「You’ll Never Walk Alone」がヨーロッパ中のラジオから流れ出た。オランダの「3FM」 DJ Sander Hoogendoorn の呼びかけに応じて欧州31か国、183のラジオ局が時刻をあわせて、いっせいにオンエアしたのだ。

PROFILE

内坂庸夫

内坂庸夫 | Tsuneo Uchisaka

「ヴァン ヂャケット」宣伝部に強引に入社し、コピーライティングの天啓を授かる。「スキーライフ」「メイドインUSA」「ポパイ」「オリーブ」そして「ターザン」と、常にその時代の先っぽで「若者文化」を作り出し、次はなんだろうと、鼻をくんくん利かせている編集者。
 2004年に石川弘樹に誘われ生涯初のトレイルラニングを体験(ひどいものだった)、翌年から「ターザン」にトレイルラニングを定例連載させる。09年に鏑木毅の取材とサポートでUTMBを初体験、ミイラ取りがミイラになって12年吹雪のCCCに出場(案の定ひどい目に遭う)そして完走。(死にそうになったにもかかわらず)ウルトラってなんておもしろいんだろうと、13年、UTMBの表彰台に立ちたい、自身の夢をかなえようと読者代表「チームターザン」を結成する。
 「ターザン」創刊以来、数多くの運動選手、コーチ、医者、科学者から最新最良な運動科学を学び、自らの体験をあわせ、超長距離走のトレーニングとそのマネージメント、代謝機能改善、エネルギー・水分補給、高所山岳気象装備、サポート心理学などを研究分析する。ときどき、初心者のために「100マイルなんてカンタンだ(ちょっとウソ)」講習会を開催してる。

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