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2020年6月3日

内坂庸夫 内坂庸夫

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「女子もやれい!」

 伊豆の先っちょに大好きなサーフポイントがある。8月最後の日曜日、その浜は海水浴シーズンの、つまりは夏の終わり。西日の中に大学のライフセービングクラブ、4年生男子3名が横一列に並び、男女下級生たちと向かい合っている。彼らの夏の活動も終了、そうか、4年生はこれで海の現場を卒業するんだ。

 その3人がいきなり海に走り出した、夕日に向かって走ってゆく。うまいことに波打ち際に大きな岩、ザブザブと水辺を駆け抜け、スルスルと3人が登る。海に飛び込むのかと思ったら、3人ともパンツを脱いだ。右手にその布きれを摑んで仁王立ち、腕を大きく伸ばし、太陽に向かってなにやら大声を上げる、校歌か、部歌か。

 夕日の逆光、全裸の4年男子、見事な体躯はみな黒いシルエットだ。少し手前で見守る男女下級生たち。パンツを穿き直した先輩3人が岩から下り、走り戻る。半泣きがいる。迎える下級生たちもウルウル、遠目にもわかる。照れくさそうに、それでも真顔で抱き合い、肩を叩き、両手で握手。これが青春だ。いいもんだ。

「女子もやれい!」

横でおっさんが叫んだ。おっさんも青春だ。

 彼らライフセーバーたちが見守ってくれるのは夏の海だ。街で、職場で、学校や駅、空港、競技場で人を助けるのはあなただ。大切なことなので胆に銘じておいていただきたい。心筋梗塞に代表される心臓疾患の場合、高い確率で命を救えるのは、その場に居合わせたあなただ。

 心臓突然死で生命を失う人は年間約7万人、1日におよそ200人が亡くなっている。その中で倒れた瞬間を目撃された心肺停止者は約2万5000人。そのうち心肺蘇生(胸骨圧迫や人工呼吸)を受けた人は約1万3600人。さらにその中でAEDを使ってもらったのはわずか4%の1030人(2015年消防庁調べ)。日本国内に設置、用意されているAEDはおよそ60万台、先進諸国のなかでも決して少ない方ではない。けれど前述のように有効的に使われていない。

 なぜ使われない? いちばんの理由は「AEDの知識がないこと」、そして「ためらい」であろう。そもそも人の命を救うのは、専門知識と技術を持った医師で、われわれ市民ができるのは救急車を呼ぶこと、とみんな思ってる。

 ところがだ、心筋梗塞などを原因とする「心室細動」による心停止はその細動を取り除けば、多くの場合、生命が助かる。処置が早ければ早いほどその確率は高い。ちなみに心室細動とは不整脈によって起こる心臓の痙攣、心室が小刻みに震えること。全身に(特に脳に)血液を送ることができず、数分の後に死に至ってしまう。

 そこでAED(自動体外式除細動器)。その細動痙攣を電気ショックによって取り除き、再び心臓に正常なリズムのポンプ活動をさせるのが、つまり生命を救うのが、この装置。なんと素晴らしい。

 AEDの「知識」があればAEDを使う「ためらい」はなくなる、助かる生命が増えることになる。だからAEDとは、を知っておこうよ。

 まず、自動とあるように電気ショックが必要か、そうでないかをAED自身が判断する。だから絶対に失敗はない、患者に対しマイナス要因を引き起こすことは絶対にない。安心していただきたい。

1)装置を開くと、もしくは電源ボタンを押すと、音声でその手順を教えてくれる、言われるままに操作すればいい。さまざまなAEDがあるけど、どれもその操作は同じだ。

2)あなたがAEDの電極を患者の胸に貼りつける。

3)AEDが電気ショックが必要か、そうでないかを判断する。

4)必要な場合は「ボタンを押してください」と指示される。

5)あなたは安全を確認してボタンを押せばいい。

6)必要でないときはボタンを押さない(押しても作動しない)。

 AEDの「言われるままに」「電極を貼りつける」「ボタンを押す」、この3つだけ。どうです、ためらいは消えたでしょう。

 心室細動が原因の心停止の場合、救命率は分単位。1分ごとに7~10%ずつ低下してしまう。つまり、倒れて5分後には50%しか助かる見込みはない。

 救急車を待っている場合ではない(もちろん119番してほしい、すべきだ)、その現場に居合わせたあなたに、あなたにこそAEDを使っていただきたい。あなたの目の前に救える生命がある。

 繰り返すよ。AEDは誰にでも使える、そのために設置してあるのだから。たまたま通りすがったあなたに、生まれてはじめてAEDを手にするあなたに、絶対に、絶対に、失敗なく使える。AEDはそのように作られている。

 そしていま、他の人に触れていいんだろうか? 人を助けることなのに、大きなためらいがある。恐さがある。買い物に出かけたスーパーの店先で人が倒れたら、そこにAEDがあったなら(たいていあるよ)、どうする? あなたなら、きっと、いっさいを忘れて夢中でAEDに取り組むと思うけど。

 前回も同じようなことを書いた。そんな不安をはるか高く乗り越えて、われわれの命と安全を守ってくれる日本の、そして世界の医療従事者たちよ。彼らの働きを思うと目がうるむ、深く深く頭が下がる。心の底から感謝したい。

PROFILE

内坂庸夫

内坂庸夫 | Tsuneo Uchisaka

「ヴァン ヂャケット」宣伝部に強引に入社し、コピーライティングの天啓を授かる。「スキーライフ」「メイドインUSA」「ポパイ」「オリーブ」そして「ターザン」と、常にその時代の先っぽで「若者文化」を作り出し、次はなんだろうと、鼻をくんくん利かせている編集者。
 2004年に石川弘樹に誘われ生涯初のトレイルラニングを体験(ひどいものだった)、翌年から「ターザン」にトレイルラニングを定例連載させる。09年に鏑木毅の取材とサポートでUTMBを初体験、ミイラ取りがミイラになって12年吹雪のCCCに出場(案の定ひどい目に遭う)そして完走。(死にそうになったにもかかわらず)ウルトラってなんておもしろいんだろうと、13年、UTMBの表彰台に立ちたい、自身の夢をかなえようと読者代表「チームターザン」を結成する。
 「ターザン」創刊以来、数多くの運動選手、コーチ、医者、科学者から最新最良な運動科学を学び、自らの体験をあわせ、超長距離走のトレーニングとそのマネージメント、代謝機能改善、エネルギー・水分補給、高所山岳気象装備、サポート心理学などを研究分析する。ときどき、初心者のために「100マイルなんてカンタンだ(ちょっとウソ)」講習会を開催してる。

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