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2021年1月6日

内坂庸夫 内坂庸夫

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100マイルなんてカンタンだ(ちょっとウソ)①

 

vol.1 ヒトは長く走ることが得意だ

「ボーン・トゥ・ラン」によれば、ヒトは200万年の間、集団で走って獲物を狩った。ヒトはそれぞれが役割を分担し、獲物を群れから離し、疲れ果て倒れるまで追い立てた。すなわちヒトは走って生き延びてきた。言葉を変えれば、長時間走れて、チームワークを実現できた種だけが淘汰を免れた。

だから、幼児を見よ。ヒトの子は誰に教わることもなく走り出すし、ヒトの子は走ることが好きだ。

でさ、ここから先が大事なのさ。ヒトにとって走ることは生きることだった。じゃあ200万年間、彼らはどんな走りをしていたんだろ? 狩猟走とはいえ、走っている獲物にピューっと追いついてタックルして倒したわけじゃない。そもそもヒトが全力疾走で、100mを10秒で走ったところで、獲物にはまるで追いつかないんだから(*)。100mを10秒で走る必要はないし、それどころか11秒目に精根尽き果てバッタリ倒れてしまったら、岩陰に隠れていたライオンが襲ってくる。自分が獲物になってしまう。

野山にいる四つ足動物に比べると、ヒトの走る速度は笑っちゃうくらい遅い。けれど、ヒトより長く走り続けられる動物はこの世にいない。だから集団狩猟走なのさ、仲間とチームワークを駆使して追ったのさ、獲物が疲れ果て、倒れるまでジワジワと追い詰めたのさ。

体感的に誰でも知っているはずだ。ヒトはゆっくり走ることが得意で(だから長くどこまでも走れる)、速く走ることは不得意だ(すぐに息が苦しくなって動けなくなる、運が悪いとライオンに喰われちゃう)。カラダとメンタルはつながっているから、得意なことは好きになるし、不得意なことは好きじゃない。

世界中の主要都市でマラソンなる長い距離を走るイベントが行われていて、2万人、3万人のランニング好きが一堂に会することは普通だ。世界中、ちょっとした町ならランニングクラブ、ランニングクリニックがある。たいていは、ダイエット目的で始めたのに、走りのおもしろさにはまって、マラソンでサブ4を目ざそう、サブ3をめざそう、てな人たちの集いだ。ほら、長い距離が好きなのさ。

じゃあ、短距離走はどうだろう? 誰もがマラソンと同じくらい好きかな? 企業や大学の陸上部ならともかく、100mを10秒切るためのフォームの矯正、筋トレのプログラムを教えてくれる市民クラブはあるのかな? そもそも世界の大都市それぞれに2万、3万人もの100mスプリント大好き市民ランナーがいるのかな? 彼らの集う大会ってあるのかな? 

もう一度繰り返そうか。ヒトにとって速く走ることは、短い距離しか進めないことを意味する。現代ならスポーツ競技としては成立するけど、200万年前なら、獲物を追うためには役に立たない、そもそもヒトはちっとも速くないし。短距離しか走れない種は獲物に逃げられ、ゼーハーして疲れ倒れ、他の動物の餌食になってしまった、滅びていった。そして、超長距離を疲れず、どこまでも走れる種だけが生き延びた。

200万年も走っていれば、ライオンに仲間を喰われ、マンモスに父親を踏みつぶされもしただろう、多くを学習しただろう、何度もバージョンアップしただろう。長い距離と時間を走り続ける機能に磨きがかかった、たとえば水冷エンジンとアキレス腱を持つのはヒトだけだ。ヒトは長い距離を走ることが得意なんだよ。長い距離を走ることが好きなんだよ。

あなたがこの世に生まれ、いまこの文章を読むことができるのは、あなたのはるか昔の父親と母親たちが200万年の間「長い距離をどこまでも走れた」からだ。だからあなたも例外ではない。あなたがヒトであるなら、あなたがアキレス腱を持っているなら、100マイルを「カンタンに」走ることができる。

次回はあなたのアキレス腱と、超長距離走能力を復活させる心肺トレーニングを説明したいな。

 

*ヒトの最速スピードを「100mを10秒」とするとキロ1分40だ(10秒後にぶっ倒れちゃうけど)。ゴリラやチンパンジーの最速はキロ/1分30、カバやサイはなんと1分15、まるで追いつかない。イノシシ1分04、キリン1分00、シマウマ55秒、チーターにいたってはキロ30秒だぜ。

PROFILE

内坂庸夫

内坂庸夫 | Tsuneo Uchisaka

「ヴァン ヂャケット」宣伝部に強引に入社し、コピーライティングの天啓を授かる。「スキーライフ」「メイドインUSA」「ポパイ」「オリーブ」そして「ターザン」と、常にその時代の先っぽで「若者文化」を作り出し、次はなんだろうと、鼻をくんくん利かせている編集者。
 2004年に石川弘樹に誘われ生涯初のトレイルラニングを体験(ひどいものだった)、翌年から「ターザン」にトレイルラニングを定例連載させる。09年に鏑木毅の取材とサポートでUTMBを初体験、ミイラ取りがミイラになって12年吹雪のCCCに出場(案の定ひどい目に遭う)そして完走。(死にそうになったにもかかわらず)ウルトラってなんておもしろいんだろうと、13年、UTMBの表彰台に立ちたい、自身の夢をかなえようと読者代表「チームターザン」を結成する。
 「ターザン」創刊以来、数多くの運動選手、コーチ、医者、科学者から最新最良な運動科学を学び、自らの体験をあわせ、超長距離走のトレーニングとそのマネージメント、代謝機能改善、エネルギー・水分補給、高所山岳気象装備、サポート心理学などを研究分析する。ときどき、初心者のために「100マイルなんてカンタンだ(ちょっとウソ)」講習会を開催してる。

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