トレイルを走る目的について考える
今回はトレイルを走る目的について考えてみたい。トレイルレースは走る競技であり、マラソンと同様にタイムや順位を競うスポーツである。
トレイルの経験が浅い頃の私は、タイムや順位を目標にレースに挑んでいた。しかし、経験を積み重ねた今では、トレイルレースは一概にタイムや順位を競うものではないと感じている。
そもそもトレイルランやマラソンをなぜするのか?その目的は、自らの成長のためだと思う。そして成長したかどうかを判断するための指標の一つとしてタイムや順位がある。
マラソンではタイムや順位を指標として成長を実感できるが、トレイルランでは一概にはそうとは言えない。なぜなら、マラソンはどの大会でも概ね同じ条件で開催されるが、トレイルでは同じ条件で開催されることが無いからである。
マラソンコースの条件は、どの大会も平坦な舗装路である。従って、どの大会に出ても実力どおりの結果がタイムに反映される。例えば、あるマラソン大会を4時間で完走し、その半年後に別の大会で3時間30分で完走した場合、タイムを30分短縮したことになる。つまりこのタイム短縮が、走力アップすなわち成長を意味する。
一方、トレイルではそれができない。なぜなら、距離や累積標高が類似する大会であっても、コースの難易度などでタイムや順位に必ずバラツキが出る。ある50kmの大会を8時間で完走しても、別の50kmの大会で8時間で完走できるとは限らない。別の大会では10時間かけて完走することもあれば、12時間かけて完走することもある。つまり、タイムだけで自分が成長したか判断ができない。
■トレイルランで成長を実感するには?
ではトレイルランで成長を図る指標は何か?それは、本人が難しいと感じることや苦手意識を持っていることに挑み、達成することが指標の一つであると考える。
前述の通り、マラソンコースはどの大会でも条件は同じであるが、トレイルのコースでは条件が異なる。つまりトレイルは、大会ごとに個性があるともいえる。
その個性に対して人それぞれ感じ方は異なる。簡単だと感じる人もいれば、難しいと感じる人もいる。また苦手意識を持ってる人もいれば、全く持っていない人もいる。
自分が難しいと感じたり、苦手意識を持っていることに挑戦することで、難しいと感じていたことが簡単に感じ、苦手意識もなくなり自然と順応できるようになる。
一言でいうと出来ないことが出来るようになる。これこそが成長だと私は思っている。
■ロングレースを走る目的は千差万別
100km以上超えるロングレースでは、自分自身の身体と向き合うことがとても多い。ほぼ休むことなく約2日間も身体を動かし続けるため、徐々に身体の機能が失われる。
睡魔や幻聴・幻覚に襲われ、体力も消耗し身体の節々が痛む状態の中で、完走を目指さなければならない。
ロングレースでは、先に述べた自身が感じる難しさや苦手意識よりも、自身が苦しい状況下をどう乗り越えられるかがより重要である。
そう考えると、ロングレースは他のランナーとタイムや順位を競うことではなく、自分自身と戦うためのスポーツであるように感じる。自分自身のために走ること、それはすなわち大会に出るランナーの目的は人それぞれ異なることだと思う。
海外に目を向けても、ロングレースではタイムや順位を意識して走るランナーをあまり見かけない。各国のランナーに大会に出た目的をいつも聞くが、返ってくる答えは人それぞれ異なる。
ちなみに私がロングレースに挑むのは、山の中でしか経験できない非日常的な環境の中で、そこで遭遇する様々な困難を乗り越えること。そこで得られた経験をトレイル以外の公私で活かすことを目的としている。
■海外レースでは完走者全員を称える
海外すべてのロングレースに言えることではないが、レース後の表彰式において完走者全員を称えることがある。UTMBなどの規模が大きい大会では完走者全員を表彰することは物理的に不可能であるが、数百人規模のレースであれば、1人ずつ完走者の名前が呼ばれ全員が表彰される。
完走者全員を表彰する主催者の狙いを考えてみると、主催者は順位やタイムを競わせるために大会を主催しているのではなく、ランナーのそれぞれの目的を達成させるべく大会の場を提供しているのではといつも感じる。
私はレースの完走実績は重要だとは思わない。トレイルランというスポーツを通じて、自分自身をどう成長させるのかを重点に置いている。人それぞれ成長するための目的や手段は異なる。その成長を達成するための手段として、それぞれの目的に合った大会選びをすることが大切だと思う。