守破離
守破離という言葉を聞いたことがあるだろうか。守破離の言葉の意味を説明すると、剣道や茶道などで、修業における段階を示したものである。それぞれの言葉の意味は以下の通りである。
守:師や流派の教え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階
破:他の師や流派の教えについても考え、良いものを取り入れ、心技を発展させる段階
離:一つの流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階
つまり何かを極めるには、守→破→離のステップを踏まなければならないということだ。
守破離の例を説明するには、プロスポーツ選手が一番わかりやすい。プロスポーツ専門のテレビ番組をみると「離」の凄さを垣間見ることができる。例えば、NHKで放送されている「球辞苑」や「サッカーの園」などがその典型例である。
球辞苑では野球に関するテーマ(代打やワンポイントリリーフなど)を一点だけ絞り、そのテーマについて深く掘り下げていく。また、サッカーの園も同様にヘディングシュートやフリーキックなどテーマを一つに絞り、深く掘り下げていく。
私がこの番組をみる理由は、もちろん野球やサッカー好きであることも理由としてあるが、それ以上に「離」の領域に達するヒントを得られることが一番の理由である。
競争の激しいプロの世界で尖った選手として活躍するには、「離」は必要不可欠である。子供の頃から基礎を磨き(守)、そして他人の良いところを取り入れ(破)、最後は他人にはない自分だけの独自の理論や技術を生み出す(離)。
トレイルランにおいても、この一連のステップを踏むことで、自分が目標とする所へより近づくことができる。
私自身これまで守破離をかなり意識し、自分にしかないオリジナリティを追求してきた。そのオリジナリティを武器に、これまで数多くの難易度が高いとされるレースを戦うことができた。
私自身が日々の練習において、守破離をどのように意識していたのかを今回は紹介したいと思う。
「守」では我流はNG
「守」で大切なことは、正しいことを教える人もしくは本などから学んだことをそのまま100%真似をすることである。「守」のフェーズでは、決して我流に走らないことである。
私もトレイルランを始めた時には、理論がしっかりしている経験者に指導をいただき、教わったことを何度も真似をして練習をした。また、山に関する様々な本も読み、その本に書かれていることも真似をして土台作りをおこなってきた。
その土台があることで、今ではマイルレースをコンスタントに走れるようになったし、ほとんど故障しない身体にもなった。また、山で何かしらトラブルがあっても適切な判断ができるようになった。
たまに質より量にこだわる人をみかける。つまり走る距離だけにこだわることだ。よく走り込みが原因で故障する人を多く見かける。
基礎がない時期に大切なことは量より質である。山で走れる身体作り以上に、故障しないための身体作りや登山スキルを習得することを優先したい。
「破」では仲間と切磋琢磨すること
次に「破」のフェーズでは、自分と同レベルの仲間と接点を持ち、ともに練習することだ。そのために、トレイルランのチームに入ることも選択肢の一つだろうし、種々のイベントに参加するのもありだと思う。
私自身も「破」の時期に、RBRGの岩本町トレイルランニングチームの初代メンバーとして大変お世話になった。当時は、レベルの高い仲間と一緒に切磋琢磨することで、自分の弱みや伸ばすべきポイントを知ることができた。
「破」で大切なことは、他人と自分を比較することである。仲間の走りをよく観察することで、その仲間の強みを見つけることだ。
例えば、登りが強い仲間と一緒に練習する際、なぜその仲間は登りが得意なのか、その特徴を見るけることが大切だ。観察しても分からない場合は、本人に直接登るコツを聞いてみるのもありだ。
最も効果的に「破」を遂行するには、レースをうまく利用することだ。私はレース中に、よく周りの選手を観察することや、相手とコミュニケーションの中で相手の良さを引き出すことかなり意識している。
特に海外の選出は、日本人とフィジカル面で大きく異なるため、彼らと一緒に走って新たな気づきや発見を得ることが多い。
「離」では一人での練習に時間を充てる
私の周りで、長年トレイルランをやっているが「離」の領域に達していない人をたまに見かける。自分の強みや武器を知らないというのは大変もったいない。その原因は大きく2つあると思う。
①実践が不足している
「破」で学んだことを練習やレースで実際に活かしていないことが多い。これはビジネスのシーンでもよくあるが、頭では理解しているが行動に移すとできないということが多々ある。自分で分かったつもりになっても自身で再現できなければ「できる」とは言えない。
学んだことを繰り返し練習することで、自分に合うか合わないものか判断がつく。自分にフィットするものであれば、重点的に練習をすることで自分の強みへと変えることだ。
②一人での練習量が不足している
①を効率的に行うには一人で練習をする時間を増やすことである。仲間と一緒に練習をすると、周りに気を使ったり、相手のペースに合わせ走ったりするため、学んだことを試すことがなかなかできない。
ちなみに私は一人で練習する量が圧倒的に多い。割合でいうと、個人練習:仲間との練習=8:2である。
また、私が一人で練習するときは、何の目的がない状態で山には行かない。必ず何かしら目的を持って山に行く。目的意識を持つことも大切にしたい。
ポイントとして、「破」でたくさん溜まったナレッジを組み合わせて、自分にしかないオリジナルなものを作ることだ。そうすれば、自ずと自分にしかない独自の理論や技術を身につけることができる。
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足元では緊急事態宣言が発出され、大会の中止が相次ぐ中、モチベーションが低下している人が多いと思う。これまでお話したことは、レースがない状況下でも出来ることの一つとしてお話した。過去に様々な人から教えてもらったこと、その中から得たことや気づいたことを棚卸しして整理するいい機会だと思う。