町全体がブラックアイスでランニングシーズン終了!
カナダのユーコン準州はドーソン・シティに引っ越してきてはや2ヶ月。バンクーバーを離れた時はタンクトップにビーサンだったのに、すでにこちら極北の地は冬の装備に切り替わっている。外に出るときは冬の厚手のジャケット、手袋、ニット帽は欠かせない。1ヶ月前の9月はまだだいぶ太陽の光が眩しく、Terry Fox Runというチャリティ・ランニングイベントにも参加したのが嘘のよう。
ランニングシーズン終了はある日突然訪れた。朝起きてパートタイムの仕事の面接に出かけようとしたところ、珍しく雨が降っている。なんとなく嫌な予感がして路面をチェックするとやはり!路面がとゅるんとゅるんに凍っているのだ。恐ろしいほどぴっかぴかに輝き、私が家から一歩踏み出すのを今か今かと待っている。
ファイスブックでドーソンシティのコミュニティ・グループページをチェックすると、「周辺の高速道路は安全確認ができず通行禁止になっていて、町も全面ブラックアイス化してるから今日は運転しないほうがいいで」と書かれている。まずい。面接がなければ家に留まったけど、面接の場所は家から1kmもない距離だし、ゆっくり行くことにした。
家を出るとすでに坂道だから「コケないという選択肢」はないというワースト案を胸に抱いて出発。ペンギン歩きで一歩踏み出すたびに「次でコケる」と確信するものの、案外コケない。昨日まで雪で覆われていた道路が溶けてその下にあったブラックアイスが出現しているわけだけど、まだ雪が積もっている場所もあって、とにかくその少しの雪を手掛かりに進む。
車の音が後ろからしたので振り返ると私と同じ速度、むしろ私よりも遅いんじゃないか?という速度で車がやってくる。車がいつスリップしてきてもおかしくないと思い、車の運転手に合図を送って反対側に渡り、道をそれて車が通行するのを待った。
この「町全面ブラックアイス路面歩き」のスリル感は障害物のない障害物レースのようなもの。いつ転んでもおかしくない、いや何度転んでもおかしくない、というかそもそもリスクを取ってチャレンジするメリットはない…。
しかし私には仕事の面接があるし、そのために早く起きて時間はあったから、とにかくゆっくり進んだ。普段なら10分ほどの道のりに30分かかって無事到着。ふ~!
パートナーのルイスは地元の公立高校で働いているんだけど、多くの先生たちが路面の状況で遅れてきたと言っていた。私が通ってるアート学校の先生も今日学校行くの危ないからZoomに切り替えるわ~!って言ってて、なんか自然の脅威に無理しないで、パッと切り替えられる感じがいいなぁと思う。
町に着くと地元のおじいちゃんが「クランポン買いなはれ~」と笑顔で話しかけてきた。こういう日は町の一体感が増して、小さい町だからこそみんなで助け合うことがほんまに必要なんだと思わされる。
パートナーのルイスはドーソンでできたラン仲間と毎週ランに行っていたけれど、「ランニングシーズン終了になったよ」とのこと。早っ!って思ったけど、この走れない不自由さも好きだ。新潟で生まれ育った私は中高陸上競技部で、冬になると雪で走れなくなり、ウエイトトレーニングや、クロスカントリースキーに切り替えて春の訪れを待つのが好きだった。その感じに似ていて「走らなくていいんだ」と安心する。走るのが好きなのに不思議なものだ。
でもその代わり、私もルイスもこの冬新たなスポーツに挑戦することに!ルイスはアイス・ホッケー、私はカーリングのチームに所属してこれから冬を満喫する予定!楽しみじゃ~!…ということで極北の地は早くもランニングシーズンが終了しておりますが、日本の美しい紅葉の秋、収穫の実りを楽しんでくださいな!ではではまた来月!
追伸:幻冬舎が運営する幻冬舎プラスというウェブで「極北でアートを学ぶ」という連載もしています。毎月8日と23日あたりにアップしています。ぜひそちらも読んでいただけると嬉しいです!