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2021年11月4日

内坂庸夫 内坂庸夫

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石川だけが駆け抜けていった

日本ではじめての100kmレースは2008年7月に長野県王滝村で開催された。多くの人は知らないだろうけど、このとき日本のトレイルラニングの歴史に2度とない出来事が起きている。鏑木毅、石川弘樹、そして相馬剛、この3人が揃って出場したのだ。

鏑木は前年2007年にUTMBを経験し、ウルトラの手荒い洗礼を受け車椅子で帰国している。頭の中は次回のUTMB表彰台しかない、(距離の短い)レースを走る必要はない。この「おんたけ100」出場は翌月開催されるUTMBの調整のためだったのだろう。

日本で最初のトレイルランナー,同時に最初のウルトラランナーである石川弘樹はレースに出ないことで知られていた。「ハッピートレイル」で全国を巡りトレイルラニングの普及に忙しかったし、レース開催でも忙しかった。そもそも国内にウルトラのレースが存在しなかった。レースを走らない石川が「おんたけ100」に出るというので、業界は大騒ぎになった。

そして、走れば必ず優勝。新進気鋭、ばりばり現役満載の相馬剛がこのふたりに挑むという。

誰がどんなレースをするんだ? どんな差がつくんだ? 最初からぶっ飛ばすのか、抑えていくのか? そして誰が勝つんだ? ほんとうの王者は誰だ?

この千載一遇の大チャンス、取材したのはいうまでもない、ドラマの一部始終は、大いなる時を超えて近いうちに再出版される(かも)。

レースはでっかいトレーニング

いよいよ本題。今回は「おんたけ100」のフィニッシュの各人のありさま。

でね。カラダにとってレースはでっかいトレーニングだろう。いつも以上に強く,速く、長く運動する。エネルギー消費も筋線維の損傷も心肺系、消化器系のダメージも大きい。ましてや100kmだぜ、疲労は桁外れ、とんでもないトレーニングをしたことになる。

トレーニングならウォームアップとクールダウンは欠かさないだろ。それぞれが必要な理由は説明するまでもない。朝の30分走、最初の一歩からキロ3分では走らない。走り出しはジョグからだ、当たり前だ。

そして30分経ったから、いきなり立ち止まって「はい、お終い」はないだろう。 練習の終わりにはクールダウンするよね。ゆっくりペースを落とし、最後は歩くくらいの速度にして、そして終える(マフェトンではWアップ、Cダウンにそれぞれ15分をかけるという伝統がある)。

さてさて。レースではスタート前にウォームアップできるからいいけど、さあ、問題はクールダウンだよ。レースフィニッシュでクールダウンしてる? 

大きなトレーニングだから疲労や筋肉痛も大きい、達成感もあるかもしれない。ともあれレースではフィニッシュラインを越えたとたん倒れるか、立ち止まるか、のどちらかだ。ペースを落として走り続ける、クールダウンするやつなんかひとりもいない。

ただひとり石川弘樹は違った。鏑木毅はフィニッシュするなりぶっ倒れ、もうひとりのツヨシはうなだれて立ち止まり両膝に手を当てた。

石川は両手を掲げてフィニッシュするや、待ち構えるメディアに応じることなく、そのまま会場を駆け抜け、上着を脱ぎ(この日は暑かった)、裏の公園でペースを落としてクールダウン走をはじめた。

しばらくして石川は、いまでも覚えている、「いやあ、すみません、クールダウンしてました」と言いながら、フィニッシュ現場に戻ってきた。徹夜で100kmを走ったとは思えない爽やかな笑顔だった。

「レースには(にこそ)クールダウンが必要です」

石川は当たり前のことを当たり前に行っていた。そうだ石川はスポーツインストラクターでもあったっけ。

*ランニングは特にふくらはぎを弛緩収縮させる運動なので、一歩ごとに内側の静脈血管が圧迫され血液循環が活発になります(ふくらはぎは第2の心臓と言われるゆえん)。突然立ち止まると(クールダウンしないと)、それまでの勢いのいい血液循環で成り立っていた体調が、貧血、足痙り、吐き気など不調を起こしやすくなります。「クールダウンしない」は単に体内に疲労物質が取り残されるだけじゃないのです。

PROFILE

内坂庸夫

内坂庸夫 | Tsuneo Uchisaka

「ヴァン ヂャケット」宣伝部に強引に入社し、コピーライティングの天啓を授かる。「スキーライフ」「メイドインUSA」「ポパイ」「オリーブ」そして「ターザン」と、常にその時代の先っぽで「若者文化」を作り出し、次はなんだろうと、鼻をくんくん利かせている編集者。
 2004年に石川弘樹に誘われ生涯初のトレイルラニングを体験(ひどいものだった)、翌年から「ターザン」にトレイルラニングを定例連載させる。09年に鏑木毅の取材とサポートでUTMBを初体験、ミイラ取りがミイラになって12年吹雪のCCCに出場(案の定ひどい目に遭う)そして完走。(死にそうになったにもかかわらず)ウルトラってなんておもしろいんだろうと、13年、UTMBの表彰台に立ちたい、自身の夢をかなえようと読者代表「チームターザン」を結成する。
 「ターザン」創刊以来、数多くの運動選手、コーチ、医者、科学者から最新最良な運動科学を学び、自らの体験をあわせ、超長距離走のトレーニングとそのマネージメント、代謝機能改善、エネルギー・水分補給、高所山岳気象装備、サポート心理学などを研究分析する。ときどき、初心者のために「100マイルなんてカンタンだ(ちょっとウソ)」講習会を開催してる。

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