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2023年4月4日

内坂庸夫

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他人に生命を預けること

レースやイベントに参加するって、そういうことです。そんな大げさなあ、と思うかもしれないけど、会場が海や山である場合は特にそう、遊ぶ時間や距離に関係なく「危ない」はひょっこり顔を出します、ちょっと考えりゃわかります。

そもそも山道は凸凹してて、木の根が張り出てて、石ころが転がってて、が当たり前、誰でもよそ見してりゃつまづきます。初めての山ならひとつ分岐を見逃しただけで、簡単に道迷いします。

トラブルの連鎖

自然は人の準備や努力などおかまいなし。たとえば、山岳気象の急変はどうにもなりません、それが引き起こす低体温や脱水は用意した装備では間に合わないかもしれません。風雨に加えて疲労やケガ、ハンガーノック、道迷いが重なったら間違いなく「危ない」でしょう。トラブルは連鎖します、悪いことはもっと悪いことを引き起こします。

そうならないために、あなたは天気予報をチェックし、装備を選択します。コース山域の最新情報を手に入れます。それでも、枯れ葉に隠れた浮き石に気づかず、転んで、沢に落ちて、膝を裂傷、出血するかもしれません。そこはレースコースのいちばん奥深いところで携帯電波の圏外かもしれません。

参加者全員が危ない

レースやイベントで「危ない」のはあなただけではありません。500人が参加するなら500通りの「危ない」が存在します、大会主催者は考えられる限り、できる限りの安全管理(対策)をしなくてはなりません。それが大会を開催する者の責任義務でしょう。

生命を預けても大丈夫?

そもそも大会主催者はどこの誰? 代表責任者はどんな人? 先週から雨が降り続いているけど? 最高標高は何m? そこの予定通過時刻は? マーキングは充分? GPSデータは最新版? 道迷いしたら? レスキューチームは何人? お医者さんや看護師さんはどこで待機? 病院や消防、警察との連絡は? リタイア回収車の巡回時刻は? コース中で携帯電波の圏外はどこ? 

あなたは知りたいことを知っておくべきです、だってあなたの生命が懸かっているのだから。

文句を言うなよ

そして、レースに臨むということは、大会のすべてを了解しました、OKです、ということ、合意、承知の意思表明です。スタートしたら、土砂降りも吹雪も、スズメ蜂もイノシシもクマも、路肩の崩落も泥んこぬかるみも、エイドにコーラがなくてもバナナが売り切れていても、転んで膝をすりむいても、脱水でぶっ倒れても、ぜーんぶ自己責任。「いい」も「悪い」もぜーんぶ自分のせい、走り出したら誰にも文句を言っちゃいけない。それがイヤなら出なきゃいい。

代表はトレランとあなたを愛してる?

実際にはレースで救助活動が行われたり、傷病のために病院に運ばれることは多くありません、まして生命を失うなんてめったにないこと。けれど、「何か起きたとき」のために、規模や選手数などに応じた準備や対策ができていないと「何か起きたとき」に何もできません、参加者が生命を失うかもしれません。

レースやイベントは、言葉に出さずとも、信頼で成り立っています。主催者は参加者の「生命を預かり」、参加者は主催者に「生命を預ける」からです。素晴らしいと言われるレースやイベントは、必ず素晴らしい人が主催しています、代表責任者になっています。彼・彼女の人格やそのスポーツに対する愛が、参加者への愛が、その大会を素晴らしいものにしています。

あなたは、その大会を、その主催者を、信頼できますか?

内坂

PROFILE

内坂庸夫 | Tsuneo Uchisaka

「ヴァン ヂャケット」宣伝部に強引に入社し、コピーライティングの天啓を授かる。「スキーライフ」「メイドインUSA」「ポパイ」「オリーブ」そして「ターザン」と、常にその時代の先っぽで「若者文化」を作り出し、次はなんだろうと、鼻をくんくん利かせている編集者。
 2004年に石川弘樹に誘われ生涯初のトレイルラニングを体験(ひどいものだった)、翌年から「ターザン」にトレイルラニングを定例連載させる。09年に鏑木毅の取材とサポートでUTMBを初体験、ミイラ取りがミイラになって12年吹雪のCCCに出場(案の定ひどい目に遭う)そして完走。(死にそうになったにもかかわらず)ウルトラってなんておもしろいんだろうと、13年、UTMBの表彰台に立ちたい、自身の夢をかなえようと読者代表「チームターザン」を結成する。
 「ターザン」創刊以来、数多くの運動選手、コーチ、医者、科学者から最新最良な運動科学を学び、自らの体験をあわせ、超長距離走のトレーニングとそのマネージメント、代謝機能改善、エネルギー・水分補給、高所山岳気象装備、サポート心理学などを研究分析する。ときどき、初心者のために「100マイルなんてカンタンだ(ちょっとウソ)」講習会を開催してる。

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