SOUTH-南米編- ③ボリビア(コパカバーナ)
星野さんの南米自転車旅行第3回です。今回星野さんはドミトリーでなくシングルルームの宿泊をこだわったそうですが、その理由とは??
前回のブログはこちら
2023/1/10
7:30 チチカカ湖へ向けてホテルを出発。まずはすり鉢の底から脱出しなければいけないため、2日前にフルブレーキで降ってきた坂を、今度は必死で押し上がっていく。
坂の斜度は街中でも10%以上。最大では25%くらいあったと思う。荷物が無ければ漕げそうな坂もあったけど、流石に足をつかずに全部登り切るのはマウンテンバイクじゃないと無理じゃないかな…。
帽子のツバからも汗を滴らせながら必死で押すこと1時間半。何とかすり鉢の縁にたどり着く。息も絶え絶えで蟻地獄から脱出した蟻の気分。
ただ見下ろす街並みはやはり美しく、爽やかな風に吹かれていると汗も引いた。
相変わらず所構わず止まるタクシーや、山ほど野菜を積んだリヤカーをマリオカートのようにヒラリヒラリとかわしながら市場の喧騒を抜けていく。
露店街を抜けると急に車線が増え、一気に走りやすくなった。
朝ご飯は国道沿いの屋台。
大鍋で揚げ焼きにした卵とトマトにマヨネーズをかけてパンに挟み、たっぷりのコーヒーと共に提供してくれる。
どんどん卵を揚げていくおばちゃんとそれを受け取りサンドイッチにして客にサーブするお姉さん。こういう屋台の職人芸ってずっと見てられる。
再びバイクにまたがって走り出す。緩やかに降る国道はほとんど力を入れなくてもペダルがまわる。標高4,000mでは空気抵抗すら薄く感じる。両側に立ち並ぶ建物はどんどん後方へ流れ、かわりに赤茶けた大地と牧草の広がる丘陵地隊が現れた。
チチカカ湖へ向かう国道2号線沿いでは、約30−40km毎に集落が現れる。
そこには大体プレハブや屋台の露店があり、飲み物やパン、お菓子などを補給できる。
また合間の牧草地隊では、恐らくその辺りに住んでいるのだろうチョリータ(民族衣装を着た先住民族の女性)がよく道路脇に立っていて、通りかかるタクシーやバスを停めて乗り込む姿をよく見た。
恐らく近くの集落や町まで買い物に行くのかな?
牛や羊を飼い、野菜を育て、井戸水を汲み上げる。
物々交換が貨幣制度に変わり、自動車の登場で移動が早く楽になっても、恐らく本質的には何百年も前から変わらぬであろう生活がそこにはある。
足るを知る。
生きる上で本当に必要なものなんて、きっとそんなに沢山は無いのだろう。
と、急にペダルが重くなり、後輪からドコドコと嫌な音がする。
あ~…と思いながらバイクを止め。恐る恐るタイヤを触るとベッコリへこむ。
パンクだ…
バイクを車道から移動し、羊たちに見守られながら早速パンク修理を開始する。
くそっ、タイヤレバーはもう一本持ってくるべきだった…
ヤバい、このペースだと予備チューブ足りるかな…
やっぱりフロアポンプが小さいと空気入れがツラい…
足るを知れない私はいつだって欲しいものばかり。
後輪を外して点検すると、小さな金具がしっかりとタイヤに刺さり、チューブに小さな穴が開いていた。
通常のライド中であれば時間と手間を優先してチューブごと交換してしまうのだけど、今日はこれから続く長い旅の実質まだ初日。予備チューブの数にも限りがあるので、これくらいの穴であればチューブを交換するのではなく、パッチを貼って塞いでしまうことにする。
パッチ修理って実は初めてだったけど、キレイにできた。
ちょうどすぐそばに屋台があったため、止まったついでに小休止。
可愛いセニョールが店番をしていて、チョコマカと働く姿にパンクでささくれ立った心も癒された。
タイヤと気持ちの修理を終えリスタート。
今まで以上に路面に注意を払いながら走っていると、前方にキラキラと輝く大きな湖が見えてきた。チチカカ湖だ。
チチカカ湖はボリビアとペルーの国境にまたがり標高3,810mに位置する。総面積は8,372㎢と何と琵琶湖の12倍!そして100万年以上前から存続する古代湖と呼ばれる希少な湖らしい。
今回、私はペルーとの国境を有するチチカカ湖畔のリゾート、コパカバーナまで行きたいと思っていた。
現在時刻は16:00、コパカバーナまでは残り約80km。
明るいうちにたどり着くのはちょっと厳しそうなので、ここからは何となく宿泊場所を探しながら進む。
湖畔には幾つかホテルも点在していたため値段を確認すると大体150~200BS(3,000~4,000円)。日本円に換算すれば決して高いわけでは無いけれど、ボリビア物価では高級ホテル。まだまだ旅が始まったばかりの現状で泊まるにはちょっとハイグレードすぎる。
とすると次の選択肢は野宿。
ただこちらも湖畔はかなり家々が立ち並んでいて、空き地を見つけて気軽にテントを張れる雰囲気ではない。
うーむ、どうしたもんかと思いながらしばらく進んでいくと、幸いなことに道はリゾートエリアを抜けて峠道に入って行った。
山間に暮れなずむ夕陽を追いかけるように進むこと約1時間。チチカカ湖を望む絶景の駐車場に無事チェックイン。
テントの換気口からキレイな月が見えた
2023/1/11
チチカカ湖にのぼる朝日に見送られて出発。
コパカバーナのある対岸へはフェリーで渡る。
標高4,000mの峠を走り続けること3時間。とうとうコパカバーナの街が見えた。
街には11:30頃に到着。
さすがリゾート地だけあって至る所にホテルが立ち並ぶ。まずは概要を把握すべく予約サイトでコパカバーナのホテルをチェックしてみると嬉しいことにそれほど高く無い、というかラパスに比べれば寧ろ安い!
厳選した結果、40BS(約800円)でトイレ、シャワー付きのシングルルーム。しかも12:00からアーリーチェックイン可能という完璧なホテルを見つけ早速予約。
湖畔リゾートのチルな雰囲気がすっかり気に入ったのと、実はボリビア入国以来、高度障害なのか風邪なのかどうもスッキリしない体調を完全回復させたかったため、結局この街には3日間滞在した。
【コパカバーナでの日々】
(食べ物)
ボリビアは果物が安くて美味しい。
なので朝食はいつも市場で果物を買って食べた。
トルーチャ(ニジマス)はチチカカ湖の名産。
ふっくらした身は骨離れが良くフワフワ。蒲焼風の味付けも日本人好み。
鶏肉のスープとセットで10BS(約200円)。
食べ終わったお皿がキレイなのでいつも店員さんに褒められた。
貧乏性なだけです…
(観光)
湖畔には海の家ならぬ湖の家がズラり
レイクアクティビティーも充実
バナナボートのように船で引っ張る。流石に乗客を落とすサービスはしてなかった。
子供たちは湖水浴。ただし気温は日中でも15℃前後なのでかなりの猛者。
滞在中は乗ってる人は見かけなかったけど、馬で湖岸散歩も出来るみたい。
コパカバーナのアイコン、カルバリオ山に登る。後から調べたら宗教施設という位置づけらしい。
トレイルヘッド
なかなかの急登
ピークから街を見下ろす
(火花シャワー事件)
ボリビアのシャワーは電気シャワーと言って、蛇口は一つでお湯を出したい時は水道管に繋がる電気ケーブルのブレーカーをオンにして水を温める方式。
ところがブレーカーをオンにした瞬間、バチバチッという音がして上から火花が降ってきた!
慌てて水を止めようと蛇口を触ると今度はビリビリッと感電。
素っ裸でシャワールームから飛び出すと部屋中にモクモクと煙が立ち込め焦げ臭い。
とりあえずタオルを手にグルグル巻きつけて何とかブレーカーを切って水を止める。
服を着てホテルのスタッフに言ったら平謝りされて、別の部屋のシャワーを案内された。シャワーを終えて部屋に戻るとベッドの上にトイレットペーパーが幾つか置いてある。どうやらお詫びという事らしい。こういうところがボリビアの人って憎めない。笑
1のブレーカーを上げて、2を捻ったら、3から火花が降ってきた!
(お世話になったHOSTAL)
上述の火花シャワー事件以外にも、最初に案内された部屋が違っていたり早朝に断水未遂が起こったり色々とあったけど、部屋は清潔だし繁華街からも程よく離れているため静かで総じて居心地の良いホテルだった。
特にフロントの少年(名前聞いておけばよかった)は、日がな一日ハリーポッターの映画をつまらなそうに見ながら店番をしているのだけど、私が出かけたり、帰ってくる時はいつも「何か御用はありませんか、ミスター?」と言わんばかりにニコッと笑いかけてくれて、彼一人でこのホテルのホスピタリティーは爆上がりした。
2023/1/14
チルなリゾートタイムにすっかり癒され、体調もすっかり回復したので、今日からいよいよ南下開始。
まずは往路と同じ道を逆行して、エル・アルトまで135kmを一気に走り抜ける。
早朝出発
チャオ、コパカバーナ
峠道は今日も美しい
バナナシェークで補給 美味い!
登り返すのはもうコリゴリだったので、すり鉢の底には降りず、エル・アルトの市街でホテルを探す。
タマ数が少なくて若干苦労した結果、トイレ、シャワー付きで70BSのシングルルームにチェックイン。もちろんwi-fiもビンビン。
コパカバーナに比べれば倍近いけど、こればっかりは物価の違いということで致し方ない。
実は私はこの時、ドミトリーでは無くシングルルームに拘る必要があった。
こんなお気楽な旅をしているとは言え、世間的には私はただの無職。なのでこの日程で幾つかの企業、エージェントとWEB面談をすることになっていた。
流石に街中のカフェやホテルのシェアスペースというわけにもいかないので、しっかりと話のできる個室を確保した次第。
伸ばし放題だったヒゲも剃り、久しぶりのビジネストークにかなり緊張したけど、現状と今後の展望等、意見交換することができて、何となく心が少し軽くなったような気がした。
コパカバーナへのショートトリップ、エル・アルトでのリモート面談を経て、身体、気持ち、環境においてやっと長旅の準備が整った気がする。
特に帰国後のことについては、好奇心の優先順位が低いからといって決して存在自体が無くなるわけではない。一旦棚上げして日本に置いてきたつもりではあったけれど、やはり心のどこかで常に気になってはいた。
そんな現状や経緯も含めて他者と共有したことで、逆に腹がくくれたのかも知れない。
この旅が、就職に、もっと言えば私の人生にとってどんな意味があるのかなんて今はわからないし、考えることに意味は無い。
そんなことより、今この一日、この一漕ぎを全力で楽しもう。
明日からはいよいよ世界有数の絶景、ウユニ塩湖を目指す。
そこには何が待っているのだろう。
Tomorrow never knows.
きっと明日は明日の風が吹く。
(続く)
星野 耕平
でかい波、高い山、長い道が好き。
トレラン歴は約15年。UTMB、Tor Des Grants、Andorra Ultra Trail等完走。
自主イベントとしては自転車日本縦断、歩きお遍路結願等。
座右の銘は「No wave,No life.」
個人ブログ:100mile
http://kh100mile.blog.fc2.com/