気象リスクについて考える
過去にお天気の仕事に携わっていたので、今回はお天気に関する話をしたいと思います。
ここ最近、異常気象という言葉をよく聞くようになりました。この言葉を聞くと、大雨・台風・猛暑など、どちらかというと暑さをイメージされると思います。
また、季節をみても昔と比べて冬・春・秋の季節が短くなったと感じる一方、夏の季節が長くなったと感じられるようになりました。
しかし、近年の冬・春・秋においても、異常気象までいかないものの、以下のように季節外れの天候となったことがありました。
冬:2016年1月24日
沖縄の名護で観測史上初の雪
春:2010年4月17日
東京で観測史上最も遅い降雪
秋:2016年11月24日
首都圏で観測史上初11月に積雪
地球温暖化といわれている中で、ここ近年でも季節に関係なく過去に経験したことがない天候となっています。
レースにおいては、2019年UTMFが季節外れの天候の中での開催が記憶に新しいところでしょうか。4月下旬にも関わらず、河口湖周辺の気温は氷点下となり、東京都心の気温も10℃ほどで日中でも厚手のコートを着ていたのを覚えています。
天候への順応力、判断力
私も経験ありますが、雨・風・気温が影響し、レース本番に本来の力が発揮できなかったということが、一度はあるのではないでしょうか?
では、天気が晴れることを祈るしかないのか。これではいつまで経っても、悪条件の天候の中で力を発揮することができません。
天候というのは、相手と同じで自分の力でコントロールができないものです。であれば、相手と接する際に自分が相手に合わせるのと同じように、天候においても自分自身が天候に合わせる。言い換えると、どのような天候においても順応できる力が、私は必要であると感じます。
特に、山ではこの順応力が求められます。山の天気は変わりやすく、入山時の快晴から一転、山行中に天候が悪化するということが多々あります。このときに冷静な判断が出来ないと、取り返しのつかない事故となってしまいます。
これはトレイルレースでも共通して言えることです。しかし、判断力においてレースと日常の登山や練習に大きな違いが一つあると私は思います。
それは、普段と比べてレースでは適切な判断が出来なくなるということがあります。
私が参加したレースの中で、その判断に関する事例をここで紹介したいと思います。
半世紀ぶり大寒波の中でのレース
そのレースは、毎年1月下旬に開催されるVibram Hong Kong 100です。この時期の香港の気候は最低気温が平均15℃、最高気温が平均19℃と日本でいうと4月頃の暖かさとなります。
しかし、私が参加した2016年は、59年ぶりの大寒波が到来し、市街地の気温は3℃、香港最高峰の大帽山(標高957m)は−6℃でかつ雪が降るという悪条件の下でレースが開催されました。
厳しい寒さの中、大帽山周辺のコースが凍結し、100名以上のランナーが先に進めず山中に取り残され低体温症となりました。その後、レースは打ち切りとなり、取り残されたランナーはレスキュー隊によって救出されました。
以下、プロフィールを使って詳しく説明すると、凍結区間は大帽山山頂からゴールまでの区間となります。なぜ全面的に凍結したかというと、この区間が全てロードだからです。
私も凍結し始めた路面の中を走り、幾度も転倒を繰り返しながら標高差約500mを下るのに1時間以上かかったのを記憶しています。
(完走タイムが17時間以降のランナーが凍結を経験、一方トップランナーなどが走った時間帯はまだ凍結はなかった)
明暗は最終エイドでの判断
全てのランナーが大帽山に登ったわけではく、その手前の最終エイドで自らDNFの決断をしたランナーも数多くいました。このエイドステーションが判断の分かれ目だったと思います。
私はこのエイドから先に進む判断をしました。その判断に至った理由は、エイド到着の際に標高の高い大帽山で仮にトラブルがあっても対処できる体力や装備品があるのかなど、様々な状況を頭の中で想定した上で、最終的に進む決心をしました。
私と同様に先に進むと判断したランナーの中に、私と同じ判断が出来なかったランナーがいたのではと感じます。
そのように考える理由として、ゴールまで残り僅かで完走したいという思いが強かったことや、体力を消耗したことにより適切かつ冷静な判断が出来なくなってしまったものと考えられます。
個々の安全に対する意識を高める
レースは100%安全に配慮して開催されますが、冒頭述べたような季節外れの悪天の中でレースが開催されることも十分に有りえます。
個々の登山スキルに当然ばらつきがありますが、今現在ではそのスキルを可視化するモノサシはありません。したがって、大会主催者は、レース中に怪我などを除いて、ランナー個々に走る・走らせないという判断を下すことはできません。
安全に関してレース運営者に任せるのではなく、ランナー個々が気象リスクを含め安全に対する意識を更に高めていくことが大切だと感じます。