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2020年11月4日

内坂庸夫 内坂庸夫

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食べずに走れば速い、え?

脂質代謝とハンガーノックの話です、ウルトラを走る人にも、距離の短いレーサーにも役立つ話だと思うな。昨年、24時間走の帝王、石川佳彦さんにインタビューしました。

石川佳彦さんは31歳、1988年4月25日生まれ。鳴門高校卒業後、日亜化学工業入社、ごく普通のサラリーマン。そして24時走世界ランキングは2016、2017、2019年1位。

  • 2012/6 隠岐の島ウルトラマラソン100km 優勝
  • 2015/9 丹後100kmウルトラマラソン 優勝
  • 2015/9 香港ウルトラマラソン100km 優勝
  • 2016/1 宮古島100kmウルトラマラソン 優勝
  • 2016/3 南横ウルトラマラソン100km 優勝
  • 2016/4 ランアクロス台湾 106km 優勝
  • 2016/9 丹後100kmウルトラマラソン 優勝
  • 2016/12 神宮外苑24時間チャレンジ (263.127km)優勝
  • 2017/1 宮古島100kmウルトラマラソン 優勝
  • 2017/3 南横ウルトラマラソン100km 二連覇
  • 2017/4 富士五湖ウルトラマラソン118km 優勝
  • 2017/6 飛騨高山100kmウルトラマラソン 優勝
  • 2017/7 IAU24時間走世界選手権(270.870km)優勝
  • 2017/9 スパルタスロン(246km) 4位
  • 2017/12 東呉国際ウルトラマラソン 優勝
  • 2018/4 富士五湖ウルトラマラソン118km 優勝
  • 2018/4 室戸阿南ウルトラマラソン108km 優勝
  • 2018/6 飛騨高山100kmウルトラマラソン 優勝
  • 2018/8 ベルリン100マイル 優勝
  • 2018/9 スパルタスロン(246km) 優勝
  • 2018/12 IAU24時間走アジアオセアニア選手権(253.420km) 優勝
  • 2019/1 COLD WATER RUMBLE100マイル優勝
  • 2019/7 バッドウォーター135マイル優勝
  • 2019/9 丹後100kmウルトラマラソン優勝
  • 2019/12 東呉国際ウルトラマラソン24時間走(279.827km) 優勝
  • 2020/2 タラウエラ100マイル 2位

19年7月のバッドウォーター135マイル(216 km)を21時間33分01秒で走破。フィニッシュテープを切って、へたりこむかと思いきや、サポートの女性にプロポースしてみんごと「イエス!」の返事をもらった日本快男児。こう言えば思い出す人がいるかも知れない。

17年にいいのわたるさんが初出場&初優勝(24時間56分19秒)したときもびっくりしたけど、石川さんはそれを3時間20分も縮めている。

舗装路超長距離の帝王の石川さん、山道はどうかと言えば・・はじめてのトレイルラニングレースは2019年1月のCOLD WATER RUMBLE100(マイル)優勝、2020年2月のタラウエラ100(マイル)で2位になっている。この人、もっともっと山走りを練習して、UTMFやUTMBに出たらどうなっちゃうんだろ?

で、あれこれいろんな話を聞いて、最後に「レース中の(種目やコンデションによって変わると思いますが)エネルギー補給は、何をどのくらい摂るんですか?」と尋ねたんだよ。

石川 ボクはできるかぎり食べないんです。

ウチサカ え? 食べないって、ウルトラを走っていて補給しないんですか?

石川 長い距離を走るときはできる限りカラダへの負担を減らしたいんです。そもそも走りながら、モノを食べて消化吸収、エネルギーに変えるって、カラダにはとんでもない無理をさせているんですから(*1)。だったら、食べない方が《速いペースを保てる》《疲れない》《ラクに走れる》《距離を伸ばせます》

ウチサカ じゃあ、飲まず食わずってこと? まあ、水は(と電解質)は大事だから飲むとして・・。

石川 ボクはカラダの中に貯め込んだ「脂肪」をエネルギーにしています、そもそもウルトラ走は有酸素運動ですから,主たるエネルギーは脂肪です、カラダには体脂肪という名前で最初から無尽蔵なくらいエネルギーが蓄えられていますから、日頃からその脂肪をエネルギーとして使えるカラダになっておけばいいんです。いわゆる脂質代謝のカラダです。

ウチサカ おお! いまどき流行の「ファットアダプテーション(*2)」。さらに昔にマフェトン走と抱き合わせだったたんぱく質重視食。日常から糖質を減らした食生活をすれば、カラダがいやおうなしに脂質代謝のカラダになってゆくという。

石川 そうです。だからボクは毎日、朝食の前に、お腹が空いた状態で、20km~30kmくらい走ります。ハンガーノックへの耐性を作れます。

ウチサカ へえ、毎朝体内の糖質(血糖)を使い切るわけ?

石川 はい。そうすると、カラダはイヤでも脂肪に手をつけざるを得ないでしょう。とはいえ、レースでは糖質が必要なので(*3)、いやいやジェルを摂ります。

だそうです。追っかけ調査では、いま、石川さんは《いっさいエネルギー補給なし100km走(8時間前後)》を月に3回くらい走っている。

レース中に食べることは「カラダの負担になる」ことは知っているよね。だから、できるかぎり「糖質の食べる回数を減らす」「糖質の食べる量を減らす」。すでにカラダに満載されている脂質をエネルギーとして使える体質への改善。シンプルなアイディアだけど、実践し、結果を出しているのはすごいなあ。モノをいっさい食べずに8時間走るんだよ、キロ4分48秒で100kmだぜ。

*1 
カラダを動かすこと(心筋を激しく活動させる、血液循環を速くする、アドレナリンを分泌する、など)は自律神経の片方《交感神経》の縄張りです。ところが食事(胃の消化、小腸での吸収、エネルギーへの変換)は、血圧を下げたり、心拍数を下げたり、睡眠へ誘導するもうひとつの自律神経《副交感神経》の支配下になります。

なので、走りながらモノを食べる(消化、吸収してエネルギーに変換する)のはカラダにとって、とんでもないこと。交感神経と副交感神経が喧嘩します、むちゃくちゃ負担が大きいんです。走れば走るほど体調不良へと突き進みます。そもそもランニング中の血流は下肢筋肉に動員され、消化器官と機能には行き渡りにくいし。

最初の1~2時間はダマせるでしょう、でも自律神経が喧嘩してる時間が長くなったり、運動強度が高かったり(ペースが速いとか)すれば、やがてアウトです。食べられない、胃痛、嘔吐、そしてそもそもの体調不良により走行不能、エネルギー枯渇によりリタイアになります。

でも、その負担を屁とも思わない選手がいます、日本では山本健一さん、海外ではパタゴニアのクリッシー・モールさんです。いわゆる「食べられる選手」「胃の強い選手」です。

*2
ようは糖質制限による体質改善。じわじわと3食の食事から砂糖を避け、炭水化物の総量を減らせばいい。石川さんのように朝食の前に走れば、イヤでも脂肪を主燃料としてつかわざるを得ないカラダになる。走り終わったあとでも長時間脂肪が主たるエネルギーとして使われてゆく。

*3 
手足の筋肉や心臓は脂肪でも動くけど、司令塔であるノーミソだけは、唯一ブドウ糖じゃないと動かない。1日の必須カロリー(基礎代謝)の24%(およそ1/4)はノーミソが喰っちゃうそうです。日本人成人男子の基礎代謝(運動せずグータラしてるだけ)を1600Kcalとして、それを糖質だけでまかなうとして(1g=4Kcal)換算すれば400gが必要、このうち96gをノーミソがぶんどっちゃう。運動中ははるかに多くのカロリーを消費するから、筋肉は脂肪でまかなうとしても、ノーミソのために糖質(いちばん効率がいいのはブドウ糖)を食べなきゃいけません。

おまけ。ノーミソへの糖が足りなくなると、カラダは自己防衛のためにブレーカーを落として、ご主人さまをぶっ倒す、動けなくする、これがハンガーノック。筋肉は脂肪で動くから、手足はピンピンしてるのにな。だから5分も大の字になっていれば、脂肪からブドウ糖が再合成されれてノーミソは復活する、運動の命令も出せる。走り出せるけど、再合成が間に合わないからまたぶっ倒れる。

つまりさ。脂質代謝のカラダになろうってのは、脂肪から糖を再合成させる能力を高めることでもあるのさ。石川さんが言っているハンガーノックへの耐性を高めるってヤツ。距離の短いヴァーテイカルレーサーにも絶対に必要なパフォーマンスだと思うな。

PROFILE

内坂庸夫

内坂庸夫 | Tsuneo Uchisaka

「ヴァン ヂャケット」宣伝部に強引に入社し、コピーライティングの天啓を授かる。「スキーライフ」「メイドインUSA」「ポパイ」「オリーブ」そして「ターザン」と、常にその時代の先っぽで「若者文化」を作り出し、次はなんだろうと、鼻をくんくん利かせている編集者。
 2004年に石川弘樹に誘われ生涯初のトレイルラニングを体験(ひどいものだった)、翌年から「ターザン」にトレイルラニングを定例連載させる。09年に鏑木毅の取材とサポートでUTMBを初体験、ミイラ取りがミイラになって12年吹雪のCCCに出場(案の定ひどい目に遭う)そして完走。(死にそうになったにもかかわらず)ウルトラってなんておもしろいんだろうと、13年、UTMBの表彰台に立ちたい、自身の夢をかなえようと読者代表「チームターザン」を結成する。
 「ターザン」創刊以来、数多くの運動選手、コーチ、医者、科学者から最新最良な運動科学を学び、自らの体験をあわせ、超長距離走のトレーニングとそのマネージメント、代謝機能改善、エネルギー・水分補給、高所山岳気象装備、サポート心理学などを研究分析する。ときどき、初心者のために「100マイルなんてカンタンだ(ちょっとウソ)」講習会を開催してる。

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