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2021年7月28日

ユウタ

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トレイルランニングのトレーニングにおける3つのパラダイムシフト

一年で一番暑い時期が来ましたが皆さん元気にお過ごしでしょうか?極寒というイメージのあるカナダですが、6月末から7月頭にかけて熱波が到来し過去最高気温49.6℃(!!!)を記録しました。そんな記録的猛暑の週末に先輩ランボーブロガー、ケロズカップルとバンクーバー島にあるキャンプ場へ行きキャンプを楽しみました。夏でも朝晩は冷んやりする日が多いのですが流石にこの日は夜中まで暑くテントで寝付くのに苦労しましたが(特に犬が)とても楽しい夏の思い出が出来ました。

Englishman River Falls Provincial Park

3つのパラダイムシフト

今月もいつもお世話になっているJason Koopコーチのブログから面白い記事を紹介させて頂きます。

トレイルランニングのトレーニングを組み立てる際、ロードランニングのトレーニング理論に基づいてトレーニングを組む方が多いかと思いますがより良い結果を求めるためにはトレイルランニング独自の考え方を持つことが大切です。

1. トレーニング量を距離でなく時間で管理する

マラソンやトラックを走るロードランニングでは例えば月間走行距離300kmのようにトレーニング量を距離で管理することが多いです。トレイルランニングと比較してペースの変化が少ないロードランニングではこれでも問題ありません。

例:インターバル走のペース2分30秒/kmの選手のジョギングペース5分/km

しかし平地や上り、下りと傾斜に大きな変化があるトレイルランニングではそのペースは環境によって大きく変化します。

例:平地でのペース4分30秒/kmの選手が登りを歩くペース20分/km

下記のグラフは週間走行距離が同じであるランナー2人のペース毎の走行時間です。1人目のランナーは主にロードを走り、2人目はトレイルを主に走っています。グラフより、主にロードを走るランナーのペースが一つのスピード帯に大きく偏っているのに対して、トレイルをメインに走るランナーのペースは大きくバラツキがあることが分かります。

ロードメインのランナー
トレイルメインのランナー

トレーニングを時間で管理するメリット

トレーニングの刺激に対する身体の適応は走行距離ではなく、ある強度で走った時間に影響されます。
例えばVO2maxを向上させるためにはVO2maxの90%以上の強度で10分以上走ることが必要になります。走った距離ではなくどれだけの時間その強度で走ったかが重要です。

2. 強度を心拍数でなく自覚的運動強度で管理する

多くのサイクリスト達はパワーメーターを利用して何ワットの力を発揮しているか測定しながらトレーニングを行なっています。そうすることでコーチやアスリートがトレーニングの強度を正確に設定することができます。

以前は心拍数が強度の設定に広く用いられてきました。トレーニングにおける心拍数の設定はトレッドミル上を計測器などをつけて走るなどしてLT(乳酸性作業閾値)における心拍数を推測しそれを参考にトレーニングの強度を設定していました。

サイクリスト達がパワーメーターをトレーニングに利用し始め、心拍数と同様にLTにおけるパワーを計測してトレーニングに用いるパワーの範囲を設定します。サイクリストやトライアスリートが強度の設定を心拍数からパワーに移行すると、心拍数で強度を設定することの問題点がある事が分かってきました。

その問題点とは、インターバルトレーニングを進めていくとパワーは一定であるにも関わらず心拍数が上下に変動していく現象が見られました。同様の現象が長時間ライドでも見られました。

この現象が一般的に知られるようになり、著名なコーチ Joe Friel が 心拍数とパワーが離れていく現象を ‘decoupling’ (分離現象)と名付けました。

心拍数からパワーに移行して数年後に当時を振り返ると心拍数は多くの生理的なサインを見逃していたことに気が付きました。

トレーニング強度をパワーで設定するメリット

気温や標高などが常に変化していくトレイルランニング(特にレース中)では心拍数が環境に大きく影響を受けてしまうため心拍数を参考にするべきではありません。長距離レースでは涼しい朝にスタートして日中気温が上がり、再び夕方になり気温が下がることで心拍数の設定を複雑にしてしまいます。同様に標高が上がることで心拍数への変化をもたらせます。更に脱水やカフェインなどの刺激物、そして眠気なども心拍数に影響を与えるためそれを基にレースプランを設定するのは不可能でしょう。

レースでは普段のトレーニングを同じ方法を利用して強度を設定するべきです。そこで用いるのは自覚的運動強度 RPE(rate of perceived exertion)です。RPEはトレイルランニングにおける環境因子や生理学的因子の影響を受けることなく用いることのできる指標です。普段のトレーニングでもRPEを利用して強度の設定をしましょう。

RPE

ここで少しRPEについてお話しします。以前のブログでも紹介したRPE(自覚的運動強度) ですがこれは運動時に感じる負荷を6〜20までの15段階で数値化したもので、この数値を10倍するとおおよその心拍数になるように設定されています。

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RPE(Borg Scale)

この指標は主観的な負担を数字で表したものなので、気温や標高など外的因子に左右されず実際自分の身体がどう反応しているかをより正確に表すことができます。

トレイルランニングに使えるパワーメーター

Jason Koopの記事ではトレイルランニングで使えるパワーメーターはまだないとの事でしたが、STRYDのPower Meterという靴紐に小さなセンサーを付けることで足の動きを3次元に解析し速度、加速度、衝撃などを計測してパワーを計算するツールが最近は自分の周りのランナー達の間でも広まってきているのを感じます。なかなか良い値段はしますが、とても小さなセンサーで重さもあまり気にならず、より多くのデータが収集できます。

3. 累積標高差ではなく1マイル(km)毎の標高差が重要である

ガーミンの時計やストラバのアプリを使うことで累積標高差を確認することができます。走行距離と同様簡単に記録できて過去の記録や他人の記録と比較することができます。トレイルランナーは単純に累積標高差が多ければ多いほど良いと考えがちですが、トレーニング効果は単純に累積標高差だけに左右されるものではありません

1マイル(km)毎の標高差を記録するメリット

アップダウンのある場所でトレーニングをする事で身体に起こる反応として大きく分けて2つあります。

1つ目は下りを走ることで脚の筋肉が遠心性収縮に適応していきます。人間の身体は Repeated bout effect(繰り返し効果)により遠心性収縮後の筋肉へのダメージは2回目、3回目とトレーニングを繰り返す毎に少なくなっていきその刺激に徐々に適応していきます。Repeated bout effectを期待するのに必要な刺激の量ははっきりと分かっていませんが、比較的小さな数字だということが分かっています(たった1度のトレーニングでも効果あり)。

2つ目は平地・上り・下りで異なる身体の使い方に慣れることです。下りに関しては累積標高差が1000mだろうと3000mだろうと重要ではありません。大事なのは累積標高差ではなく、どう身体を動かしてどれだけ股関節・膝・足関節を異なる角度で使うかです。自分が出場するレースで1マイル(km)毎の標高差を確認することが重要です。

例:累積標高差5000mの50マイル(80km)レース → 100m/マイル(62.5m/km)

(※この計算で求められるのはあくまでコース全体における平均の傾斜であってセクション毎に傾斜が大きく異なるのでより細切りにして計算した方が正確な数値が計算できます)

レースで想定される傾斜を把握してトレーニングする事で平地・上り・下りそれぞれに上手く適応する事が可能になります。

最後に

テクノロジーの進歩により以前より手軽に多くのデータが収集できるようになりました。最近では心拍センサーを胸に付けなくとも心拍センサーが内蔵されている時計も一般的になってきました。しかし複雑な環境の中行われるトレイルランニングでは最新のテクノロジー(心拍計)よりも原始的な自分の主観(RPE)の方が重要であるというのはとても面白いなと感じました。(心拍計から得られるデータが無意味ということではありません。)
ツールに頼るばかりではなく日々のトレーニングの中で自分の感覚を研ぎ澄ませることが大切ですね。

PROFILE

ユウタ | Yuta Yamato

整形外科で働く理学療法士(physiotherapist)。サッカー/フットサル漬けの学生生活を経て社会人となり山を走り始める。2013年にUTMF、Tor des geants完走。
2015年から2017年までカナダで生活し帰国後RBRGスタッフとして3ヶ月働く。
現在はカナダでphysioとして働くべく再移住に向けて準備中。

WEB: https://yutaphysio.com

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