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2021年12月15日

ゆっきー

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失敗から学ぶ

 
電球や蓄音機を発明したことで有名なエジソンは、これらの発明に加えて約1,000件の特許を取得したことでも有名だ。

このイノベーションが生まれた背景には、これら数多くの特許取得もさることながら、その背後には無数の失敗の積み重ねが隠れている。

なぜか人間は失敗という言葉を聞くと、ネガティブに捉えてしまう。日々の生活において、人間は失敗を避けようと意識して行動することが多い。

しかし、成功を収めるためには、数多くの失敗を経験し、そこから学ぶことが重要であるというのが私の持論である。

なぜなら私自身のキャリアにおいて、失敗から学ぶという教育を受けてきたこともあり、その思いは人一倍強い。

社会人としての最初のキャリアは、メーカーでの航空機の設計業務であった。航空業界というは、他業界と比べて失敗から学ぶことが徹底されている業界として有名だ。

具体的には、過去の航空機事故を教訓として、同じ過ちを繰り返さないことが徹底されている。

ここで航空機による死亡事故の統計を見ると、2013年において世界全体で約3,600万回のフライトで累計約30億人を航空機は輸送したが、そのうち亡くなったのは200人ほどである。

この数字がどれほど凄いものかを比較するために、医療事故での死亡者と比較してみたい。

ある論文によると、アメリカにおいて回避可能な医療過誤による死亡者は年間約40万人にものぼるらしい。

また、ジョン・ホプキンス大学の試算によると、これを航空機事故に換算すると、毎日2回の頻度で世界のどこかで航空機による死亡事故が起きている計算となるようだ。

つまり、飛行機に乗って死亡する確率と、アメリカで手術を受けて死亡する確率を比較すると、後者の方が高いということだ。

この話をすれば、航空機による死亡事故がいかに稀であるかが分かる。ではなぜ、これほどまでに航空機による死亡事故が少ないのか?

それは死亡事故含めた様々なインシデントが発生した場合、そのインシデントから学ぶことが、航空業界として徹底されてからだ。

もし何らかのインシデントが発生した場合、国内外の航空局が主体となり原因が徹底解明される。そして原因が特定・解明された後に、航空局より調査報告書が作成される。

その報告書の内容が、世界の航空会社・機体メーカーなどに共有されることで、同じ過ちを繰り返さない構造となっている。

このような規制が厳しい環境下で、私自身も新米の頃に機体のある部位の設計ミスをしたことがあった。

そのミスは航空機の墜落に関わるようなものではなかったが、そのミスが起きた原因を航空局から徹底的に尋問された経験がある。

航空局から同じ設計ミスが起きないために、私個人に加えて会社組織として改善を図るよう指導を受けた。

このような苦い経験もあって、失敗から学ぶことに関して人一倍強い思いを持っている。

◇     ◇

前置きが長くなったが、ここから本題に入りたい。トレイルランにおいても、同様に失敗から学ぶことが重要だと私は感じている。

トレイルランでの成功体験、つまり自分が納得・満足のいくレースや練習だけでは、失敗から学ぶ状況を作り出すことは難しい。

従って、失敗から学ぶためには失敗する状況を意図的に作り出すことが必要である。

トレイルランで何かしらの目標を掲げているのであれば、成功体験を積み重ねるよりも失敗経験を積み重ねた方が、目標の達成には近道だと感じる。

私自身も目標を達成するために、日本国内のレースより海外レースの方が、失敗する機会が多く、また学びもたくさんあることを理由に、今は海外レースだけに専念している。

では私自身が、失敗する状況をいかにして意図的に作り出しているのか、いくつかの事例を紹介したい。
 

失敗する機会を意図的に作り出す方法

大会前に試走をしない

大会前に試走をしてしまうと、本番で失敗する機会を失ってしまう。もしレースに出場する目的が順位やタイムを狙うことであれば、試走をすることは有効である。

しかし、目的がそれ以外であれば、試走はあえて行わずに、出たとこ勝負で挑んだ方がいい。

私自身、過去国内のレースに出ていた時は、よく試走をしていたが、海外レースを出始めてから、必然的に試走をすることができなくなった。

そのため、出たとこ勝負でレースに挑むようになってから、失敗から学ぶためには試走をしない方がいいことに気づいた。

例えば、あるレースにおいて標高差1000mの登りの区間があったとする。もし事前に試走をしている場合だと、コースの特徴を把握した上で、ペース配分を上手くマネジメントして登ることができる。

しかし、試走をしていない場合だと、コースの特徴が分からずペース配分が難しい。日本では標高差1,000mの登りは珍しいが、海外では当たり前のようにコースに組み込まれている。

海外レースに出始めの頃は、いつもペース配分を間違えて、登りの後半でペースダウンをすることが度々あった。

このような失敗を何度も繰り返し学習してきた結果、今では標高差1,000mで初めて登るトレイルであっても、ほとんど苦労せずにラクに登ることができる。

もし試走をした場合だと、レース本番で標高差1,000mを無難に失敗することなく登ることができるため、失敗から学ぶ機会が得られない。
 

レース戦略を立てない

前述した試走に関する内容と全く同じである。レース前に事前に戦略や計画を立ててしまうと、失敗から学ぶ機会が得られない。

「全く計画を立てるべきではない」というわけではなく、ざっくりとしたプランニングに留めておく方がちょうど良い。

例えば、エイドでの補給計画を決めずにレースに挑むとしよう。その場合、レース中にガス欠になる、もしくは内蔵を壊して食べ物が受け付けない、といったことになる可能性が高まる。

あえて計画を立てないこと、つまり意図的にガス欠や内蔵がダメになる状況を作り出すことで、これらの原因を特定することができる(自分の身体と相談し、また大会運営に迷惑をかけない範囲でやること)。

以前の私は、ガス欠や内蔵を壊す癖があったが、補給方法に関して様々な試行錯誤を繰り返してきた結果、ある条件になるとガス欠や内蔵を壊すことが判った。

今ではレース中にガス欠や内蔵を壊すことは一切なくなり、私がロングレースで戦うことができている強みの一つとなっている。
 

同じレースには極力出ない

過去出たことがある大会に改めて出る場合、コースの特徴やレースの雰囲気が、頭と身体に記憶されている。そのため、初回よりも二回目のレースの方が、失敗する確率は少なくなる。

従って、出場経験のある大会より未経験の大会に出た方が、失敗から学ぶという観点では効率的だ。同じ大会でも毎年コースが変わる場合(例えば今年のFTRのように)であれば、積極的に参加した方が良い。

私も海外レースを選ぶ条件として、一度完走したレースには出ないと決めている。これだけ数多くの海外レースを経験しているが、参加するレース全てが初めて走るコースであるため、必ず何かしらの失敗と学びがある。

様々なレースに出るには、時間も含めた一定の投資が必要となる。だが効率的に成長するには、日本全国各地のレースに出ることを是非おすすめしたい。
 

自分が簡単だと感じるレースには出ない

自分が簡単だと感じるレースに出ると、恐らく失敗から学ぶ機会は得られないだろう。その機会を得るためには、自分が難しいと感じるレースに出ることだ。

私は、たいていヨーロッパアルプスのレースに出ることがほとんどだが、実はアメリカのレースには一度も出たことがない。

なぜなら、アメリカのレースはヨーロッパと比べて走れるコースが多いからである。その一方で、ヨーロッパのレースは本格的な山岳レースが多い。

私自身、今では厳しい環境下においても、ある程度順応できる身体となっているため、アメリカのような走れるコースでは、失敗の機会がなかなか得られない。

しかしながら、アメリカ国内においてもロッキー山脈で開催されるHardrockを筆頭に、難易度の高いレースがいくつかあるため、将来はアメリカのレースに挑戦してみたい。
(Hardrockは今年も含めて、毎年ほぼ抽選エントリーしているものの、なかなかご縁がない。。)
 

失敗を積み重ねると新たな発見が

意図的に失敗するメリットとして失敗からの学びを取り上げたが、これ以外にもう一つメリットがある。それは、新たな発見や気づきである。

トレイルランで、まだ具体的な目標が定まっていない場合において、まずは未経験なことにチャレンジし、そこから多くの失敗を経験することをおすすめしたい。そうすることで、自分が目指すべき方向性が見えてくる。

私自身もトレイルランを始めた頃は、100マイルレースを完走したいとか、海外レースに出たいという目標を掲げていたわけではない。

当初は、右も左も分からない状況で、とにかく様々なことを実験的に試して失敗を繰り返すことに没頭していた。

その失敗する過程の中で、自分の強みを発見でき、その強みの伸ばしていくプロセスの中で、自分が進むべき方向性を見つけることができた。

失敗から学ぶことは費用対効果が最もよい。同じ大会に出続けることも選択肢の一つだが、意図的に環境を変えて、様々な大会に出て数多くの失敗を経験することも、成長のためには必要不可欠だと私は感じる。

※編注

文章をしっかり読んでいただければわかると思いますが、ここでの”失敗する”という言葉は「予想外の出来事、状況、レース展開を歓迎する」という意味です。無謀な挑戦や、リスクを無視することを推奨するものではありません。

文中で筆者自身が
>(自分の身体と相談し、また大会運営に迷惑をかけない範囲でやること)
と言っているように、一旦山に入ったら/レースに出場したら、無事に下山することが一番大切です。トライアンドエラーをする際にも、そのことを常に念頭においておきましょう。

PROFILE

ゆっきー | Yukihisa Nakamura

海外のトレイルレース延べ2000km
本格的に海外を走り始めて4年、年500kmのペースで世界の魅力的なトレイルを駆け巡っています。
山本来の魅力を肌で感じることが好きで、有名な大会よりかはニッチでテクニカルなコースを選びがちです。
Swisspeaks 360km(Walker's Haute route)、UTMR 170km(Tour Monte Rosa)など完走。
2020年も日本で知られていない世界各国の魅力的な山・トレイルに出逢うこと。

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