100マイルレースの価値について
今回は100マイルレースの話を。コロナ禍となりトレイルレースの中でも最も遠い存在となったのが、100マイルレースであると私は感じている。
私が知る限り、日本国内での100マイルレースはほとんど開催されていない。国内レース全体をみても、ロングレースはショートやミドルレースと比べてほとんど開催されていない印象だ。
従って、私を含めて100マイルレースへの挑戦を待ちわびている人が多いと思う。
私自身もこの先のレース計画は未定ではあるが、コロナの状況をみて渡航が可能であれば、今年の夏は海外の100マイルレースに挑戦したいと思っている。
今年に入り2月は東京マラソン、今月はUTMFと大規模な大会が開催に踏み切ったことで、他の大会も追随して開催すると思われる。
従って、今年はコロナ以前と同じく多くの100マイルレースが開催されることを期待しつつ、100マイルレースの価値って何なのか私なりの考えを話してみたい。
私の100マイルレースに対する思い
私はこれまで過去に延べ10回の100マイルレースに挑戦してきた。私は基本的には100km以上の大会にしか参加しない、生粋のロングレース派である。
そんな100マイルレースを中心に活動している私がよく思うことは、100マイルレースを走る人間は一体どのくらい世の中にいるのかということだ。
一説によると、日本のトレイルランの人口は約30万人と言われている。仮にそのうちの10%(10人に1人)が100マイルレース経験者と見積もっても日本には3万人しかいないことになる。
日本の人口比でみると、1億人に対して3万人なので0.03%とかなり希少性が高いことが言える。だが、私はこの数字以上の価値が100マイルレースにはあると感じている。
100マイルレースをフルマラソンのサブ3と比較することが正しいかどうか分からないが、サブ3と比べても、私はマイルレース完走の方が価値あるものだという考えである。
私自身、フルマラソンでのサブ3は未達(ベストは3時間7分)であり、このようなことを言える立場ではないことは、重々承知の上で話しをしている。
ちなみに私はサブ3への挑戦をもうかれこれ8年間していない。サブ3の達成が困難だと思って諦めたのではない。8年間の中で、サブ3へ挑戦する機会を作ろうと思えば作れたが、あえて挑戦はしなかった。
なぜなら、サブ3より100マイルレースに挑戦する方が価値があると思ったからだ。
8年前のその当時は、まだ100マイルレースを完走したことがなかったが、周囲の仲間で100マイルレース完走者の話を色々と聞いてみると、100マイルレースの方が自分の人生にとってプラスになると感じたからだ。
そこで思い切ってフルマラソンを走ることを止め、100マイルレースを完走することに重きを置いた。今でもその選択肢は正しかったと思っている。
初めて100マイルレースに完走した後、自分の価値観が大きく変化した。その結果、一度切りの100マイルレース完走に留まらず、その後も延べ10回も100マイルレースに挑戦し続けてきた。
価値観に大きな影響を与えた具体例を挙げるなら、このようにRBRGでブロガーとして海外レースの魅力やロングレースの魅力について私なりの情報発信をしているのも1つである。
これがもしサブ3達成を目標とし、もし仮にサブ3を達成してもRBRGでブロガーはやっていなかったと思う。
では100マイルレースの完走が、私の人生において具体的にどのような価値観の変化を与えたかをより詳しく話してみたい。
100マイルレースではメンタル力が鍛えられる
100マイルレースとフルマラソンは同じ走るという競技であるが、実は大きな違いがある。それはメンタルだと思う。
100マイルレースとフルマラソンをそれぞれ完走するために必要とされる要素を、心技体として因数分解してみると、私の経験から以下のような構成比となる。
フルマラソンは30キロ過ぎからの粘りが重要で、当然メンタルも必要とされる。しかし、フルマラソンと100マイルレース両方の経験がある私の感覚では、フルマラソンは「心」より「技」「体」の方が重要であるという認識だ。
一方、100マイルレースでは「技」「体」以上に「心」が完走には必要不可欠であると私は感じる。
つまり、100マイルレースでは「技」「体」をいくら持ち合わせていても、メンタルを鍛えておかなければ完走することが難しい。
私は海外の100マイルレースで世界各国のランナーと一緒に走ってた中で、メンタルの強さにはいつも驚きを感じている。
これらのランナーの特徴として、大雨や雪が降ろうが、気温が40℃、氷点下など過酷な条件であっても、表情一つ変えることなく、淡々と自分のペースでレースを進めている姿を見てきた。
海外の100マイルレースからメンタルの重要性を叩き込まれたのも大きい。
トレイルラン以外の領域でメンタルが活かせる
では100マイルレースでなぜメンタル力を鍛えると良いのかといえば、その培ったメンタル力を他の領域で活かせるからだ。
私の場合だと、仕事においてそのメンタルを活かすことができている。100マイルレースを完走する前までは、難易度の高い仕事になるとよく心が折れて、正直妥協することが多かった。
しかし、現在は100マイルレースで培ったメンタル力を駆使して、難易度の高い仕事でも粘り強く仕事ができるようになり、結果として成果も出るようになった。
一方で、サブ3の挑戦をそのまま続けていたら、今の自分がどうなっていたのかと考えてみると、恐らく仕事で成果が出てなかったと思う。
決してフルマラソンをやる意味がないと言っているのではない。これはあくまでも私自身の見解であり、人それぞれ価値観が全く異なるため、私の考えがしっくりこない人も当然いると思う。
私が言いたいのは、100マイルレースでメンタルが鍛えられるから良いと言っているのではない。100マイルレースから学ぶことが多いと言いたいのである。
つまり、人それぞれ100マイルレースから得られるものが異なる。新たに得られるものが多いのが100マイルレースである。だから100マイルレースは価値があるというのが私の持論である。
100マイルレースの凄さを他者へ伝えるには?
100マイルレースの凄さを他者へ伝えることは難しい。恐らく、トレイルランナーの中でもロングレース未経験者にとって、100マイルレースの凄さが分からない方がいると思う。
なぜ100マイルレースの凄さが伝わりにくいのか、フルマラソンと比較して説明してみたい。フルマラソンだと、完走タイムをもとにフルマラソンの凄さを他者へ伝えることができる。
例えば、フルマラソンもしくはランニング未経験者であっても、フルマラソンを3時間で完走することが、どのくらい凄いことなのか理解することができる。
なぜ理解ができるのかというと、フルマラソンは完走タイムというモノサシを使って比較対象ができるからだ。
一方、トレイルランだと、完走タイムだけでランナーを評価することができない。なぜならレースによって難易度が異なるからである。つまりUTMFとUTMBの完走タイムを単純に比較できないということだ。
マラソンの場合だと、エリートランナーは2時間強で走るというのが、世の中で認知されているため、3時間台で完走することも一般人からみて凄いと感じる。
ではトレイルランで、UTMFを40時間で完走とUTMBを45時間で完走はどちらが凄いのかというと、これは100マイルレース経験者にしか、その凄さを判断することができない。
つまり言いたいことは、日本人の大多数はトレイルラン未経験者であり、この方々へ100マイルレースを完走する凄さを訴求することがとても難しいということだ。
私自身、職場や取引先との会話においてトレイルランの話をするが、まず100マイルレース完走の話をしても相手がピンとこない。
彼らからすると、100マイルだろうが100キロだろうが50キロだろうが、同じ括りにしか見えていない。
従って、私が彼らに言っている言葉は、「2日ほどかけて山旅をしています」で留めている。それ以上の話をしても彼らから理解を得ることが難しいからだ。
100マイルレースの価値を可視化するには?
現状のトレイルランナー個々のスキルを指標化しているのは、ITRAのPerformance Indexだけだ。
トレイルランナーはこの指標を理解ができるが、トレイルラン未経験者にとってこの指標を理解するのは難しい。
そう考えると、トレイルランは完走タイムや上記指標で価値を判断するのも一つの選択肢としてあるが、これとは別の尺度があっても良いと感じる。
例えば、トレイルランナーそれぞれの人生にどのくらいプラスの影響を与えるかというものだ。
それを可視化することは、私は重要だと思う。なぜならトレイルランの発展に寄与すると考えているからだ。
100マイルレースを通じて得られるものが多い。自分自身に磨きをかける手段として、100マイルレースの魅力を多くの方が情報発信することも大切だと思う。
地道に情報発信をすることで、トレイルランの人口増加、引いては100マイルレースの人口増加につながると私は感じている。