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2022年7月6日

内坂庸夫

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必携装備はいらない

「必携装備」という規則。つまりは装備すべき用具用品の表記と、それらを持っていないときのペナルティは、2012年第1回「UTMF」開催のときに大先輩の「UTMB」の競技規則をそのまま導入したことから始まる。

競技時間が夜になるウルトラ(でなくても)では当たり前の「必携装備」だけど、よくよく考えてみればヘンじゃないか?

大会主催者が選手の安全のために万全を期すのは当たり前。けれど、レースに必要な用具用品は選手自身が選び決めるべきで、主催者から押しつけられるもんじゃないだろ。ましてや、その装備をレース前やレース中にチェックしたり、持っていないとペナルティを課すっておかしいよ。

いま日本では、ウルトラのレースにエントリーするには、事前に同様の距離を経験していたり、必要なポイント数(これもレース経験が豊富ってこと)を持った選手に限られている。そのレースにどんな装備やトレーニングが必要なのか十分にわかっているはずだ。よくも悪くもトレラン初心者や山岳経験の乏しい人はウルトラを走れない。

持つことが優位

たぶん、
『寒さに震えたり、道に迷うのはあんたの勝手だ。だけど助けに行くのはわれわれなんだからさ、どうか面倒を起さないでくれ。あんたを背追って○○山を越えるのは大変なんだから。コレとアレを用意しろと書いてあるだろ、それなのに持っていないあんたが悪い。事故が起きてもあんたの責任だからね、裁判なんか起こさないでくれよ』
 裏にはそんな理由もあると思う。

10年前、ウルトラや100マイルレースに対して、日本のトレイルラニングが未熟だった時代なら「自身の安全管理を教える」という意味で「必携装備ルール」は必要だったかもしれない。
 けれど、時は経ち、前述の通り経験豊富な人しか走らない(走れない)のなら「必携装備ルール」はもういらない。推奨(強くお奨めする)装備のリストを表記することはあっても、持っていないとペナルティですよ、という子供じみた規則は外していいんじゃないかな。

10年を経て、実際のウルトラや100マイルでは、世界トップの数人以外は〈装備を持たない=軽量化=優位〉ではなく、〈装備を持つ=安全確実=優位〉ということがわかってきたからでもあるし。

たとえばこんな表記

・この大会には「必携装備」のルールはありません、なにひとつ用具用品を携帯しなくてもペナルティはありません。
・距離は100マイル、標高差累積は8000m、競技時間は最長36時間。大会開催時の平均最低気温は2度、平均最高気温が38度。毎年、低体温症でリタイアする選手が10%、熱疲労・脱水症でリタイアする選手が20%です。なお、今回大会当日の降水確率は80%と発表されています。
・これらのレース環境に対応できる装備の携帯をお奨めします。

ほんとうの自己責任

自分のやること(ここでは装備を選び携帯すること)に責任を持つ。自分自身に迷惑をかけない(ケガをしない、事故を起こさない)、他人に迷惑をかけない(心配をかけない、捜索されない、救助されない)。それがトレイルラニング/レースでの自己責任だと思う。
 自己責任の国アメリカ。あの「ウェスタンステイツ」に「必携装備ルール」は存在しない。自分で考えろよ、だ。レインは必要なのか? だとしたらゴア、それとも? 灼熱対策はどうする? 氷は? 水場は? そもそもエイドには何がある? 携行食はジェル、固形物? 電解質はタブレット、OS-1? 
 もうレースは始まっている、装備を用意するだけでじわじわと順位が決まってゆく。これが「ウェスタンステイツ」、米国のトレイルラニングの原点。

おまけ

それでも規則に「必携装備』があるのなら、守らないわけにはいかない。よく《ライトとバッテリーは予備にそれぞれもうひとつずつ》ってあるよね。ふたつ目を(軽量化のためだろうけど)光量の弱いキャンプ用ライトにしてる人がいる。それだと、いざというときになんの役にも立たない、暗い=走れない、点灯時間が短い=持っていないのと同じ。
 なので必携装備であろうとなかろうと、ライトはまったく同じ(強力な)ものをふたつ用意する、同じに機能して同じに走れるライト。予備とはそういうこと、間に合わせじゃない。ライトの重量は「光量と点灯時間」つまり「夜間走力」じゃん。夜を走るレースなら装備の中でいちばん削ってはいけない重量だと思うな。

PROFILE

内坂庸夫 | Tsuneo Uchisaka

「ヴァン ヂャケット」宣伝部に強引に入社し、コピーライティングの天啓を授かる。「スキーライフ」「メイドインUSA」「ポパイ」「オリーブ」そして「ターザン」と、常にその時代の先っぽで「若者文化」を作り出し、次はなんだろうと、鼻をくんくん利かせている編集者。
 2004年に石川弘樹に誘われ生涯初のトレイルラニングを体験(ひどいものだった)、翌年から「ターザン」にトレイルラニングを定例連載させる。09年に鏑木毅の取材とサポートでUTMBを初体験、ミイラ取りがミイラになって12年吹雪のCCCに出場(案の定ひどい目に遭う)そして完走。(死にそうになったにもかかわらず)ウルトラってなんておもしろいんだろうと、13年、UTMBの表彰台に立ちたい、自身の夢をかなえようと読者代表「チームターザン」を結成する。
 「ターザン」創刊以来、数多くの運動選手、コーチ、医者、科学者から最新最良な運動科学を学び、自らの体験をあわせ、超長距離走のトレーニングとそのマネージメント、代謝機能改善、エネルギー・水分補給、高所山岳気象装備、サポート心理学などを研究分析する。ときどき、初心者のために「100マイルなんてカンタンだ(ちょっとウソ)」講習会を開催してる。

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