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2022年8月3日

内坂庸夫

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山を走らないトレイルランナー

あなたはそうじゃないって言うかもしれないけど、いまの日本のトレイルラニングって「山を走ること」ではなく「レースに出ること」が主流だと思うな。

その背景のひとつに、トレイルラニングをビジネスにしている世界がある。「山を走ること」を普及発展させるためには、つまりは用具用品を売り上げるためには、レースという派手なパッケージで包んだ方がいいのさ。「UTMB」「UTMF」「日本山岳耐久」などのレースを説明した方が、トレイルラニングを伝えやすい、わからせやすい。

最新の用具用品

同時に、これはとても大事なことだけど、レースに出場するには「自己肯定」「完走」「記録更新」「表彰台」など前向きな目的があります。となると走りを助けてくれる&身を守ってくれる最新の用具用品がほしくなる。つまり、レースの開催のたびに新製品が売れるんです。そのレースがメジャーであればあるほど売れます。

だもの、用具用品会社、販売店はレースをアピールしたがるのさ。用具用品の広告収入が増えるから、トレランメディアもレースを紹介したがるのさ。

また、地域活性、観光誘致などの理由もあって、100マイルを超える達人向けの大会や、初心者でも出場しやすい距離の短いレース、子供たちのためのレースなど、さまざまな大会が増えてきました。これらも「レースに出ること」をあと押ししてくれている。

トレランビジネスは順調、用具用品は売れるし、トレイルランナーは最新グッズが手に入るし、レースの選択肢が増えるし、とウインウイン、めでたしめでたし。

トレランはトレーニング

ところが、おかしなことが起きてきました。
「レースに出ること」が先にあって、「山を走ること」はそのトレーニングだ、そんなふうに考える人たちの登場です。

自宅前の舗装路を走った方が、山に行くより時間的に効率がいいし、トレーニング効果も高いと思えば(その通りのことが多いんだけどね)、しまいにはレース以外は山を走らないトレイルランナーがあらわれてきました。

そして、もっとおかしなことが起きています。
「コースが山道になっただけでしょ」「山のマラソン大会でしょ」と思ってロードランナーが、いきなりトレラン大会に出場しちゃう。

山という非日常が競技会場なのに、そこに都会の日常やモノサシを求めるトレイルランナーがあらわれる。

レースは「楽しく安全に遊ばせてくれる屋外イベント」だと思いこんだトレイルランナーがあらわれる。

「大きな石が落ちている」

たとえば、大会本部にこんなことを言ってくるトレイルランナーがいます、いやほんとに。

・大きな石が落ちているじゃないか、つまづいて転んだらどうするんだ / 山だもの当たり前だよ

・倒木があるよ、邪魔じゃないか
/ 山だもの当たり前だよ

・コースに距離表示がないぞ
/ 大会HPに地図が表記されているよ

・コースマークが少ないし、分岐に誘導スタッフがいない
/ 大会HPにGPSデータが用意されているよ

・川を渡らせられて靴がぐちゃぐちゃ、新品なのに
/ 競技説明に「渡渉あり」って書いてあるよ

・エイドの食材が気にいらない
/ だったら好きな食べ物を自分で用意すれば

・関門タイムが厳しすぎるぞ
/ もっとトレーニングを積んでエントリーしてください

・雨が降ってきてずぶ濡れ、やってらんないから途中でやめたよ、エントリー費用を返してくれないかな
/ 天気予報を調べなかったの? 晴天でもレインジャケットを携帯するのがトレイルラニングの常識です。また、自分の都合でやめたのですからエントリー費用は返金できません。

トレイルラニングレースは山道を使った競走。楽しく安全な遊園地の遊びではありません、悪天候も含め山/自然という非日常そのものが会場です、そこはアウトドアの対応力を測る現場です。その現場で他の選手と走り比べをするのさ。

レースで完走したいのなら、順位を上げたいなら、表彰台に上がりたいのなら、たくさん山を走りましょう、たくさんの経験を積みましょう、たくさんひどい目に遭っておきましょう。つまりは山/自然への対応力をきっちり身につけておきましょう。

特に長距離レースは足が速いだけでは先にフィニッシュできません。フリースシャツ1枚、あるいはマグネシウムの錠剤ひとつ、あるいはスペアのバッテリー1本、持っているいない、で完走とリタイアがはっきり分かれちゃう。だから「レースに出ること」はおもしろいんだよ。

おまけ

だけどさ。誰とも競うことなく、好きなときに、好きな仲間と、好きなトレイルを、好き勝手に走る、ふつうのトレイルラニングもいいな(実はトレーニングになってる)。フィニッシュに温泉とカツ丼があるともっといいな。

PROFILE

内坂庸夫 | Tsuneo Uchisaka

「ヴァン ヂャケット」宣伝部に強引に入社し、コピーライティングの天啓を授かる。「スキーライフ」「メイドインUSA」「ポパイ」「オリーブ」そして「ターザン」と、常にその時代の先っぽで「若者文化」を作り出し、次はなんだろうと、鼻をくんくん利かせている編集者。
 2004年に石川弘樹に誘われ生涯初のトレイルラニングを体験(ひどいものだった)、翌年から「ターザン」にトレイルラニングを定例連載させる。09年に鏑木毅の取材とサポートでUTMBを初体験、ミイラ取りがミイラになって12年吹雪のCCCに出場(案の定ひどい目に遭う)そして完走。(死にそうになったにもかかわらず)ウルトラってなんておもしろいんだろうと、13年、UTMBの表彰台に立ちたい、自身の夢をかなえようと読者代表「チームターザン」を結成する。
 「ターザン」創刊以来、数多くの運動選手、コーチ、医者、科学者から最新最良な運動科学を学び、自らの体験をあわせ、超長距離走のトレーニングとそのマネージメント、代謝機能改善、エネルギー・水分補給、高所山岳気象装備、サポート心理学などを研究分析する。ときどき、初心者のために「100マイルなんてカンタンだ(ちょっとウソ)」講習会を開催してる。

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