SOUTH-南米編- ⑩チリ(アウストラル街道 前編)
星野さんの南米自転車旅行は第10回目です。
チリに再入国して「世界一の林道」と呼ばれるアウストラル街道を南下しますよ。長いので2回に分けて。今回はその前編です。
これまでの SOUTH-南米編- は以下リンクからどうぞ。
①プロローグ
②出国~ボリビア(ラパス)
③ボリビア(コパカバーナ)
④ボリビア(ウユニ塩湖)
⑤ボリビア(宝石の道)
⑥チリ(入国~サンティアゴ)
⑦アルゼンチン(入国~メンドーサ)
⑧アルゼンチン横断(メンドーサ〜ブエノスアイレス)
⑨アルゼンチン横断2(ブエノスアイレス〜バリローチェ〜チリ再入国)
2023/3/1(55日目)
8:00 営業開始に合わせてフェリーのチケットセンターへ向かう。
(ここからのルートについて)
アウストラル街道は基本的にスタート地点となるプエルトモントから国道7号線を南下していくんだけど、幾つかアレンジルートがある。
一つは更に海側のチロエ島に渡り南下して再びフェリーで7号線に戻るルート、そしてもう一つはプエルトモントから直接チャイテンにフェリーでワープするルート。
①7号線ルート(黒線)
②チロエ島ルート(青線)
③フェリールート(赤線)
アウストラル街道の完全走破にこだわるなら①、海鮮グルメを更に楽しむなら②になるんだけど、残された時間の限られてきた私は今回③を選択。
フェリーは運行日が限られているという情報もあったので即日出航できるか若干心配していたけど、あっさりと当日23:00出航の便が取れた。バイクも含めて33,000ペソ(5,500円)と思ったより安価なのも嬉しい。
※予約時に聞いたところ今は日曜以外は運行してるらしい。
フェリー会社はその名もアウストラル運送会社
そうと決まれば、出航までは自由時間。プエルトモントは漁業が盛んなので、久しぶりに海鮮グルメを味わうべく海鮮市場に繰り出す。
流石の充実っぷりで見てるだけで楽しい
市場の外に出ると、何やらゴミ置き場を漁る巨大な生き物がいる。
近づいてみると、まさかのアザラシ!!
チリの港にはたまにいるらしいんだけど、漁った魚をカモメがかすめ取ろうとするのを大きな身体で振り払う様はまさに海獣で、子供達は遠巻きにするレベルの迫力だった。
チリの海鮮グルメの代表格のセビーチャもズラリ。複数種の魚介類をマリネ風に味付けしたもので、レモンや玉ねぎをトッピングして食べる。
一つ買って立ち食いするとさすがの美味しさ。そしてこれは白ワインが欲しくなる…
という事で、市場の撒き餌戦略(?)にまんまと乗ってレストランに突入。多分ちゃんとした飲食店で食事するのはボリビア以来約一ヶ月ぶり。
こちらはクラントという海鮮のごった煮。もちろん白ワインとのマリアージュは完璧。
15:00 すっかりいい気分で市場を出る。まだ出航までは8時間もある。そう言えばフェリーのチケットセンターに待合室があったなと思って行ってみると、ベンチはもちろん電源やWi-Fiまであったので、早速ゴロゴロ、ダラダラ♪
そしてボリボリ、ゴクゴク。
夜になり、陽が落ちるとターミナルの灯りが海面に浮かんで何とも良い雰囲気。
22:00 船着場に行ってみると既に船が着いていた。光り輝く乗り込み口が新たな旅路へのスタートゲートのようでワクワクする。
お仲間がいるかと期待してたけど、自転車は私一人だった。
船内にはカフェがあって軽食が買える。
椅子しかないけど、リクライニングとフットレストがあるので、就寝には全く問題ない。
23:00 出航。寝て、起きたらいよいよパタゴニアだ。
2023/3/2(56日目)
9:15 チャイテン港に到着。
港から数キロほど走ってチャイテンの街に入る。
ゴールとなるオヒギンズ村まではここから約1000km。昔は全て林道だったらしいけど、今はだいぶ舗装化が進み、約600km先のカスティージョ村までは基本的にロードが続く。また街道沿いには50~100km毎に村があり、補給や宿泊も出来るらしい。
という事で今日の目的地を約80km先のサンタ・ルシア村に設定。とは言え、今日はまだ初日なので、とりあえず不測の事態に備えてスーパーマーケットで2日分の食料を補充した。
嬉しいことにアウストラル街道は周囲の山々からの雪解け水や降雨が滝や川となってそこらじゅうに流れており、しかも全て飲めるので水には困らない。海外の自転車旅で一番気を使うかつ重量が嵩むのが水なので、これは本当にありがたい。
10:00 パタゴニアトリップスタート!
早速滝と清流が現れたので、今まで入っていたボトルの水を入れ替える。キンキンに冷えていて美味しい。まさに「南アメリカの天然水」。
自転車注意の標識が、共存が前提になっている感じがして嬉しい。
そしてそれを裏付けるように、すれ違うサイクリストの数も増えていく。
15:30 サンタ・ルシアに到着。キオスクの隣にキャンプ場が併設されていたのでチェックイン。一泊4000ペソ(670円)。
アウストラル街道沿いは雨が多いので、屋根のあるテントサイトが多い。
見た目は海の家みたいだけど、シャワーもあるし、ちゃんと熱いお湯が出た。
サッパリしたところで、それでは無事の初日をお祝いしますかね~とキオスクにビールを買いに行くと、何と売ってない。しかもこの村にはビールを売ってる店は無いと…。
一瞬、次の街まで行くことも頭を過ったけど、まー、プエルトモントで飲みすぎた気もするので久しぶりの休肝日とすることにして、大人しくハンバーガーとコーラ。
(本日の行程)
チャイテン~サンタ・ルシア 75km
2023/3/3(57日目)
朝、ブルーシートを叩く雨の音で目を覚ます。テントから外を見るとまあまあの雨量。ただこれは豊富な天然水のバーターなので仕方ない。屋根と壁のあるサイトだった事に感謝しつつ撤収作業。
ただ懸念事項が一つ。それはレインウェア。宝石の道で胸元に望まないベンチレーションが出来てしまっていた(要は破けた)のだけど、その代替品が無い…。サンティアゴやブエノスアイレス、バリローチェと大都市や大きめの街に行く都度、探してはいたんだけど、かなりオーバースペックかつ高額なものしかなく、結局買えないままここまで来てしまっていた。とりあえず緊急措置としてドライサックをよだれ掛けのように首から下げてリペアシートの代わりにする。
幸い雨は出発を待っていたかのように上がってくれた。
朝靄に日差しが反射しキラキラと輝く。雨上がりの森は鮮やかさを増し、一層濃密に香る。一漕ぎ、一呼吸ごとに身体が浄化していく。
街道沿いには定期的にキレイな東家も立っている。これは本当に野宿には困らなそう。
70kmほど走ったところにラ・フンタという大きめの村があったので、休憩を兼ねてレインウェアを探してみたけど、衣料品店すら無かった…。
引き続き細かいアップダウンの続く道を走る。ただ斜度が緩いので、むしろ走りにメリハリがついて私的には大好物。
晴天の下、順調に進み、キャンプ予定地のプユワピには15:00頃到着。目星をつけていたキャンプ場に行ってみると、女性オーナーが出迎えてくれた。
誤解を恐れずに言うと、キャンプ場はオーナーが女性のところはほぼ間違いない。トイレやシャワーといった水回りは清潔だし、キッチンの調味料や食器のシェアも充実している。なので、今回もオーナーが女性だった時点でこのキャンプ場に即決。一泊5500円(920円)。
立派なキッチン小屋の薪ストーブはコンロも兼務。
オーナーが薪を補充してくれたので、早速火を弄りながらチョリソーを焼く。焚き火料理が簡単に出来て楽しい♪
今日の村には無事ビールも売ってた。
(本日の行程)
サンタ・ルシア~プユワピ 113km
2023/3/4(58日目)
天然エイドで給水して出発。
スタートして10kmほど進んだところで道がグラベルに変わる。お、マジか!?こんなに早く来るとは想定してなかったぞ。しかも場所によって砂利が結構なサイズのためなかなかスピードが上がらない。
耐えながら進んでいるとポツポツと雨が降り始める。しかも道は長い登り坂に入った。
破れたレインウェアに前掛けを装着してヒルクライム開始。最初こそ漕いではみたけど、斜度がキツくなり雨に濡れた砂利で後輪が空転するようになってきたので、大人しく自転車を降りて押し上がる。
1時間ほど進んだところで、上からサイクリストが降ってきた。完全に無にしていた心に非常灯だけ点けて言葉を交わすと、登りはあと数キロで終わり、そこからは道も舗装路に戻ると言う。なに!それは嬉しい!グッドニュースに心の照明が全灯に戻り脳内も隅々まで明るくなる。
待ってました!
今までのリムブレーキのロードバイクではおっかなびっくりだった雨の下りも、ディスクブレーキならしっかりと効いてくれる。常に安全マージンをとりつつも軽快に降っていく。
下りきってからも降り止まぬ雨の中、次の村へ向けて必死で足を回す。
16:00 アメングアル村に到着。Googleマップによればこの村にキャンプ場は無い。ただ降雨はこれから更に強くなる予報のため、出来れば屋根の無い場所での野宿は避けたい。
Googleマップの宿表示を頼りに村内を探していると「REFUGIO PARA CICLISTAS(自転車乗りの山小屋)」という素敵な看板を発見!しかも建物には明らかに旅行者のものと思われるバイクもとまっている。
中はまさに山小屋。薪ストーブとマットがあって超居心地が良さそう。
母屋に行くとご自宅と兼用の共同キッチンまである。
声をかけるとオーナーが2階から降りてきてくれたので無事にチェックイン完了。一泊5000ペソ(830円)。
バイクも薪小屋にとめさせてもらえた。
夜はオーナー家族と同宿のサイクリストと宴会。
アルゼンチンチャリダーの一人がスペイン語と英語のバイリンガルだったため、通訳&翻訳をしてくれて「こんにちは」「ありがとう」等の簡単日本語講座。最後は「おやすみなさい」と挨拶して就寝。
(本日の行程)
プユワピ~ピージャ・アメングアル 88km
2023/3/5(59日目)
朝から雨…。そして今日は一日中雨予報。となれば待ってても仕方ない。早出早着を目指して完全防寒防雨仕様で漕ぎ出す。
幸い雨は降ったり止んだり。引き続き東家やバス停も定期的に現れるので、それほどストレス無く進むことが出来る。
こんな虹を見ながら走れるのも雨天ライドのメリット。
何となく目的地に想定していた村には午前中に到着。少し悩んだけど、ちょうど雨も上がっているし、時間もまだたっぷりある。明日はアウストラル街道最大の街コイヤイケで大休憩の予定。であれば今日のうちになるべくコイヤイケに近づいておいた方が明日の行動が楽になる。今日は最悪野宿になってもコイヤイケでリカバリー出来る。よし、補給だけして先に進もう。
ところが、再出発して数キロも行かないうちに、さっきまでの日差しがウソのように空が陰り、大粒の雨が落ちてきた。あらら…。
逆走してきたサイクリストにキャンプ適地の情報を聞いてみても、一旦ルートを外れた街まで行くしか無いとのこと。
ここまで来て遠回りする気にならなかったので、とりあえず国道7号を走り続ける。
時間はもうすぐ16:00。そろそろ野営場所の目処をつけたい。地図を見ると国道と川の間に並行して林道が走っていたため、そこに降りてみるとちょうど林道と川の間に木々に囲まれたフラットなスペースを発見!しかも川に降りて水も組めそう。これは良い場所を見つけた。
降りしきる雨がテントを叩く音を子守唄に就寝。
(本日の行程)
ピージャ・アメングアル~7号線と240号線の分岐付近 101km
2023/3/6(60日目)
今日も朝から雨。ただ昨日頑張ったお陰で大エイドのコイヤイケまでは残り50km程度。順調なら昼過ぎには到着出来るはず。グッショリ濡れたテントをドライサックに突っ込み、ずっしり重くなったパニアバックをセットして出発。
街道が山間に入る。両側に切り立った崖の断面からは、いく筋もの滝が噴き出し、流れ落ちている。途中で霧散する滝と絹ごしされたような霧雨のミストの中を走っていると、自分がこの森の中に溶け出して、自然と一体化していくような感覚に陥いる。
ふと前方を見ると動物が歩いている。街道沿いは基本は家畜は放し飼いなので、また牛か羊かなと思って近づいて見ると、何と馬!これは流石に放牧じゃないと思うので、どこかから逃げ出してきちゃったのかな。
コイヤイケの手前は大きな峠。ゆっくりと押し上がり振り返ると抜けてきた山間が一望できた。
古バスを改造したパン屋で補給してラストスパート。
コイヤイケの街が見えた!
13:00 コイヤイケに到着。街の外れにあった大きめのキャンプ場にチェックイン。一泊7000ペソ(1160円)。
風雨を遮る林間のサイトに設営し、早速濡れたシュラフや衣類を乾かす。
このキャンプ場の共有スペースに広くて暖かなリビングもあった。
(本日の行程)
名もなき野営地~コイヤイケ 49km
コイヤイケはアウストラル街道のちょうど中間にあたり、規模も大きいため休息と物資の補給のため結局2泊した。
懸案だったレインウェアを無事ゲット!DOITEというメーカーのもので70,000ペソ(12,000円)。旅の途中の緊急調達予算としてはギリギリ許容範囲かな…。
食料もたっぷり補充。
もちろん給水も。笑
サイクリストも沢山泊まっていたので、これからの路面情報や旅に便利なアプリを教えてもらった。
教えて貰ったアプリ①Windy
現在地や目的地の天候、気温、風速等が一覧出来る
教えて貰ったアプリ②iOverlander
ルート場にある野営適地情報のシェアアプリ
場所によっては写真もあるので超便利!
道は事前情報どおり、この次のカスティージョ村から未舗装路になるらしい。でも景色は路面の悪化に反比例して良くなっていくとの事!
こからがアウストラル街道の真骨頂だ。う~、ワクワクするぜ!!
そして私は知ることになる。この街道が風景だけではなく「林道」として世界一だと言われる本当の意味を…。
(続く)
星野 耕平
でかい波、高い山、長い道が好き。
トレラン歴は約15年。UTMB、Tor Des Grants、Andorra Ultra Trail等完走。
自主イベントとしては自転車日本縦断、歩きお遍路結願等。
座右の銘は「No wave,No life.」
個人ブログ:100mile
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