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2021年11月17日

ゆっきー

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選択と集中

古代ギリシャの寓話に、「キツネはたくさんのことを知っているが、ハリネズミはたった一つの肝心な点を知っている」という言葉がある。

この言葉をもとにして、哲学者であるアイザイア・バーリンは人間の思考を「キツネ型」と「ハリネズミ型」に分類した。

キツネ型とは、世界を複雑なものとして捉え、様々なものを追いかけ、たった一つの目標や原則にこだわることはない。一方のハリネズミ型とは、物事を単純化し、あらゆる事柄を単一の原則に基づいて考える。

この話を聞いて、私はハリネズミ型の人間だと感じた。なぜかというと、普段の生活やトレイルランにおいても、キツネ型のように様々なものを追いかけず、ハリネズミ型のように一つの物事に集中して取り組むことが多いからである。

キツネ型の考えだと、様々なものを追いかけることで、やること全てが中途半端となり、その結果として目標達成が難しくなる。

とはいっても、やることが沢山ある場合は、私は必ず優先順位をつけて一つずつ着実に取り組む。また、その一つひとつの取り組みは、複雑なことは考えずにいつもシンプルに考えて取り組む。

つまり、自分の目標が複数ある場合においては、同時並行でやるより、優先順位をつけて一つずつ集中して取り組む。そうすることで、最短ルートで目標を達成することができるというのが私の考えだ。

コロナによって、私自身やることの優先順位が大きく変動した。これまでトレイルランの優先順位は高かったが、レースが開催されないため、今は優先順位を下げてほぼ活動はしていない。

その代わりに、大学院での勉強を優先順位を高くして取り組んでいる。なぜ勉強をしているのかというと、これまで仕事をする中で、課題意識として持っていたことを深く研究したいという想いが昔からあったである。

私はやると決めたことは徹底的にやるというスタイルであり、学業も手を抜かない。大学前期(春〜夏)の授業は、日曜以外は毎日授業で、月〜金曜は19時〜22時、土曜は9時〜20時というスケジュールで、プライベートな時間はほぼ学業にあてていた。

就寝時間はだいたい夜中の2時頃で、お酒を飲む暇もない(実際にはお酒は一滴も飲まなかった)くらい時間が不足していた。そんな私生活がカオスな状態であっても、明確に目的をもって大学院に通っているため、日々充実した生活を送ることができている。

このように優先順位を付けて、やると決めたことは徹底的にやる。その一方で、やらないと決めたことは手を出さない。同時並行で進めることもしない。この考え方はトレイルランにも当てはまる。
 

トレランでも“やる”・“やらない”の徹底

トレイルランでも、“やること”と“やらないこと”を徹底している。やらないことは、大きく3つある。

・ロードレースに出ない
・国内のトレイルレースには出ない
・ショートやミドルレースには出ない

つまり、言いかえると海外のロングレースだけやる。上記の3つをやらない理由を説明すると、

ロードレースに出ないのは、怪我や故障の回避が目的である。過去にトレイルとロードを両立していた時期があったが、怪我や故障を度々繰り返していた。

そのため、レース本番でパフォーマンスを発揮できなくなったため、身体の使い方が全く異なるロードレースに出ることを止めた。ここ4年ほどはフルマラソンには一切出ていない。

国内のトレイルレースに出ないのは、海外の方がレースで得られる経験が圧倒的に多いためである。ちなみに国内レースがつまらないと否定しているのではない。

自分がこれまで積み重ねてきた経験をさらに伸ばすには、海外で難易度の高いレースに出ることが一番効率的であると考えているからだ。2016年以降に国内のレースに出たのはUTMFだけで、残り全ては海外レースにしか出ていない。

ショートやミドルレースは、私の中ではロングレースとは全く他競技であると捉えている。なぜかというと、心技体の使い方が異なるからである。ロングレースでは心拍を鍛える必要性はなく、その代わりに1〜2日と長時間継続して動き続けられるメンタリティを鍛える必要がある。

つまり、ロングは心技体の「心」を、ショートやミドルは「技」をそれぞれ重点的に鍛える必要があり、それに伴い日々の練習方法も全く変わってくる。私はトレイルランでは「心」を磨くことに重きを置いているため、ショートやミドルレースには出ない。

直近で100km未満のレースに出たのは、2016年の台湾の50kmレースが最後で、それ以降の全てのレースは100km以上のロングレースだけである。
 

レースでも“やる”・“やらない”の徹底

レース中においても、“やること”と“やらないこと”を徹底している。レース中にやらないことは沢山あるが、代表的なものを2つ挙げると、

・サポートやペーサーを付けない
・細かな戦略・戦術は立てない

つまり、レースでやることは、必要最低限の計画で、誰の助けを借りることなく自力で完走を目指すことである。

私はこれまで一度もサポートやペーサーを付けたことがない。なぜかというと、トレイルランはあくまでも自力本願のスポーツだからである。

過去のBlog(以下参照)でも述べたが、野球などの集団競技や相手と戦うテニスといったスポーツは、相手のミスを誘うことで、自分のところに勝利が転がってくる。極端な話、野球であれば打たなくても相手が四球(ミス)をすれば得点が入り、勝ちを収めることができる。

しかしながら、トレイルランは相手に頼ることはできない。何かしら身体の不調などのトラブルがあっても、結局は自力で乗り越えない限り、完走することはできない。

また、サポートやペーサーを付けたとしても相手に気を使うことで、逆に自分の走り集中できなくなるというのが私の持論である。
 

 
細かな戦略・戦術は、ロングレースでは不要であるというのが私の考えである。細かな戦略・戦術以上に大切なことは柔軟性である。

レース中に何かしらトラブルに陥る確率や頻度は、レースの距離に比例する。つまり、距離の短いショートレースよりロングレースは距離が長くなるにつれてトラブルとなるリスクが高まる。

しかし、いくらトラブルを事前に予測し計画を立てても、その計画を遥かに超える予期せぬ事態が発生するのがロングレースである。

従って、細かく計画を立てるのは得策ではなく、予期せぬことが発生したタイミングで、その都度柔軟に対応できるかが、ロングレースで完走するポイントとなる。

私のプランニングは、いつも大雑把である。例えば、レース前半が荒天の予報であれば、前半はまず体力温存してゆっくりペースで走り、レース後半に勝負をする、この粒度の計画しか立てない。

エイドで何を食べて、どのくらい寝てとか、次のエイドまでどのくらいのタイムで行くとか、このような細かい計画は立てない。先程も述べたが、ロングレースでは計画通り行くことはまずない。
 

 
このように先ずは、やることとやらないことを決める。そして、やると決めたことだけに専念する。

今はこのように自信を持って話しているが、トレイルランを始めた当初は、このような考えが本当に正しいのか半信半疑であった。しかし、以下のレースを経験したことで、この考えの正しいと確信を持てるようになった。
 

思考の簡略化の重要性を知ったレース

結論から先に述べると、きっかけとなったレースで得たことは、レース中に思考を簡略化する大切さであった。

この結論に至った経緯を順に説明すると、まず遠征先のイタリア・ミラノに荷物が届かなかったことから始まる。

ミラノの空港でロストバゲージとなり、レースで使用する予定だったザック、ウェア、シューズ、種々装備品が使えず、これら全てを現地で新たに揃える必要となった。

結果的には、レース1時間前に全ての装備品を揃えることができたが、レース直前まで装備品を揃えることに躍起になり、レースプランを考えることに一切頭が回らなかった。

従って、そのままノープランでレーススタートしたものの、蓋を開けてみれば納得のいく走りができた。後々、レースを振り返ってみると、考え過ぎないことが良い結果につながるということに気づいた。

このレースで考えていたことは、たった一つだけである。それは、無事に走れるという安堵の気持ちだけであった。これまではレース前やレース中に様々なことを考えていたが、考えることが逆に自分の走りの妨げになることだと判ったのだ。

このレースがきっかけとなり、やること考えること無駄な部分を削ぎ落として、簡略化して物事に取り組むことを心がけている。

◇       ◇

取捨選択をせずに、あれこれ考えてレースに挑むことは、ザックに10Lの水を担いで走るのと同じであるというのが私の感覚である。なるべく思考をシンプルにすることが、パフォーマンスの発揮につながる。

また、トレイルランで何らかの目標設定があるのであれば、あれこれ手を出さずにすべきことに専念することが、その目標を最短ルートで達成する近道であると考える。

PROFILE

ゆっきー | Yukihisa Nakamura

海外のトレイルレース延べ2000km
本格的に海外を走り始めて4年、年500kmのペースで世界の魅力的なトレイルを駆け巡っています。
山本来の魅力を肌で感じることが好きで、有名な大会よりかはニッチでテクニカルなコースを選びがちです。
Swisspeaks 360km(Walker's Haute route)、UTMR 170km(Tour Monte Rosa)など完走。
2020年も日本で知られていない世界各国の魅力的な山・トレイルに出逢うこと。

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