SOUTH-南米編- ⑥チリ(入国~サンティアゴ)
星野さんの南米自転車旅行の第6回です。タフな「宝石の道」を抜けて、いよいよチリに入国です。ワインでおなじみのチリは豊かな国でした。が、そこで事件が起きてしまいます。
これまでの SOUTH-南米編- は以下リンクからどうぞ。
①プロローグ
②出国~ボリビア(ラパス)
③ボリビア(コパカバーナ)
④ボリビア(ウユニ塩湖)
⑤ボリビア(宝石の道)
2023/1/29 (出国から24日目)
16:30 ボリビア国境から標高差2,000mのダウンヒルを駆け抜けた私は、南米2ヶ国目となるチリの最初の街サンペドロ・デ・アカタマに到着した。
ちなみにボリビアとチリは時差が1時間あるので、ボリビア時間だと15:30ということになる。とは言え国境を越えたからといって地球の自転が早まるわけではないので、その分暗くなるのが遅いだけ。
まずは今晩の寝床を確保すべく、初めての街をフラフラと探す。何となく人や車の流れに沿って進んでいくとホスタルの表示のある建物が数件並んだ通りに入った。ヤレヤレと思い、なかでも1番古そうな…つまり安そうなところの呼び鈴を鳴らす。
ところが出てきたスタッフに泊まりたい旨告げると今日はフルだと言う。仕方ないので並びのホスタルに次々あたるもどこもフル。マジか…
スマホで探したくても私はまだこの国のsimを入手していない。段々お腹も減ってきたけど両替すら出来ていない。しかもこの通りには両替所はおろか商店すらない。さて、次の一手はどうしよう…?と思案しながら自転車を漕いでたら、たまたま通りかかったクロスバイクに乗った青年が「どこから来たの?」と英語で話しかけてきてくれた。
これは神の助け!と一旦自転車を止め、自分は日本人であること、さっきボリビアから国境を越えてチリに入国したこと、ホテルを探しているがどこも一杯で困っていること等を矢継ぎ早に説明する。
するとサンペドロのローカルでdaniと名乗った青年は「OK、じゃー手伝うからついてきて♪」と言って私を先導して走り始めた。
カルガモのヒナのようにピッタリと着いていく私を連れてdaniは幾つかの路地をスイスイと抜けていく。走りながら話したところによれば、daniもサイクリストで今年の4月からヨーロッパでのロングツーリングを計画しているらしい。ただ仕事の都合でどうなるかはまだ分からないとも。
万国共通のサラリーマンの悩みに私が深く共感していると、急に人通りの多い賑やかな道に出た。両脇には土産物屋や飲食店が立ち並んでいる。
「ここがこの街の中心部だよ。ここならホテルも両替もsimもゲットできるはず♪」
「グラシアス!!」
心からの謝辞を伝え、お互いのインスタをフォローし合い、それぞれの旅の無事を祈りあって別れた。
最初に入ったレストランが併設されたホテルで無事にベッドを確保
ただし一泊40,000ペソ(約6,700円)でWiFi無し…。いつもなら次を探すところだけど、この日は宝石の道を走り切った後で疲れ果てていたので即決。また両替所も近くにあったので残っていたボリビアーノを全てペソに変える。ホテルで熱いシャワーを浴びて近くのお店で買ったパンとハム、トマトを食べてベッドに入るとあっという間に意識が飛んだ。
2023/1/30 (出国から25日目)
私には高級過ぎるホテルに連泊は出来ないので、一気に次の街まで移動することに。目指すは100km先の北部の大都市カラマ。
カラマまでは基本的に砂漠の一本道。全く変わらない風景の中をひたすら漕ぎ続ける。
午後になり街に近づくにつれて向かい風がどんどん強くなる。時に自転車を漕いでいられないほど強くなる風に、諦めて自転車を降りて押していると一台のオートバイが並走してきた。何と風が強くて大変だろうから風避けになってくれるとのこと。またもや神が現れた!
有り難く最後の5kmほどを引いてもらいカラマの街には17:30頃到着。昨日の教訓を生かし、中心街の場所まで教えてもらったお陰であっさりと宿も見つかった。
一泊12,000ペソ(2,000円) WiFi ◯
ちなみにチリに入ってからはシャワーからは当然のようにお湯が出るし、トイレにはトイレットペーパーが常設されていてしかも流せる!※ボリビアは使用した紙はトイレに流さずゴミ箱に捨てます(山小屋方式)。
日本のスタンダードから見れば当たり前なんだけど、ボリビアから入った身としてはそれが何より有り難い。
宝石の道の疲れを癒すのとこの後のルート検討のため、この街には4日間滞在した。
【カラマでの日々】
(食べ物)
何を食べても美味しい♪
またボリビアに比べて種類も多いし、生野菜のサラダがあるのも嬉しかった。
朝は大体昼と兼用で近くのフードコート的なところでメニューボードを適当に指差して出てきたものを食べた。
どれも35,000ペソ~40,000ペソ(600~700円)
照り焼きチキン。生野菜サラダが嬉しい
牛肉のスープ。パクチーが入っててエスニック風味。
時間がちょっと早いとモーニングセットになるらしく、パンと目玉焼き(3つ!)とコーヒー。
夜は部屋でパスタを茹でて諸々のつまみと共にビールとチリワインをグビグビ。最終日には空き缶と空き瓶が大変なことになってた。
(買い物)
基本的に生活に必要なものは何でもあると思う。
物価は日本とほぼ同じ。ただ100均とかコストコ的なところが(私が見た限りは)この街には無いため、その分高くつくとも言えるかも。
チリのスーパー
ワインコーナーは流石の充実っぷり
チリのホームセンター
ガス缶の予備もゲット
街中には屋台や市場も
バイクショップ
本屋には日本の漫画がずらり
simはclaroのものを購入
30日間、5GBで10,000ペソ(1,600円)くらいだったと思う。
(今後のルート)
色々と比較、検討した結果、以下の前提条件と思考プロセスを経て、首都のサンティアゴにバスでワープすることにした。
・初めてのチリなので首都には行ってみたい。
・カラマからサンティアゴまでは約1,500km。しかもそのほとんどが砂漠地帯。
・自転車で行くには最低でも2週間。サンペドロからカラマまでの移動時を踏まえると景色は恐らくずっと単調。
・チリの物価だと移動中のコスト(飲食費、宿泊費)もそれなりにかかりそう。
という事でバスワープを見事に正当化し、早速バス会社に予約に行ったところ出発時刻は15:00、乗車時間は約24時間、バス代は54,000ペソ(9,000円)+自転車の持ち込み料12,000ペソ(2,000円)だった。
ちなみにバス会社によっては自転車の持ち込みが出来ないところもあった。
宝石の道で泥だらけになったバイクも洗車してピカピカに。
また標高が2,000m以上下がったことで空気圧も1気圧以上下がったので改めて入れ直した。
2023/2/3 (出国から29日目)
12:00 お世話になったホステルをチェックアウトして、まずはバイクに乗ってバスターミナルまで移動。バイクをバラしてパッキングしちゃうと、後はする事が無いのでひたすらダラダラ。
15:00 ほぼ定刻通りにバスが到着したのでウキウキ乗車。バイクも無事に乗せられた。
バスは3列シートになっていて、私は通路を挟んだ1列側の席を予約。そもそも座席がかなり大きめの作りだし、リクライニングはガッツリ倒れてフットレストまであるので、超ゆったり。バスにはトイレもしっかり付いているので長距離移動も安心。車中で食べるように買い込んだお菓子と水を座席のポケットに突っ込んで、さすが俺!ベストプランをチョイスしたぜ!
なーんて得意気になってたんだ、この時はまだ…。
バスはサンティアゴの街を抜け砂漠地帯を走っていく。車窓からの風景は茶色一色。
強烈な向かい風で砂嵐が巻き起こっているのを横目に、私は無風の車内でiPadにダウンロードした映画をノホホンと鑑賞。
そして約3時間が経過し、バスがチリ北部の海岸沿いの大都市アントファガスタのバスターミナルに着いた時、事件は起こった。
アントファガスタでは一部の乗客が乗り降りするため、他の客の休憩も兼ねて一定時間停車する。なので私もトイレと食料の追加のため一度バスを降りた。座席に充電のため今まで見ていたiPadだけを残して…
時間にして10数分後、私が再び座席に戻ってくると置いていったはずのiPadが無い。何度も座席番号を確認するも間違いなくそこは私の席。
一瞬、何が起こったのか分からなくなる。ただ落ち着いて考えれば状況は明白。恐らくここで降りた誰かが持っていってしまったのだろう。
やってしまった…
すっかり意気消沈する私を乗せてバスは再出発。
そして南太平洋の海岸線に出た。
時刻は既に19:00を過ぎているにも関わらず、海にはキラキラと太陽が輝き、砂浜ではたくさんの人々が海水浴を楽しんでいる。
美しい景色と楽しむ人々を見ていると落ち込んでいだ気持ちが段々明るくなってくる。
無くなってしまったことは残念だけど、パスポートや財布、携帯と違って、旅の継続に影響するダメージでは無い。むしろ旅も約一ヶ月が経過し気の緩み始めた私に、最後まで無事に行けるよう神様がちょっとスパイシーに警告してくれたんだと思う事にしよう。
何となく自分の中で気持ちの整理がついた。
砂漠の向こうに陽が沈むのを待っていたかのようにバスも消灯。
2023/2/4 (出国から30日目)
翌日もバスは淡々と走り続ける。
深夜帯も含めてバスは4~5回は停車したと思う。
また途中の停車場では車内販売が来たので菓子パンを買った。
14:00 バスがサンティアゴの街に入った。車窓からの風景が一変に騒がしくなる。
14:30 サンティアゴのバスターミナルに無事到着。
バイクを組み立てて移動開始。
サンティアゴのメインストリートには中央分離帯に自転車用の通行帯があって快適。久しぶりに信号を守って走る。
ホテルは事前に予約しておいたドミトリー。
一泊8,500ペソ(1,400円) WiFi◯
洗濯機が無料で使えたので宝石の道で汗と砂だらけになった衣類を一気に洗濯してサッパリ。
キレイな共同キッチンもあったし、外食すると高いので食事は毎食自炊。
パスタを食べようとしたら同宿の方が粉チーズをシェアしてくれた。
【サンティアゴでの日々】
宿はサンティアゴの観光名所でもあるサンクリストバルの麓にあり、飲食店が立ち並ぶ繁華街にある。夜は随分遅くまで盛り上がっていたけれどヘルシー系(またの名を貧乏系)旅行者の私には無関係。
チリの街はグラフィティアートに溢れている。それも日本の橋の下のような非公式なものでは無く、恐らく建物の所有者が自らもしくは依頼して書かれているような気がする。
もちろん日本のアニメもあるのだけど、オリジナルっぽいものも多くて、見ながら街歩きをするだけでも楽しい。
サンティアゴの中央市場
果物やフードコートはもちろんだけど、海鮮が超充実してた。
中央市場の場外にはノミの市。どこで入手したの?から何に使うの?まで本当に雑多なラインナップで見てるだけで楽しかった。
滞在したのがちょうど日曜日だったためメインストリートが歩行者、自転車専用道路になっていた。
バイクのメンテナンスブースが出ていたので残りが心もとなくなっていたパンク修理キットを補充。
物価のベンチマーク、マクドナルドはハンバーガー、ポテト、ドリンクの定番セットが全て1,000円以上…。
初入国のチリは、少なくとも私目線においてはとても豊かで洗練されていた。
出会う人々は皆、優しくて知的だし(ただし私のiPadを持っていった不届者は除く)、街は秩序が保たれ清潔だった。
が故に物価も相応…
当初、サンティアゴからはチリの海岸線沿いに南下して行こうかと思っていたけど、一度、アルゼンチンに行ってみることにした。
南米に行こうと思った時からアンデス山脈をバイクで越えるのはやりたい事の一つだったし、サンティアゴから東にいったアルゼンチンにはメンドーサというマルベックワインの産地があってワイナリー巡りが出来るらしい!
サンティアゴからメンドーサまでは総距離370km、累積標高は約4,000m。
正直、所要日数が全く読めないけど、チリの物価という斥力とアルゼンチンのワイナリーという引力の相乗効果で、弾き出されるようにアンデス山脈を越えて行こうと思っている。
ここまでの行程 ※バス
ここからの行程 ※バイク
(続く)
星野 耕平
でかい波、高い山、長い道が好き。
トレラン歴は約15年。UTMB、Tor Des Grants、Andorra Ultra Trail等完走。
自主イベントとしては自転車日本縦断、歩きお遍路結願等。
座右の銘は「No wave,No life.」
個人ブログ:100mile
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