SOUTH-南米編- ⑬チリ~アルゼンチン(フエゴ島)
星野さんの南米自転車旅行は第13回目です。
このブログ連載も13回目にしていよいよ旅の最終目的地へ到達です。が、お約束のトラブルが今回も発生。すんなりとはいきません。
これまでの SOUTH-南米編- は以下リンクからどうぞ。
①プロローグ
②出国~ボリビア(ラパス)
③ボリビア(コパカバーナ)
④ボリビア(ウユニ塩湖)
⑤ボリビア(宝石の道)
⑥チリ(入国~サンティアゴ)
⑦アルゼンチン(入国~メンドーサ)
⑧アルゼンチン横断(メンドーサ〜ブエノスアイレス)
⑨アルゼンチン横断2(ブエノスアイレス〜バリローチェ〜チリ再入国)
⑩チリ(アウストラル街道 前編)
⑪チリ(アウストラル街道 後編)
⑫チリ~アルゼンチン(世界一過酷な国境越え)
2023/3/25(79日目)
ラストランの舞台となるフエゴ島へはフェリーで渡るため、まずは朝焼けの海岸線を港まで自走。
港に着くとちょうどフェリーが着岸したところだった。直近で乗った船は2艇ともボートサイズだったので、何だかやたらと大きく感じる。
早速チケットを購入し、イソイソと乗り込む。
9:30 出航。最終ステージへの旅立ちを見送るかのように虹がかかった。
船はマゼラン海峡を渡り、一路フエゴ島へ。
着岸と同時に船内で放映されていた映画が終わった!考えてみれば当たり前なんだけど、何かすごい。
11:30 フエゴ島に上陸。
まずは港から5kmほど走ったポルベニールの街で物資の補給。次に補給できるのはフエゴ島を更に東へ150km横断した対岸の街になるため、念のため3日分の水と食料を補充してパニアバッグにパンパンに積み込む。ずっしりと重くなった車体でいよいよラストランへ漕ぎ出す。
街を抜けると強い西風。東へ向かう私には絶好の追い風♪ペットショップボーイズの往年の名曲を口ずさみながら走りやすい舗装路をグングン飛ばす。
「ごー、うぇーすと♪」
ところが調子よく走るのもつかの間、何と5kmほどで道が未舗装路になってしまった…。
え?この区間だけだよね…、またすぐ舗装路に戻るよね…との願いも虚しく、いつまでたっても未舗装路のまま。しかも時折現れるヘアピンカーブでは西風が向かい風になってしまい漕ぎ進めないため、バイクを降りて押さざるを得ない。
遮るもののない吹きさらしの海岸線を一気にペースダウンしてノロノロと進む。気づけば時刻は16:00を回っている。そろそろ寝場所を確保したいんだけど、風は一向に弱まる気配を見せないため、何らかの壁が無いとテントを張ることすら出来ない。これはもう丘の陰とかで我慢するしかないかな…
なんて思ってたら遠くにポツンと漁師小屋が見えた。ダメ元で近づいてみると、扉が壊れており中に入れる。しかもテーブル、椅子に加えてマットレスまである。そしてそれらは皆、こんもりホコリを被っていて最近使われた形跡はない。これは最高の物件を見つけた!
早速、中に入って軽く掃除をする。マットレスにはシーツ代わりにエマージェンシーシートを巻き付けた。
外では相変わらず風が吹き荒れてるけど、耳栓をしてしまえば気にならない。野宿を覚悟していたのに、椅子とテーブルで食事をしてベッドで眠れるなんて、エコノミーを予約したのにファーストクラスにアップグレードしてもらえた気分。
幸先の良いスタートに感謝して就寝。
(本日の行程)
プンタ・アレーナス~ポルベニール~名も無き漁師小屋 フェリー+55km
2023/3/26(80日目)
朝焼けが目覚まし。
8:00 日の出とともに出発。
フエゴ島は定規で引いたような国境でチリとアルゼンチンに分かれている。国境までは約100km。出来れば今日のうちにはたどり着きたい。
地平線しか見えない道は、まさに最果てへ続きそうな雰囲気。
強風にあおられ続けて曲がってしまった木。何か教科書で見たことがあるような気がする。
悪路を必死で漕いでたら、追い抜いていく車が止まってジュースをくれた。相変わらず南米の方はチャリダーに優しい♪
40kmほど走ってR257との合流地点まで来たら道が舗装路になった。ただ、すぐに未舗装路に戻ってしまう可能性もあるため、まだ油断は出来ない。ちょうどキレイな避難小屋もあったので休憩することにして近づくと、中からオートバイのカップルが出てきた。ウシュアイアから来たと言うのでドキドキしながらこの先の路面状況を聞いてみると、ここからウシュアイアまでは、ずっとクリーンな舗装路との事!やった!!
とてもキレイで快適そうな避難小屋
二人はこれからコロンビアまで行くんだって!
舗装路バンザイ!
強い追い風のお陰で、ほとんど力を入れなくてもグングンスピードが上がる。脳内にはフエゴ島のアンセムとなった「Go West」が鳴り響く。
14:20 想定より1時間以上早くチリ側のイミグレに到着。
今回も出国手続きは超あっさりと終わった。2か月前にボリビアから初入国して以来、何度も行き来したチリとはここでお別れ。続いて10kmほど先のアルゼンチンのイミグレを目指す。
とうとうウシュアイアまでの距離表示が出た。いよいよ残り300kmを切った。う~、何か緊張してきた…
15:30 アルゼンチン側のイミグレに到着
ここでも日本人パスポートの恩恵なのか、手続きはあっという間に終了。検査官はバイクに触りもしなかった。
今日、ここまでたどり着きたかったのには理由があって、iOverlanderへの投稿によれば、何とこのイミグレの待合室には泊まれるらしい。念のため警備をしていたポリスに確認すると、もちろんOKとのこと!早速荷物を解いて中に運び込む。
中は広くてガスコンロまであった。
傍にはホテルもあったので、ひょっとしたらビールが買えないかと思って歩いて行ってみると、ビンゴ!バッチリ買えた♪
ビールがあるだけで、質素な食事もグッと潤いが増す。
屋根と壁に加えて、今日は扉もある場所で就寝。
(本日の行程)
名も無き漁師小屋~サン・セバスチャン 102km
2023/3/27(81日目)
今日からは海岸線を南下していく。ただ残念ながら一日中向かい風で、午後からは雨も降るとの予報。
快適な待合室を出た途端吹き付ける風と立ち込める霧の中、覚悟を決めて漕ぎだす。
風が強いため骨伝導イヤホンではほとんど音が聞こえない。霧のため曇りガラス越しに見ているような景色は、良く言えば幻想的だけど要は単なる視界不良で、走っても走ってもほとんど変わることは無い。これぞ最果てといった雰囲気は、長かった旅のエンディングを前に不安定になりがちだった私の心を不思議と落ち着けてくれた。
午後になり予報通り雨が降り始める。初めはポツポツとアスファルトを湿らす程度だった雨は、徐々にその勢いを増し遂にはバチバチと地面をたたくような本降りとなった。レインウェアからしみ込む雨と一向に弱まらない向かい風に身体はどんどん冷えていく。
道路沿いに小さな小屋が現れたのでたまらず逃げ込む。扉は無く、窓ガラスも半分以上が割れていたけど何とか雨と風はかわせる。座り込んでパンにチョコレートを擦り付けるようにして食べる。一口嚙むごとに脳と身体に糖分が溶け込んでいくのが分かる。
バイクに跨り、取り込んだ熱源を燃やすイメージで再び走りだす。
リオ・グランデの街には14:00頃到着。取り急ぎガソリンスタンドに飛び込み、熱いホットコーヒーで身体を温めながらWi-Fiに繋いで宿探し。出発時は、今日は久しぶりにスタンドの敷地を借りて野宿のつもりだったけど、5℃以下の気温と降りやまない雨にすっかり心が折れた…。
幾つか目星を付けてから雨の中に再び漕ぎだす。祈るような思いで呼び鈴を鳴らしたところ、2つ目で無事にベッドを確保。アウストラル街道の出発地点だったプエルトモント以来、約1か月ぶりのシングルルームは一泊9000ペソ(3600円)。
ヒーターを最強にしてびしょ濡れになった衣類を部屋中に干す。厳しい一日だったけど何とか辿り着けたことに安堵の祝杯。
(本日の行程)
サン・セバスチャン~リオ・グランデ 87km
2023/3/28(82日目)
さぁ、行くか。パッキングを終えてバイクに跨ると最悪の感触。何と後輪が完全にパンクしてる。マジか、最南端まであとたった200kmだぜ…。あまりのショックに思考停止しそうになるのを必死で奮い立たせて後輪を外すと、チューブどころかタイヤまで裂傷している。
アウストラル街道で交換しようとして、タイヤレバーを折ってしまったため結局交換出来ず、何とか頑張ってくれと祈るような思いで使い続けた。でも段差か砂利にぶつかった衝撃に耐えきれなかったらしい。
あれ?でも、だとすると私は何で昨日、この街まで辿りつけたんだろう?
昨夜、荷物を下ろすときには気づかなかったし、傷の大きさから夜のうちに少しずつ抜けたって事はありえない。ただ間違いなく言えるのは、昨日、雨と風にやられまくっている時に、何もない道の途中でこの状況になってたら、完全に終わっていたという事。
ゴールを目前に控えて感傷的になってるオッサンの幻想なのかもしれない。でも私には、南米を共に8000kmも旅してきた相棒が、傷だらけにも関わらず、最後の力を振り絞って私をこの街まで運んでくれたような気がしてならない。
検索すると、宿から数100mのところにバイクショップがある。きっとこれも単なる偶然じゃない。
荷物を宿にデポさせてもらい、バイクをショップに持ち込む。
陽気なスタッフに予備タイヤを渡すと、店中に流れる南米音楽に乗り、惚れ惚れするような手際で交換してくれた。せっかくなので、ブレーキパッドとチェーンも一緒に予備品に交換し、ガタつき始めたディレイラーも調整してもらう。
交換したタイヤはこちらで引き取りましょうか?という申し出を丁寧に断り、パニアバックの底に大切にしまう。このすり減りきったタイヤが、きっと日本までのお守りになってくれる。
お世話になったショップスタッフの皆さん
スプロケを模した格好良い時計がかかってた!欲しい!
宿に戻って荷物をピックアップし、完璧な整備ですっかり走りやすくなったバイクでご機嫌に次の街を目指していると雪がパラつき始めた。緯度も大分下がってきている。最南端は近い。
16:30 目的地のトルウィンに到着。早速街の中心部にある一軒のパン屋さんへ向かう。そこは自転車旅行者には超有名な店で、何とチャリダーなら誰でも無料で泊まらせてもらえるらしい。
お店に入るとパンの美味しそうな匂いがする。カウンター越しにスタッフに恐る恐る「今日泊めて欲しいんだけど…」と伝えると満面の笑みで頷いてお店の裏側の建物に案内してくれる。導かれるままに地下に降りると、そこはパン粉や様々な調理器具がストックされている倉庫のような場所で、既に数人の自転車乗りたちが談笑している。
ベッドも最後の一台が空いていた。
バックを下ろし、これも旅行者用に開放されているシャワールームでサッパリしてから、お店のサンドイッチとビールの夕食。自分のSNSの投稿を見ながら、改めてボリビアからの長い旅路を振り返る。
明日はいよいよ最南端に到達する。緊張と興奮で眠れないかと思い、眠り薬代わりに数冊の本をkindleにダウンロードしてシュラフに潜り込む。しかしそれは全くの杞憂。耳栓をして目を閉じた途端、旅の感傷に浸る間もなく、あっという間に眠りに落ちた。
(本日の行程)
リオ・グランデ~トルウィン 112km
2023/3/29(83日目)
7:00 すっかりお世話になったパン屋さんで朝食を頂き、今旅のラストランスタート。
スッキリと晴れ渡り、絶好のゴール日和
残り100kmを切った
あの山の向こう側にウシュアイアがある
道沿いのレストランで最後の補給
東京から遥か17000km。地球の裏側で走り続けた私の旅がもうすぐ終わる。
最後の峠を上る
振り返った彼方にお世話になった人々の顔が浮かぶ
雲の切れ間から差し込む光が私と相棒を祝福してくれる
粉雪の中を下っていく
標高4000mの砂漠の道
寒暖差30℃のアルゼンチン横断
世界一美しいパタゴニアの林道
そして世界最南端の最果ての島
相棒と二人三脚で走り抜けてきた約8000kmの道のりが走馬灯のように思い出されていく
そして…
2023年3月29日15時2分 日本を出国して83日目
私は南米最南端のウシュアイアに到達した。
(本日の行程)
トルウィン~ウシュアイア 105km
(今旅の全行程)
(続く)
星野 耕平
でかい波、高い山、長い道が好き。
トレラン歴は約15年。UTMB、Tor Des Grants、Andorra Ultra Trail等完走。
自主イベントとしては自転車日本縦断、歩きお遍路結願等。
座右の銘は「No wave,No life.」
個人ブログ:100mile
http://kh100mile.blog.fc2.com/