アカウント カート オンラインストア

BLOG

2023年4月24日

Run boys! Run girls!

29

SOUTH-南米編- ⑫チリ~アルゼンチン(世界一過酷な国境越え)

星野さんの南米自転車旅行は第12回目です。
「世界一の林道」アウストラル街道を通り抜けたのも束の間、今回は「世界一過酷な国境越え」に挑戦です。
これまでの SOUTH-南米編- は以下リンクからどうぞ。
①プロローグ
②出国~ボリビア(ラパス)
③ボリビア(コパカバーナ)
④ボリビア(ウユニ塩湖)
⑤ボリビア(宝石の道)
⑥チリ(入国~サンティアゴ)
⑦アルゼンチン(入国~メンドーサ)
⑧アルゼンチン横断(メンドーサ〜ブエノスアイレス)
⑨アルゼンチン横断2(ブエノスアイレス〜バリローチェ〜チリ再入国)
⑩チリ(アウストラル街道 前編)
⑪チリ(アウストラル街道 後編)

2023/3/17(71日目)

アウストラル街道のゴール地点となるオヒギンズ村からは再びアルゼンチンに入る。そしてそのルートは自転車乗り達から「世界一過酷な国境越え」として恐れられているらしい。

行程としては以下のとおり。

①パタゴニアの山々の谷筋を縫うように広がるサン・マルティン湖をボートで渡る。

②自転車で国境を越えてアルゼンチンへ入る。

③再びボートでカニャドン・デ・ロス・トロス川を渡る。

④林道でエル・チャルテンの街へ。

この4セクションのうち、②がほぼ登山道であることが過酷と呼ばれる所以らしい。ただオヒギンズから南下するにはこのルート一択なのでどんなに脅かされたって行くしかない。

という事で、まずは①のボートのチケットを入手するために、運航しているホステルのオフィスに行ったところ、営業時間は18:00~21:30となっている。どうやらボートの運航可否は、船長が前日の夕方に、翌日の天候や風の予報を踏まえて決定するので、購入はその時間にならないと出来ないということらしい。

仕方ないので18:00に出直したんだけど、まだオフィスは開いていない…。その後、ツーリストに相談したり、WhatsAppで連絡したり、ヤキモキしながら連絡を取り続け、21:00過ぎにやっと開いたオフィスでチケットを無事ゲット。自転車も含めて66,000ペソ(11,000円)。何か既に過酷なんですけど…。

チケットの入手にてこずった事もあり、結局、オヒギンズ村には3泊した。

お世話になったキャンプ場。広いテントサイトに加え、共用スペースにはWi-Fi、薪ストーブ、可愛い猫までいて超快適。一泊8000ペソ(1300円)。

夜は同宿の皆さんと宴会。

この旅で初めて日本人の旅仲間に会えた!!大学生のアキラ君はサンチャゴから南米を縦断中。

アウストラル街道の汗と泥を洗濯してサッパリ。

バイクも洗車して注油。

タイヤのブロックが完全にすり減ってスリックタイヤみたいになっていたため(写真右)、こんなこともあろうかと予備で持ってきた新しいタイヤ(写真左)に交換しようとしたら、何とはめる時にタイヤレバーを一本折ってしまう…。結局交換は諦めて、古いタイヤにもう少し頑張ってもらうことにしたんだけど、これが後々ドラマを生むことになる。

出発前日の夕方、村に一軒のパン屋さんに最後の買い出しに行く。滞在中は毎日通ったため店員のセニョリータともすっかり顔なじみになった。年齢は恐らく30代前半くらいですっきりとした顔立ちのチリ美人。英語も話せるし、オーガニックなエナジーバーを自作してたりして、こう言っては失礼かもしれないけど、この小さな村のパン屋の店員としては不釣り合いなほどインテリな印象。

たまたまお客は私しかいなかったので、買い物をした後、少し雑談をする。彼女はサンチャゴの大学を出た後、しばらく首都で働いていたけど数年前に故郷のオヒギンズ村に戻ってきたそうで、チリ以外の国は行ったことが無いし、国内もサンチャゴとオヒギンズしか知らないという。

「他の場所に行ってみたいとは思わないの?」と聞いた私に彼女はニッコリ笑って「この村が一番好きだから全く思わない」と言う。何故だか少し悔しくなって「でも他の国を見たことがないんでしょ。それなのに何故分かるの?」と思わず聞いてしまう。すると「見たことが無くても分かる。だってこの村に不満が無ければ、わざわざ比べる必要は無いし、比べなければいつだってここが一番でしょ。」と。

確かに…。飛行機や鉄道、高速バス等、公共交通網の発達は国境の垣根を下げ、往来を容易にした。インターネットやSNSは世界の風通しを良くし、情報をフラットにした。ただ一方でそれは、他者と自分を(半ば無意識に)比べてしまうという事でもある。上を見ても下を見てもキリがない。であれば他者と比較した相対的な自分に一喜一憂せず、絶対的な現状だけを見て楽しく生きる方がQOLは高いのかもしれない。

ボリビアの宝石の道で、砂漠に一軒だけあったホステル。そこを元気に走り回っていた子供たちの笑顔と、それを優しく見守る両親の姿が何故だが急に思い出された。

2023/3/20(74日目)

村から港までは距離にして8kmほど。ボートの出航時刻に合わせて未明から出発し、まだ薄暗い港には7:30頃到着。

港にはアウストラル街道終着地点の看板があった。

ネコをカイロにして出発を待つ。

8:15 乗船開始。同乗者は10人ほど。バイクはバラす必要は無く、バックだけ外して車体はそのまま積み込む。

8:30 出航。快晴の下、小型のボートは穏やかな湖面を滑るように進んでいく。

ただ後半になると風向きが変わり、大きなうねりを断続的に乗り越えるようになり、その度にボートは上下に大きく揺れる。デッキに出ていた人たちも皆、船内に戻り椅子につかまって必死で揺れに耐える。

10:30 若干ぐったりして対岸に到着。

10:45 パッキングして出発。最初は湖に沿ってなだらかに漕ぎ上がっていく。

1kmほど走るとチリ側のイミグレに到着。

審査官は一人しかいなかったので、同船だった皆さんと仲良く並んで手続きを待つ。

パン屋で購入したチリ美人お手製のエナジーバーで補給。しっとりした口当たりで美味しい。

12:00 無事イミグレを通過し、いよいよ世界一過酷な国境越えの道に突入。

美しい林間のグラベル。

サラサラと流れる小川に優しく日差しが差し込む。

フィッツロイが見えた!

鼻歌交じりに快適に走っていると、山中に突然チリとアルゼンチンの国境を示す看板が現れた。

そしてここから道は一変する。さっきまでの走りやすい林道が嘘のように道は細く、険しくなっていく。

これはもうグラベルというよりトレイル。

倒木を乗り越え

小川を渡渉する

この橋はさすがにパッキング状態では渡れないので、バッグを外し、往復してクリア。

荒い息を吐きながら、難所を一つひとつ越えていく。時折見えるフィッツロイが疲れた心を癒してくれる。

16:00 アルゼンチン側のイミグレに到着。

結局走行(≒歩行)時間は4時間程。終わってみれば障害物競争のようで楽しかったけど、そう思えるのも晴天だったからこそ。これが雨天だったらと思うとゾッとするかも…。

ここからは再びボートで対岸に渡る。ただしボートは翌日の11:00出航のため、今日は湖畔でテン泊。

広々としたテントサイトからはフィッツロイが一望できる。皆、思い思いの場所にテントを張る。

渡渉でドロドロになったズボンや靴を湖で洗い、日向に干す。体感気温10℃前後の中、湖で身体を洗うストロングスタイルの人もいたけど、私はウェットティッシュで我慢。

フィッツロイに沈む夕日を眺めながら、プラティパスで大切に運んできた赤ワインをマグカップにそそぎ、口に含む。鼻孔に抜ける香りと共にゆっくり飲み込むと、疲れた脳と身体に仄かな甘みがじんわりとしみ込んでいく。

南米の遅い夕暮れ。至福の時間は日が沈むまで続いた。

2023/3/21(75日目)

目を覚ましテントから外を見ると今日も快晴。フェリーの出航までは時間があるため、朝日に輝くフィッツロイを眺めながら湖畔を散歩する。

夕方にはエル・チャルテンの街に到着できる見通しが立ったため、重いものから消費すべく、朝食はツナとトマトソースのパスタ。

10:30 対岸へのボートが到着。

ところが、ここで問題が発生。このボートの代金は船内で払うのだけど、何とキャッシュオンリーで、しかもドルかユーロかアルゼンチンペソしか使えないとの事。えーっ!昨日、チリからトレイルで国境を越えて、まだ両替所が無いのでアルゼンチンペソなんか持ってないし、ドルとユーロは言わずもがな。一応、湖沿いには対岸に繋がるトレイルが通ってはいるので、最悪、そこを進むことはできるけど、距離は10km以上あるので、昨日の苦労を考えるとできれば行きたくはない…。

と、困り果てている私に、オヒギンズ村からここまで一緒に進んできた旅仲間の一人が「どうせ、エル・チャルテンまでは一緒なのだから、僕が立て替えるよ♪」と言ってくれた!おぉ、神!ありがたく申し出を受け、米ドルで50ドルを立て替えてもらい、無事、乗船。あ~、良かった…。

12:30 ボートは対岸の港に到着。

ここからエル・チャルテンまではグラベルで約40km。ここからはドイツ人のアレックス a.k.a 神と、この旅、初めてのデュオライド。決して走りやすいとは言えない道だったけど、アレックスや他の旅仲間とお喋りしたり、抜きつ抜かれつしながらのんびりポタリング。

途中でパタゴニアのロゴマーク!?と思うような画角の場所があって、興奮して写真を撮ったけど、後から見たら全然違った。

↓私が興奮して撮影した写真

↓本物はこちら。全然違う…

15:30 エル・チャルテンの街が見えた。

エル・チャルテンの街に到着し、アレックスが目星をつけておいてくれたホステルに一緒にチェックイン。一泊5000ペソ(2000円)。

プエルトモントを出発して以来、3週間ぶりのベッド!

立て替えてもらったお金も無事に清算。本当に助かりました!

無事の国境越えに祝杯。

2023/3/22(76日目)

本日は休息も兼ねて一日停滞。ただ、実はあまりのんびりしている暇は無い。

トランキーロで立てた逆算行程としては、ここからラストランの舞台となるフエゴ島まではスケジュール的に自走する余裕が無いためバスワープする予定。なのでまずはフエゴ島への入り口となるプンタ・アレーナスまでのバスチケットを入手する必要がある。また結局交換できなかったタイヤの交換とタイヤレバーも出来れば入手しておきたい。

朝食を食べた後、散歩がてらまずはバスターミナルへチケットを買いに行く。

エル・チャルテンはフィッツロイのお膝元という事もありトレッキング拠点となっており、街中には山岳リゾートらしいモニュメントが幾つも立っている。

こちらのベンチはバックパックの形

BCバージョン

街の入り口でフィッツロイとともに

バスターミナルで聞いたところ、プンタ・アレーナスまでの直行便は無く、まずは200kmほど南下したエル・カラファテまで行き、そこでバスを乗り継ぐ必要があるとの事。なのでまずはカラファテまでのチケットをゲット。出発は翌日の13:00。値段はバイクと合わせて7800ペソ(3,000円)。

続いてタイヤ交換をすべく、Googleマップで調べた自転車屋に行ってみたのだけど、残念ながら営業しておらず…。

宿に戻って、久しぶりのステーキで栄養補給♪

ホステルの共用部に日本語の本があったため、キャッチャー・イン・ザ・ライ(村上春樹訳)を再読。アイデンティティーを求め放浪するホールデンの姿は、以前読んだときは単なる中二病に思えてしまったけど、自身も社会から切り離された旅の空の下で読むと全く違った読み心地で思わず読みふけってしまう。

2023/3/23(77日目)

バスの出発時刻は13:00。ただ宿のチェックアウトは10:00だったので、出発までどうやって時間をつぶそうかな~と思っていたら、タイミング良く、所属するランボーズマイラーチームのチームメンバーによる講習会がオンラインで開催されることに。開始時刻は日本時間の21:00。地球の裏側のアルゼンチンでは9:00からということになる。

8:50 宿をチェックアウトして共用スペースの一部をお借りし、チームのzoomミーティングにアクセス。画面越しとはいえ、久しぶりの日本語と懐かしい仲間たちの顔に癒された。

11:30 宿を自走で出発し、バスターミナルでバイクをパッキング。

バスの出発までビールを飲みながらフィッツロイにお別れのご挨拶。

13:00 カラファテ行きのバスに乗り込む。いつもながら南米の高速バスは定刻通りに運航するので安心。

車窓から外を眺めていると、カラファテに自走で向かうチャリダーカップルを追い越した。恐らく彼らが3日程かけて進む距離を私は3時間ほどで行ってしまう。期間の制約があるため仕方ないとはいえ、何だか後ろめたい気持ちになってしまう。

15:45 カラファテに到着。

ここでは、何はさておきプンタ・アレーナスまでの乗り継ぎバスのチケットを入手する必要がある。早速ズラリと並ぶ各バス会社のチケットセンターをハシゴして情報を集めたところ、以下のとおり。

・まず、ここカラファテからプンタ・アレーナスまでの直行便は無い。

・中継地点の選択肢は2つ。①ここから国境を越えて南下したチリのプエルト・ナタレス、②一旦アルゼンチン国内を東へ横断したリオ・ガレゴス。

・①、②ともにプンタ・アレーナスまでの乗り継ぎチケットはここでは買えず、現地のチケットセンターで購入する必要がある。

それぞれの出発時刻は①が翌16:00に対して②は翌3:00と早かったので、②のチケットを購入した。5640ペソ(2,300円)。

出発まで時間をつぶすため、バスターミナルから徒歩1分にあったピザ屋に入り、ピザを食べながらビールを飲んでいると、オヒギンズ村で出会った日本人旅行者のアキラ君から、ちょうどカラファテに到着したとのメッセージが入った!おぉ、ナイスタイミング!!

これから宿泊しているキャンプ場で同行の旅仲間たちとBBQをするとの事だったため、食べかけのピザを手土産代わりに包んでもらい、バスターミナルから2kmほどのキャンプ場へ歩いて行く。

無事合流し、アキラ君の旅仲間で韓国人のミンギの手料理に舌鼓を打つ。彼はなんと2年ほど前から自転車で旅をしていて、カナダを東から西へ横断した後、南北アメリカを縦断してきている。

ミンギ特製のアサド(薪の煙で食材を燻す南米特有のBBQ料理)

ミンギの旅のルート すげー!

途中からイタリア人のアレンソも合流して、今まで行った国やこれから行きたい国、走ってみたいルート等、自転車旅行談義で盛り上がる。

共通するのは、皆、物理的にも精神的にも視座が高く自由だという事。地球を俯瞰して語られる言葉達は、国境や大陸をまるで隣町に行くようにあっさりと越えていく。

年齢も国籍も社会的な立場も関係なく、自転車と旅人という共通項に導かれた一期一会。忘れられない出会いがまた一つ増えた。

2023/3/24(78日目)

後ろ髪を引かれまくりながらバスターミナルに戻り、バスの出発時刻まで仮眠。

3:00 リオ・ガレゴスに向けて出発。

東の空が明るくなってきた。

7:00 リオ・ガレゴスに到着。

10:00 バスのチケットセンターが開くのを待って確認したところ、無事に15:00発のバスチケットが取れた。6000ペソ(2400円)。

15:00 いよいよ最終目的地のプンタ・アレーナスに向けて出発。そして今旅初のバスでの国境越えになる。

16:00 アルゼンチン側のイミグレに到着。車内でしばらく待った後、運転手の指示に従いながら、乗客全員でゾロゾロと出国審査の手続きへ。手続き自体はパスポートを見せて名簿をチェックするだけなので一瞬で終わった。

17:00 バスで10分ほど走ると今度はチリ側のイミグレ。

こちらではパスポートの確認と一応荷物チェックがあった。パニアバックはx線の検査機に通したけど、バイクは輪行バッグの中を上からチラッと除いただけでOKだった。

今回の旅行では何度も国境を越えたけど、その全てにおいて荷物を開けて細かくチェックされることは無かった。ただ前後に並んだ欧米人や南米人の旅人たちは、リュックの中身を全て出すよう指示されていることもあったので、これは南米における日本人の評価と言って良いのだと思う。宿へのチェックインや店での買い物時、また同宿になった他の旅行者との会話においても、私が日本人だと名乗った際に向けられる視線は常に好意的だったし、直接、日本人はジェントルマンだと言われたこともあった。そして、それらはリップサービスを超えた素直な感想であり、日本人として誇るべきアイデンティティなんだと思う。

19:40 プンタ・アレーナスにはギリギリ日が沈む前に到着。

大急ぎでバイクを組み立て、Googleマップで探したキャンプ場に無事チェックイン。

世界一過酷な国境を越え、3本の長距離バスを乗り継ぎ、とうとう最終目的地のプンタ・アレーナスに到着した。いよいよ明日はフェリーでラストランの舞台となるフエゴ島に渡る。

ゴールとなるウシュアイアまでは、残り450km。

3ヶ月に渡る旅の終わりが、始まる。

(続く)

星野 耕平

でかい波、高い山、長い道が好き。
トレラン歴は約15年。UTMB、Tor Des Grants、Andorra Ultra Trail等完走。
自主イベントとしては自転車日本縦断、歩きお遍路結願等。

座右の銘は「No wave,No life.」

個人ブログ:100mile
http://kh100mile.blog.fc2.com/

PROFILE

Run boys! Run girls! |

Run boys! Run girls!は、東京都千代田区東神田(馬喰町駅)のトレイルランニング・ランニング専門店です。物販だけでなく、情報発信や、ランニングイベント、交流イベント等を行い、トレイルランニング・ランニングの魅力を多くの人に伝えていくことを目的としています。

WEB: https://rb-rg.jp/

PICK UP

RELATED POST

商品を探す
閉じる