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2019年4月23日

クワバラ

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UTMF直前。ロングレースの胃腸トラブル、その症状、原因、対処法

長距離のトレイルレースで多くのランナーを悩ませる胃腸トラブル。初心者だからなるというわけでもなく、トップランナーですらこの問題でレース中に苦しんでいるのを幾度となく目にしてきました。僕も過去5度ほど100マイルレースを走っていますが、その全てで胃腸トラブルを発症していますし、それより短い距離のレースでも胃腸トラブルに見舞われたこともあります。あんまり威張れることではないですが(笑)

100マイルレースのみならず大抵のトレイルレースでは、レース中に補給をしなければエネルギーが枯渇してしまうため、レースを通じて胃腸が補給を受け付けるか受け付けないかというのはレースの結果を左右する大きな要素になってきます。

でも、その割に胃腸トラブルに対する明確な解決方法ってないような気がしませんか?

Run boys! Run girls!オープン前の2012年にこのことについて友人でトレイルランとトライアスロンをする大学病院勤務のドクターに話を聞いたことがあります(彼は様々な関連論文を読んで答えてくれました)。今日はそこで得た情報を改めて整理しつつ、ロングレースで起こる胃腸トラブルとその対処法について考えていこうと思います。

元記事(facebook)「ランニング中の消化管障害について(2012/5/25)」

ちなみに、ここに書いてあることに対して、補足や別の意見・情報などあれば是非 info@rb-rg.jp までご連絡ください。皆さんのご意見を総合して、より多くのランナーの役に立てればいいなと思っています。

桑原が出場した2014UTMFの山中湖エイドにて。オーバーペースがたたって、序盤のこの段階ですでに吐き気がありました(一応完走はしました)

なぜ明確な解決方法がないのか?

経験や走力に関わらず、多くのランナーがレース中の胃腸トラブルに苦しんでいるということは、裏を返せば明確な解決方法がない、ということになります。では、どうして明確な解決方法が見つからないのか?まずはそこから考えていきます。

◼︎ そもそも胃腸トラブルにも種類がある

この後で紹介していきますが、ランニング中に起こる胃腸トラブルにも様々な症状や原因があります。それをいっしょくたにして、「胃腸トラブル」としてしまうため、最適な解決方法が取れない、ということがあるのではないかと思っています。

◼︎ 症状の原因が不明のものが多い

友人のドクターが色々論文を読んでくれたんですが、それぞれの症状についてもその原因が不明だったり、原因と思しきものはあるがそのエビデンス(証拠)がないものが結構あった様です。原因が不明なものって中々対応できないですよね…。

胃腸トラブルにもいろんな種類があり、さらにそれらには原因不明のものも多い、そりゃ明確な解決方法がないわけです…。とはいえ、僕的には友人からいただいた情報と過去の経験を整理することで対策が少し見えて、実際自分もレースでそれを実践することで多少は胃腸トラブルを軽減できている実感もあります。ので、諦めずに続きを読んでください笑

 

トレイルランニングで起こる胃腸トラブルの種類

まずは、トレイルランニングで起こる胃腸トラブルの種類について紹介してみます。グレーで囲われた引用部分が友人ドクターからのコメント、それ以外は桑原の考察です。

1)逆流性食道炎

いわゆるランニング中の胸焼けや、ちょっと酸っぱいものがこみあげてくるあの感じをさす。どちらかというとランナーよりサイクリストに多いが、100mileレースでは選手の47%にこの症状が発生するとも。原因は食道と胃の境目の運動障害(ランニングのストレスによるもの?)。ランニング中に心臓が痛いと思ったらこの逆流性食道炎だったりすることもある。

2)吐き気、嘔吐

原因は消化管の虚血(筋肉に血流が持っていかれる、一説には血流が1/5になるとも)や、いろいろ言われているが、実はあまり証拠がない。しかし、長いレースで予防的、あるいは治療として痛み止め(バファリンやロキソニン)を使うと、明らかに吐く確率が上がる。

友人のコメントには書かれていませんが、トレイルレースでは大量の発汗による脱水や、軽度〜中度の熱中症状態になることもあります。それらの症状には、吐き気や嘔吐が含まれているため、脱水・熱中症も吐き気や嘔吐の原因となる要素と考えていいと思います。

3)胃炎、胃潰瘍

ウルトラマラソンをゴールした選手の87%に大なり小なりの胃潰瘍、出血が発生しているというデータあり(実に体に悪いスポーツですね(-_-;))。原因はストレスだの免疫の低下だの言われているが実のところは不明(普段から長く走っている人には少ない)。やはり手足関節の痛みどめを使うと発生しやすくなる。

4)運動による一時的な脇腹痛

体育の授業とかで長距離走したとき脇腹が痛くなったことありません?いわゆるその脇腹痛のことです。高齢の方が少なく、トレーニング頻度の高い方にも少ないようです。

 

トレイルランニングで起こる胃腸トラブルの原因

次は胃腸トラブルの原因についてみていきます。このパートは友人からいただいた情報と2012年の投稿に寄せられた意見、それらを総合した桑原個人の考察となっていますので、その旨ご理解の上、読み進めてください、友人ドクターのコメントは引き続き引用で紹介します。ちなみに、トレイルレースでの胃腸トラブルはこれらの原因がいくつか組み合わさって起こっているのではないかと思っています。

1)物理的な胃への負担

先にも書きましたが、トレイルレースではレース中に補給をしなければエネルギーが枯渇してしまうため、レースを通じて継続的に補給をします。吸収の良いジェルのようなものからエイドで提供される固形物までその内容は様々ですが、常に食べながらハードに動き続けるアクティビティであるというのは間違いありません。ご飯を食べた直後に飛んだり跳ねたりしたらお腹にダメージがありますよね。トレイルランにおける胃というのは常にその状態に置かれているわけです。

2)頻回な(糖質の)補給

トレイルレースで主に補給されるのは糖質です。摂取してからエネルギーになるまでのスピードが早いこともそうですが、一定以上の強度になるとどうしても糖質エネルギーが必要になってくるからです。ただし、このことが胃の気持ち悪さを引き起こしているかもしれません。

2012年の投稿に「糖質は胃では消化されず、胃酸が無駄に分泌され胃の粘膜をやられる。一方、肉などのタンパク質は胃酸が余り出ない(という話を聞いた)」というコメントをいただきました。また、ネット上で「低糖質な食生活を始めたら逆流性食道炎が治った」という旨の投稿も確認しました。

胃で消化されるのはタンパク質のみで、脂質も吸収されないため、糖質だけが悪者かというのは僕には断言できないのですが、少なくとも補給は1時間に1回とか3~40分に1回という頻度で長時間(UTMFをフルに走るとすると46時間!)に渡って行われるわけで、その頻回な補給によって胃酸過多になるというのは理解ができます。

3)脱水・熱中症

トレイルランニングは、急勾配の山の登りを含むため、マイペースに走っていても運動強度が上がりやすく、発汗しやすいアクティビティです。それがレースであればなおさらで、ランナーは多かれ少なかれ脱水状態におかれやすいです。そして、脱水時の症状の一つに「吐き気」というものがあります。

また、夏場はそこに炎天下というコンディションが加わり、脱水から熱中症に発展するケースも。そして、軽度の熱中症で吐き気、中度の熱中症で嘔吐という症状があります。

個人的にも激しい脱水時に吐き気や嘔吐に繋がった経験がいくつかあるので、トレイルランナーの胃腸トラブルと脱水の関係性は大きいのではないかと思っています。

参考:「熱中症ってどう対応すればいいの? 〜夏場のランニング時の予防と対策〜」(MARK GEAR)

4)虚血

友人ドクターからのコメントで、吐き気の原因に

消化管の虚血(筋肉に血流が持っていかれる、一説には血流が1/5になるとも)や、いろいろ言われているが、実はあまり証拠がない。

というものがありました。”証拠がない”と言われていますけれど、僕はこの状態も経験があります。初めて出たハセツネでオーバーペースで潰れ気持ち悪さで動けなくなった時、止まって休んでいるときは胃の気持ち悪さは無いのに、動き出してで足に力を入れた途端に胃が気持ち悪くなったのです。明確にこの状態になったのはこのときくらいですが、程度の差こそあれ、多かれ少なかれトレイルランニングで起こりうる状況なのでは無いか?と思います。

5)痛み止めの使用

胃腸トラブルの症状のうち、吐き気と胃潰瘍の双方に痛み止めとの因果関係がありました。

長いレースで予防的、あるいは治療として痛み止め(バファリンやロキソニン)を使うと、明らかに吐く確率が上がる。

そもそも、平常時でさえ痛み止めって胃薬と一緒に処方されるので、トレイルレースにおいても胃の負担があるのは明白です。

6)冷え

汗冷えや夜間温度が寒くなった中での走行などの冷えも胃腸の動きを妨げます。

 

対処法〜じゃあどうすればいいのよ!?

原因(らしきもの)がわかれば対処もできそうな気がしてきますね。ここからは、レース時の胃腸トラブルの対処法について僕の実体験も交えて書いていきます。

1)胃のテーパリングをする

テーパリングというのはトレーニング用語で、レース直前にトレーニングをたくさん積むのではなく、トレーニングの量と負荷を減らして疲労回復を図ることを言います。

トレイルランにおいて、トレーニングのテーパリングをする人は一定数いるのですが、胃腸のケアについてはどうでしょうか?コンディションアップのためにアルコールを断ったり、夜間走行時のカフェイン摂取の効果を高めるためのカフェイン断ちなどは聞きますが、胃腸のコンディションをレースに向けて整えていく、という話はあまり聞きません。逆にレース前日の暴飲自慢は会場で結構聞きますよね笑。

ランナー仲間とのお酒も楽しいですし、それそのものは否定しませんが疲れた胃腸とフレッシュな胃腸だったら後者の胃腸でスタートした方が良いとは思います。これはまだレースまでできることだとは思うので、出場される方は少しご自身の胃をいたわってあげてはいかがでしょうか?

2)補給の頻度を減らす体質改善

体質改善なので、一朝一夕にできる話では無く、残念ながら今からUTMFには間に合わない話なのですが、これがうまくいけば物理的な胃のダメージを減らすことができます。

トレイルランは行動時間が長く、補給し続けないと必要なエネルギーが枯渇してしまうというのはここまでなんども書いてきましたが、実は運動時に使われるエネルギーというのは外部からの補給だけでなく、体に蓄えられた脂質からも供給されます。ただし、脂質からエネルギーが供給されるされないは、その人の体質によっても大きく変わります。そして、現代人はその食習慣によって脂質をうまく燃焼しづらい体質の方が多いです。

僕は昨年の5月よりファットアダプテーションという、脂質代謝を高める体質改善を行い、安静時のエネルギー消費が、糖質50%・脂質50%から糖質12%・脂質88%まで改善しました。脂質燃焼が良くなったので、実際トレイルに出てもエネルギーが枯渇しづらく、補給の頻度や量が減りました。

このファットアダプテーションという方法は、トラック100マイル走の元世界記録保持者、ザック・ビターも取り入れている方法です。これに関してはまた別の機会に詳しく説明しようと思います。

ちなみに、過去僕が完走したUTMBでは、若干の体調不良でスタート時から脱水状態だったため、ペースを抑え脂肪燃焼できるペース(完走ギリギリでした)で進み補給回数を減らし、胃腸を回復させながら完走することができました。

3)脱水に気をつける

脱水の症状に吐き気があるということは、脱水に気をつけるだけでも胃腸トラブルのリスクを減らせるということです。

基本はこまめな水分補給、電解質補給ですが、心拍数の管理というのも大切なポイント。心拍数が上昇すると発汗も増えるためです。ショートのスプリントレースならいざ知らず、トップランナー以外はロングレースで、むやみに心拍数を上げすぎるメリットはほとんどありません。

余談ですが、ハセツネがなんできついのか、というのもこれが関係していると思っています。

・昼の13時という気温の高い時間のスタート
・渋滞を避けるため自分のレベルを超えたスタートダッシュ
・序盤に一番きついアップダウンのあるコース設定

という条件が揃い、第1関門までで多くの選手が足が終わるだけでなく脱水になっていると想定されます。

4)アメリカでは定番アイテム「生姜飴」

アメリカのトレイルランナーの定番アイテムに「Gin Gins」という生姜飴があります(僕も、コロラド在住のJoe Grantが日本に来た時にお土産でもらったりしました)。どうしてこれが定番かというと、レース中の気持ち悪さを緩和してくれるからなんです。

Gin Gins自体は日本では売っていないので、僕はカルディで自分にあった味の生姜飴を見つけて、UTMBで使ってみました。先にも書いた通り、スタート時にすでに脱水状態で胃が気持ち悪かったのですが、舐めることで少し胃が楽になりました。

生姜が胃の血流をよくしてくれるので、それが吐き気の原因である虚血や胃の収縮に効くのではないかと個人的に思っています。

ただ、残念ながら僕の愛用していたカルディの生姜飴は、先日発売を終了してしまいました。選ぶ際のポイントは個別包装であることと、包み紙が開けやすいことかな。あと、ソフトタイプの方が走りながら舐めてもストレスになりにくいですね。

5)痛み止めを使うなら走らない

吐き気や胃潰瘍の原因に痛み止めの服用があることは先にも書きました。そして、痛み止めを使ってのレース出場というのは、胃腸トラブルの原因云々以前に考えねばならない問題です。

予防的に痛み止めを使用してのレースや、痛み止めを服用してのレースというのは、リスク管理的にも身体へのダメージ(大量発汗時の鎮痛剤使用は腎臓に大きなダメージがある)的にもそもそもするべきではありません。痛み止めの服用は怪我をして下山しなければならない時など、緊急時の使用にとどめ、痛み止めを使わなければレーズが続行できないような状態になったら潔くリタイアをしましょう。

6)胃を冷やさない、温める

冷えが胃腸の動きを妨げるので、冷え対策をしましょう。汗冷えしないインナーを着る、腹巻きを使うなどのウェア面からの対策もできますし、白湯を飲んで胃を温めるのも効果的です。

7)寝る

これも経験談ですが、レース中に「気持ち悪くて動けない、もうだめだ」と思ったものの、思い切ってまとまった時間の睡眠をとったら、気持ち悪さがすっと消えたことがあります。時間に余裕がある場合はエイドで睡眠をとってみましょう。サポーターがついている場合は寝袋やブランケットなどを用意してもらうのも良いかもしれません。

8)胃薬を飲む

逆流性食道炎にはプロトンポンプインヒビター(PPI、病院で処方されるようです)を服用、それ以外の吐き気にはPPIやH2ブロッカーをレース前1時間の時に内服、50マイル走るごとに一錠追加などの対応があるようです。これらに関しては、医師や薬剤師など専門家の判断を仰ぎ、無理のない範囲での使用をしてください。

9)その他

その他、友人ドクターが調べてくれた、一般的な(総合的な)レース前の食事その他の対策としては

1 一度にたくさん食べない、ゆっくり食べる
2 レース、トレーニングと食事の間は長ければ長いほど良い
3 ガスを産生しやすい食べ物(ブロッコリー、玉ねぎ、豆類)を食べない
4 繊維成分の多いものを食べない
5 コーヒー、カフェインを避ける
6 レース前に流動食をいくつかためし、慣れたものを使う
7 いきなり無茶なレースをしない、練習計画を組んで徐々に体のベースの力をつけて臨む
8 ビタミンC、重曹、炭酸や糖分を多く含んだ飲料をがぶ飲みしない
9 脱水は厳禁
10 レース前にトイレは行っとけ

などがありました。

 

 

以上、ロングレースでの胃腸トラブルに関する情報をまとめてみましたが、いかがでしたでしょうか?

友人のドクターが調べてくれた内容をベースにしつつも、僕の経験談や考察なども多分に含まれていますので、エビデンスという点で弱い部分もあるのですが(そもそもエビデンスがはっきりしていないものもかなりあるようでしたが)、皆さんの参考になれば幸いです。

また、最初にも書いたように、皆さんでもお持ちの情報があれば教えていただけると嬉しいです。

UTMFまであとわずか、皆さんのご健闘を祈っています!

PROFILE

クワバラ | Kei Kuwabara

Run boys! Run girls! 店主。体重が増減しがち。その分ダイエット得意がち。2020年に何かの大会で10位以内に入るプロジェクト」通称「にな10」を立ち上げるもコロナ禍やなんやかんやで頓挫。UTMF、UTMBや、Pine to Palm(Oregon / 100mile)、OMM (UK)などを完走しています。

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