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2023年4月17日

Run boys! Run girls!

16

SOUTH-南米編- ⑪チリ(アウストラル街道 後編)

星野さんの南米自転車旅行は第11回目です。
チリに再入国して「世界一の林道」と呼ばれるアウストラル街道を南下中です。今回はその後半です。
これまでの SOUTH-南米編- は以下リンクからどうぞ。
①プロローグ
②出国~ボリビア(ラパス)
③ボリビア(コパカバーナ)
④ボリビア(ウユニ塩湖)
⑤ボリビア(宝石の道)
⑥チリ(入国~サンティアゴ)
⑦アルゼンチン(入国~メンドーサ)
⑧アルゼンチン横断(メンドーサ〜ブエノスアイレス)
⑨アルゼンチン横断2(ブエノスアイレス〜バリローチェ〜チリ再入国)
⑩チリ(アウストラル街道 前編)

2023/3/8(62日目)

7:30 2日分の食料とワイン、そして溢れるほどの期待をバイクに積んで、朝焼けのキャンプ場を出発。

ここから次のセロ・カスティージョ村まではまだ舗装されている。

朝方こそ冷え込んだものの太陽が昇り日が差すと寒さも緩み穏やかなサイクリング日和に。補給等のためにゼロデイを一日設けたことが奏功し、脚も軽い。骨伝導イヤホンから流れるチルなサーフミュージックに乗って軽快に走る。

普段は30km走行または2時間経過のどちらか早い方がきたら小休憩を取るんだけど、気づいたらあっという間に3時間、距離にして40kmを走っていた。

ちょうど清流があったので南アメリカの天然水を補給し、河原に腰を下ろす。走り続けて火照った頬に水面を撫でて吹く風が心地よい。

目的地のセロ・カスティージョ村には15:00頃到着。ほぼ時速15kmで想定通りの時刻に到着できた。

村内には幾つかキャンプ場があったのでGoogleマップの口コミ評価の高かった比較的新しめなところに行ってみると、受付のセニョールは英語がペラペラで水回りは清潔。テン場も広くてキッチンは暖かい。これで一泊7000ペソ(1200円)だったため、本日のサイトはこちらに決定。

置き型のハンモックもあった

清潔なシャワーとトイレ

共用キッチンはドームテント

テン場からはカスティージョ山が見えた

(本日の行程)

コイヤイケ~セロ・カスティージョ 105km

2023/3/9(63日目)

暗がりの中、いつものように撤収作業をしていると真っ暗だった東の空にぼんやりと山の陰影が浮かび上がる。曖昧だった空との境界は徐々に輪郭が際立ち、同時に空の色も黒から濃紺そして鮮やかな紫色へとグラデーションしていく。毎朝見る夜明けの景色。でも同じ空は一度もない。それはまるで毎日別の画家が描く絵画を見ているよう。

そして今日も新たな世界に漕ぎ出す。

アウストラル街道の夜明け

あまりに景色が美しいので、何度も自転車を止めて写真を撮ってしまい、なかなか進まない。

早くここまで来いと誘うように虹がかかる。

道がいよいよ未舗装路になった。

すれ違うサイクリスト達とエールを送り合う。

午後になると空に徐々に雲が広がり、ポツポツと雨が落ちてきた。

今日のキャンプ予定地は、コイヤイケで同宿になったサイクリストに教えてもらった廃屋。iOverlanderでの評判も良い。

14:30 雨の中、到着。

入り口には「CYCLITS WELCOMED」の文字。

早速設営。

ファイヤーピットがあったので、廃屋内にあった木材を集めて火を起こす。

川から水を汲んで、すっかり暖かくなった室内でいつものパスタとワイン。

到着時には一人だったけど、夕方になってサイクリスト達が続々と到着してきたので、干していたレインウェアとキッチンセットを片付け、自転車も外に出した。それでも最終的に屋内だけではテントが張れず、私も含め先着の3張は屋内、その他の方は屋外に張ることになった。

屋内の一区画を共用スペースとして空け、皆で車座になって食事。私も食事は済んでいたけど飲み物を片手に参加する。メンバーの国籍はスイス、ブラジル、スウェーデン、フランス、そして日本とバラバラ。

お決まりの自己紹介と通ってきたルートの共有が終わると、何故か自分が住んでいる都市の人口と面積を言う流れになった。えっ?東京の人口と面積なんて知らない…、と焦る私を他所に、皆さん戸惑うことなく自身の出身地の情報を披露していく。自分の番になって口ごもる私を見て、隣にいたスウェーデンカップルがササっと携帯で検索して画面を見せてくれたので、何とか流れを止めることは無かったけど、完全に皆にはばれてたと思う。※ちなみに人口は約14百万人、面積は約2,200㎢だった。

知らない世界に触れたい、知りたいと思って始めた旅なのに、私は定量的な比較指標としては物価しか見ていなかった。旅する国の規模や位置はその国を地政学的に理解するためには必須で、だからこそベンチマークとして自国のデータは必ず知っている必要がある。なので私以外の皆さんはちゃんと把握していたのだろう。

自身の教養の無さを猛省しつつ、一方で自国を強制的に客観視できたことに感謝しつつ就寝。

(本日の行程)

セロ・カスティージョ~名も無き廃屋 65km

2023/3/10(64日目)

7:00 まだ寝ている皆さんを起こさないようコソコソ準備して、まだ暗がりの中、出発。天気予報によれば夕方から雨が降るらしいので、出来れば早いうちに今日の宿泊予定地となるトランキーロに着いておきたい。

嬉しいことに道は引き続きグラベルではあるものの、砂利が細かく、また固まっていてとても走りやすい。

アウストラル街道の舗装計画の看板。記載によれば昨年末から約7千万円をかけて工事が始まっているらしい。私の見る限り完工時期の記載は無かったけど、もし舗装路になればもっと走りやすくなって良いな~、なんてこの頃はまだ思っていた(前フリ)。

湖の色が美しい。

予定通りトランキーロには12時過ぎに到着できた。板張りのテントサイトに設営。一泊5000ペソ(830円)。

このトランキーロからは、世界一美しい洞窟と称される「マーブル・カテドラル」という大理石の洞窟にボートで行くことが出来る。ただ私はいわゆる観光名所には(特に一人で行くのであればなおさら)興味が無いのと、ボート代も勿体ないのでスルー。

ちなみにマーブル・カテドラルの写真はこちら↓

夕方からは予報通り雨が降ってきたため、食料とお酒を買い込み共用キッチンで飲み会。

(本日の行程)

名も無き廃屋~リオ・トランキーロ 54km

2023/3/11(65日目)

朝、起きるとテントの外は大雨。予報によれば日中にかけて雨はさらに強くなり、深夜まで降り続くらしい。ずぶ濡れのテントを撤収して、雨の中、出発する気にはなれなかったので停滞することに決定。延泊料金を払いついでにキャンプ場のオーナーにテントとバイクをどこかに避難させてもらえないか頼んでみると、薪小屋を使って良いとのこと!これは助かる♪早速、テントとバイクを移し、荷物をもって暖かい共用部に引きこもる。

同じく停滞を決め込んだフランス人のご夫婦とこの先の路面状況や野営地等の情報を交換したり、イギリス人の若者から手作りパンをご馳走になったりしながらぼんやりと考える。

宿泊場所としてキャンプ場を選択するような旅人は、基本的にはコストコンシャスな場合が多い。ただ、その上で何を優先するかは人それぞれ。例えばフランス人のご夫婦は、予定した旅行期間内にお二人でなるべく沢山の美しい景色を見ることが最優先で、ルートやゴールには拘っていないとのことだったし、イギリス人の若者は菜食主義者で、食事は全て自炊し如何にヘルシーに旅するかを大事にしていた。

「制限があった方が人間の創造性は高まる」という研究結果があるらしいけど、確かに完全なフリーハンドより、制限と言うか拘りポイントみたいなものがあった方が、そこを軸としてより効率的かつ満足度の高い旅ができるような気はする。

では私の場合は…?

私の旅の制限は、4月上旬までに必ず日本に帰るということ。であれば、ここまで半ば意図的に曖昧にしていた今後の旅のスケジュールを確定させた方が今後の旅は楽しくなるということだ。

漂流していた思考が無事に具体的な作業に着岸したため、それからはゴールから逆算した行程表の作成をして過ごす。

2023/3/12(66日目)

予報通り、雨はすっかり上がった。

今後の行程を明確にしたことに呼応するようにすっきりと晴れ渡った空の下、私も晴れ晴れとした気持ちで走る。こんな事ならもったいぶらずにもっと早く決めてしまえば良かった。

相変わらず道は走りやすいグラベル。昨日、雨が降ったことで木々の緑は鮮やかさを増し、湖の青にも乳白色が溶け込み柔らかく光る。

14:00 ベルトランドのキャンプ場にチェックイン。一泊15,000ペソ(2500円)と今までのキャンプ場に比べるとグッと良いお値段だったけど、その分、屋根、間仕切り、BBQコンロのある立派なサイト。

キャンプ場にはピザの屋台が併設されていた。豪華なキャンプ場にチェックインしたことで何だか気が大きくなってしまい、久しぶりに店舗での食事。

ピザとビール最高!

(本日の行程)

リオ・トランキーロ~プエルト・ベルトランド 67km

2023/3/13(67日目)

本日の行程は約50km先のコックランまでとしていた。距離的にはちょっと短いのだけど、コックランから先、ゴールのオヒギンズまではまだ230kmくらいあり、その間、しっかりした補給ポイントが無いらしい。また明日は朝から雨予報なので雨量によっては停滞の可能性が高い。なので最後のエイドステーションとして野宿ではなく屋根のあるところに泊まって、しっかり補充をしてから突入しようという計画。

20kmほど走ったバス停で小休止。

パタゴニア国立公園のエリア内に入ると、道は山肌に沿ってじりじりと高度を上げ始めた。眼下にはパタゴニアの雄大な自然が広がる。

これまで自転車乗りとしては、何だかんだ舗装路が一番走りやすくて良いと思っていた。でもアウストラル街道については舗装されたアスファルトではなく、大地がむき出しになったグラベルであるべきなんだと思わされる。風景としての親和性はもちろん、不安定な砂利道や繰り返すアップダウンを自らの脚で乗り越えていくという体感こそが世界中の自転車乗りを魅了し、世界一の林道と称される理由なのだろう。

何だかデジャブだな~と思ったら、そうだ、これは初めてトレイルランニングをした時と同じ感覚だ。

気づけば彼方にコックランの村が見える。そこにアーチのように虹がかかる。なんだこの完璧な演出は。もう神様がディレクションしているとしか思えない。

12:30 コックランに到着。いくつかあるキャンプ場をじっくり吟味し、可愛い屋根付きサイトがあるCamping Cochraneに決定。一泊8000ペソ(1300円)。

キャンピングカー仕様にカスタムされた超格好良いランクル!!ルーフテントとかシュノーケルとかフォグランプ付きのフロントバンパーとか、もう琴線をかき鳴らされまくり。いつかこんな車で妻と世界中を旅してみたいな~

(本日の行程)

プエルト・ベルトランド~コックラン 48km

2023/3/14(68日目)

予報通り朝から雨。昨日、無事屋根のあるテントサイトに泊まれたので予定通り停滞することに。

晴れ間を狙ってメルカドで買い出し。

冷凍パテがすっかり気に入った。ワインはエチケットが自転車だったのでジャケ買い。

2023/3/15(69日目)

雲一つない晴天。ただ放射冷却なのか気温は0℃を下回る極寒。手袋と靴下は2枚重ね。レインの下にダウンも着込んだまま出発。

美しい…、でも寒い…

太陽が出て徐々に暖かくなる。こうなればこっちのもの。引き続き固くしまって走りやすい林道を、絶景に囲まれて走る。

空と湖。青の競演。

分け入っても分け入っても青い山。

いつもだと、いくら絶景とはいえ毎日見ていると単なる風景と化していくんだけど、何故かパタゴニアは飽きることが無い。それだけ絶景のバリエーションが豊富だという事なのかもしれない。

15:00 周囲に何も無い林間の街道沿いにポツンとキャンプ場が現れた。ゲートも開いていてどうやら営業しているらしい。今日は野宿だと思っていただけにこれは嬉しい誤算。

早速、チェックインして屋根付きサイトに設営する。

ダメもとで何か食べ物は売っているか聞いたところ、何とパンとお湯をサービスしてくれた!

サイトにはBBQ台もあったので、火を起こしてパンを焼きありがたく頂く。

明朝は雪の予報も出ていたので、万が一の停滞に備えてサイトの周囲の薪を拾って屋根の下に入れ、焚火の備えをして就寝。

(本日の行程)

コックラン~パタゴン・ブーチャキャンプ場 71km

2023/3/16(70日目)

目を覚まし、テントの中で耳を澄ますと、ポツポツと雨の降る音がしている。幸い雪にはなっていないらしい。

今日はルートの途中でフェリーに乗る。国道を繋ぐフェリーのため嬉しいことに無料で、出港時刻は10:00、12:00、16:00、18:00の一日4本。港のあるカレタ・ユンガイまではここから約50km、走りやすくなったとはいえ時間にすると約5時間はかかるだろう。暗闇のしかも雨の降る中で出発するのは嫌だったので16:00のフェリーを目指して出発することにして、ゆっくり朝ご飯を食べてから二度寝。私しかいない山中の静かなテントサイトは、降りしきる雨音が心地よいBGMになって幾らでも眠れる。

9:00 出発。ラッキーなことに私の出発に合わせるように雨もあがった。

15km走ったところにカフェがあった。期待していなかっただけにこれは嬉しい♪イソイソと入店すると英語の話せる女性スタッフが一人でやっていた。早速パンとファンタを買って店内で食べさせてもらう。

私が日本から来たというと、地図にピンを指してほしいと言う。入った時には気づかなかったけど、確かに壁に世界地図が貼ってあり、様々な国に色とりどりのピンが刺さっている。ヨーロッパが一番多くて20本ほど、南北アメリカはそれぞれ10本ほど、日本も大阪と東京に1本ずつ刺さっていた。

当たり前だけど全員がこのカフェに立ち寄り、彼女と会話をして、これらのピンを指している。何だかこの地図が、時空を超えた自転車仲間たちのコミュニティのように見えてくる。今も世界のどこかにいる先輩たちに一礼して、私もコミュニティの仲間に加えてもらった。

フェリー乗り場には14:30頃到着。

到着してしばらくすると雨が降り始める。待合室があって助かった。

フェリーは定刻通り16:00に出港。無料という事もありかなりシンプルな船で、特に客室は無かったため、私も含め自転車やバイク乗りは端っこに張られたブルーシートの下で雨宿り。

幸い乗船中に雨は上がり、キレイな虹がかかった。

対岸のリオ・ブラボーに到着。

上陸して更に30kmほど走った立派な公設シェルターが本日の宿。到着時、すでに屋根の下には先客がいた。私のためにテントをずらして場所を空けようとしてくれたのだけど、わざわざ荷物を出して移動してもらうのも申し訳ないのと、夜間から明朝まで雨の予報は無かったので、それは遠慮して外部の軒下に設営。

明日はいよいよオヒギンズ村にゴールだ。

(本日の行程)

キャンプ場~名も無き公設シェルター 89km

2023/3/17(71日目)

アウストラル街道最終日。食材を使い切るため、朝食のラーメンもチョリソーと卵2個入りの豪華バージョン。

残りは約70km。テントを撤収して丁寧にバイクにパッキングする。念のためタイヤの空気も少し足してから出発。

薄曇りの空からは光の筋が差し、等間隔で行く先を照らしてくれる。遠くに見える晴れ間を目指してペダルを踏みこむ。

昇り基調だった道は徐々にフラットにそして下り基調に変わる。

美しい滝のそばで最後の休憩。

残り7km

人工物や建物が少しずつ増えてくる。カーブを曲がるたびに村の入り口を探してしまう。

そして…

3/1にプエルトモントを出発して17日目、私は世界一美しい林道を走破し、オヒギンズ村に到着した。

(本日の行程)

名も無き公設シェルター~オヒギンズ 71km

最終的に総走行距離は996kmとなった。期間は約3週間だけど、雨天や休息、補充のためのゼロデイが3日あるので、実走日数としてはもう少し短いという事にはなる。ただ、やはりせっかくのアウストラル街道。晴れた日に気分良く走った方が間違いなく楽しいし、宿で旅仲間達とも交流出来たので結果としては停滞して正解だったのだと思う。

ボリビアのウユニ塩湖や宝石の道が、まるで別の惑星に来たかのように私の知らない地球の姿を見せてくれたのに対して、アウストラル街道は、私の知っている地球の延長線上で、ただしそのスケールを100倍くらい壮大にして見せてくれた。

「国破れて山河あり 城春にして草木深し」

人類の栄枯盛衰を高みから見下ろすような自然の圧倒的なまでの不変性。杜甫の読んだ春望の悲哀が何だか少し分かるような気がした。

(続く)

星野 耕平

でかい波、高い山、長い道が好き。
トレラン歴は約15年。UTMB、Tor Des Grants、Andorra Ultra Trail等完走。
自主イベントとしては自転車日本縦断、歩きお遍路結願等。

座右の銘は「No wave,No life.」

個人ブログ:100mile
http://kh100mile.blog.fc2.com/

PROFILE

Run boys! Run girls! |

Run boys! Run girls!は、東京都千代田区東神田(馬喰町駅)のトレイルランニング・ランニング専門店です。物販だけでなく、情報発信や、ランニングイベント、交流イベント等を行い、トレイルランニング・ランニングの魅力を多くの人に伝えていくことを目的としています。

WEB: https://rb-rg.jp/

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